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王妃殿下からお誘いされたお茶会に参加するために、タウンハウスの転移陣から王宮に移動した。

王宮の転移陣の前では、王妃殿下の侍女が待っていて本日のお茶会場所の温室へと案内される。


案内されている道中、ルチルは瞳を忙しなく動かし、横目で景色を見ていた。

どこも丹精込めて手入れしていますという庭や柱や廊下に、「将来ここに住むとか畏れ多すぎる。アズラ様、お願いだから他の方を好きになって。でも、あたしを悪役令嬢扱いしないでね」と人知れず祈っていた。


温室に着くと、侍女は王妃殿下を呼びに温室から立ち去った。

やっと息ができた気がする。


「お母様……もう帰りたいです」


「何を言ってるの。こんなに名誉なことはないのよ」


父はルチルバカだが、母はちゃんと貴族としての矜持を持っている。

父もルチルのことを除けば、ちゃんと貴族としての矜持はある。


そうなのだ。

王族と婚姻できることは、本来誉れなのだ。


「ですが、緊張に耐えられそうにありません」


「大丈夫です。王妃殿下は、陛下と同じで親しみやすい方です。何度かお会いしたことがありますが、とても優しい方ですよ」


それは何回も聞きましたーとは言えず、「はい」とだけ返事をした。


王妃殿下はすぐに現れ、頭を下げて出迎えた。

非公式だから楽にしてほしいと言われ、挨拶の後、席に着く前にいきなり抱きしめられた。


「おおおおおうひでんか!?」


「嫌だわ、もうお義母様って呼んでちょうだい」


「え? でも……それは……」


「大丈夫よ! もう私は、あなたのもう1人の母よ。ルチルって呼んでいいかしら?」


「あ、はい」


「ありがとう。ふふ、座りましょうか」


お母様とはタイプが違う妖艶な美人だけど、パンチ力がめちゃくちゃあったよ。

妖艶な美人さんなのにフレンドリー。ギャップ萌えで人気者なんでしょう。

あたしも心掴まれましたよ。


「こんなに可愛らしいルチルが、私の娘になってくれるなんて本当に嬉しいわ」


「ありがとうございます。私も、こんなにも美しい方が母親になってくださるなんて、天にも昇る心地です」


「ふふ、お上手ね」


「いえ、本当のことですから」


「ありがとう。今日呼んだのは会いたいのと、私も婚約式の準備に参加したいというお願いがあってなの」


言われている意味が分からなくて、母と顔を合わせる。


「王妃殿下は一一


「お義母様よ、ルチル」


あ、うん。アズラ様に通ずるものを感じたわ。


「お義母様は参加されていないのですか?」


「色々決めるのは、陛下の側近たちなのよ。陛下も私も確認と決定を下すだけよ。もちろんその後でアズラとルチルにも確認してもらうわよ」


「はい」


「私の時はね、何もかも全部決められて、当日為されるがまま。流行りから少し遅れた宝石だらけのドレスが嫌だったし、馬車には布だけで花は飾られてなくてね。披露パーティーも、いつもと変わりない立食パーティーだったの。特別感ゼロよ」


だから、アズラ様がドレスを贈ると言った時に反対したのか。

それに、希望をいつでも言っていいというのも、王妃殿下の計らいなんだろうな。


「とてもお綺麗で見惚れてましたが、当時はそのような心境だったのですね」


「そうなのよ。だから、終わった後に散々文句を言ってやったわ。陛下が悪いわけじゃないけど、他に言えるところがなかったもの」


紅茶を飲む王妃殿下に倣って、ルチルも紅茶を口に含んだ。


「だからね、ルチルも言いたいことは言わないと駄目よ。それが、仲良くいられる秘訣でもあるんだから」


まぁ、夫婦仲もだけど、友達だとしても言いたいことを言い合える仲じゃないとね。

相手の気持ちなんて分からないし、自分の気持ちなんて言わなきゃ分かってもらえないんだから。

どうして、言わなくても分かってもらえるなんて思うんだろう?

エスパーなんていないのにな。


そう分かっていても、言いたいことを言える人間なんて限られている。

言って嫌われたくない、言って変な顔されたらどうしようって、不安があったりするもんだし。

絶対嫌われないって確信がないと言えないものだよね。


王妃殿下は言いたいことを言っても、陛下には嫌われないって分かっていたと。そこまで愛されていると。

あら、これ惚気じゃない。


「助言、ありがとうございます。父と母も仲がいいですが、両陛下は物凄く仲がよろしいんですね。目指したい夫婦像が近くにあるなんて、とても嬉しいです」


「そんな風に言ってもらえるなんて、私の方こそ嬉しいわ」


「早速で申し訳ありませんが、相談してもよろしいでしょうか?」


「いいわよ。何かしら?」


「アズラ様のことなのですが……婚約式のドレスはアズラ様の瞳の色を使用しようと思っているんですが、アズラ様が喜んでくださるかどうか心配でして。その、気持ちが重いとは思われないでしょうか?」


王妃殿下の瞳が輝いて、両手を叩くように合わせている。


「あの子は幸せ者ね! 喜ぶわ! 確実に喜ぶわ!」


「よかったです。アクセサリーは、アズラ様の髪の色から真珠を中心に見繕うつもりなんです。ですが、アズラ様の好みが分かりません。先程、王妃殿下が一緒にと言ってくださって、とても心強かったんです。ぜひご意見をください」


「もちろんよ! 生地からデザインから全て一緒に決めましょう!」


「ありがとうございます」


「デザイナーは決めているの?」


「まだなんです。王都のお店を母と何軒か回ったのですが、ピンとくるものがありませんでした。まだ回っていないお店もありますので、そこで見つけられたらと思っています」


「だったら、王宮のお抱えデザイナーを紹介するわ」


「ええ!? ですが、立太子の式典もありますし、王宮のデザイナーの方々はお忙しいのでは?」


「いいの、いいの。大丈夫よ。ルチルのデザインが決まれば、アズラの礼服も一緒に作れるんだから好都合でしょう」


両陛下の服も作るんじゃないの? 絶対忙しいよ。


前世嫁姑問題で結構大変だったから、その経験を活かして今世では上手くって思ったけど、他に迷惑かけたらダメだよね。

でも、もう王妃殿下の中では決定みたいだからなぁ。


王宮のデザイナーの方々、本当にごめんなさい。

特に拘りなんてないから、好き勝手やってもらって大丈夫です。


と、声を大にして言いたい。無理だけど。


「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」


「そうそう、遠慮なんてしないで」


デザイナーとは後日顔合わせをすることになり、この日はどんな披露パーティーにしたいか等を少しだけ話し合って帰宅した。

帰り道で「さすが私たちの子供だわ」と母から頭を撫でられて、ルチルは「もっと褒めて」と心の中で返事をした。






次話からは主要メンバーが登場予定です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ルチルちゃんの処世術がすごすぎます'`,、'`,、(ノ∀`)'`,、'`,、'` アズラさま、愛されてるって勘違い?しちゃいますね٩(>ω<*)و
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