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お婆さんが、楽しそうに笑い出した。
「心を読むの止めてください」
「すまぬ。ルチルの心の声は大きいからか、ハッキリ聞こえるんじゃ」
急にお婆さんが、愛しそうに見つめてくる。
「やはり、お主の心は面白いのぅ」
「褒めていただきありがとうございます」
笑いすぎだっての。
「他に聞きたいことはあらぬか?」
「んー、特にはな……あ! アズラ様、死にませんよね?」
「指輪をしていたら大丈夫じゃよ」
「よかったー」
「もし腕は落ちても、そなたが治せるじゃろ」
は? 腕が落ちる?
「いつ!? いつですか!?」
「もしじゃよ、もし。新しい剣を使えば問題あるまい」
絶対の絶対に新しい剣にしてもらう!
大きな戦いは近くで待機する!
「それと、これは、そなたに預けておこうのぅ」
お婆さんが、カウンターに白い小さな錠剤を置いた。
「これは?」
「さっき、あの坊主に渡そうとした物じゃ」
夢で会いたい人に会えるってやつ?
「きっと必要な時が来るじゃろうて」
「分かりました。ありがとうございます」
「それと、強姦される前に指輪に魔力流すんじゃぞ。何のための指輪なんじゃ」
へ? え? あああああああ!
ルチルの心の叫びが面白いのか、お婆さんがまた楽しそうに笑っている。
「ルチル嬢。何の話をして、お婆さんを楽しませてるの?」
「え? オニキス様?」
「え? なに? 俺が誰に見えるの?」
あー! 今度は、あたしの反応を楽しんでる!
なんなんだ! この神様は!?
魔法解いたなら、解く前に教えてよね。
「いえ、ちょっと悔しいことがありまして、買い物に来ていたことを忘れてたみたいです」
「どんなに悔しいことなの、それ」
「宝の持ち腐れをしてたみたいなんですよ」
自分に呆れていますと、頭に手を当て、顔を振りながらため息を吐き出した。
「その持ち腐れを指摘されたんだね」
悲しそうに頷いたのに、もう興味がないと言わんばかりに選んだ剣をカウンターに置いている。
「お婆さん、俺これにする」
「僕はこれです」
ミソカもカウンターに剣を置いている。
2つ共、持ち手も鞘も、とてもシンプルだ。
「なるほどのぅ」
お婆さんは、2本共鞘から剣を出して、2人の前に並べた。
「剣先に人差し指を押し付け、出た血を刀身につけるがよい」
2人は言われたまま剣先で指先から血を出し、刀身に付けている。
すると、付けた血は剣に吸い込まれていった。
お婆さんが杖で剣を叩くと、剣は紫色に淡く光り、ゆっくりと消えていく。
「これで、剣に魔力を貯めることができ、出し入れ可能じゃ」
はい?
あたしも目を点にしたけど、ミソカとオニキス様は目玉落ちちゃうよになってる。
ってか、微動だにしないカーネがすごいわ。
カーネは、驚きすぎて固まっただけである。
「嬉しい! ありがとうございます!」
「お婆さんの話聞いて信じてたけど、本物すぎてヤバい。ちょーカッコいい。ありがとうございます」
悦楽している2人に、お婆さんは心嬉しそうに頷いた。
「お婆さん、アズラ様の剣も同じようにお願いします」
「そうじゃな。剣はこれにしようかの」
ローブの下から取り出した剣を、カウンターに置かれた。
2人の剣とは違い、鞘には指輪と同じ蔦のような模様が入っている。
お婆さんが剣を杖で叩くが、今度は淡い紫色は消えない。
「アズラに、ちゃんと血を付けるように言うんじゃぞ」
「分かりました。ありがとうございます」
ルチルが剣を受け取り、カーネを見た。
カーネは、鞄から箱を取り出していく。
午前中のオルアール男爵家の時が可愛かったほど、箱が積み上がっていく。
「おお! 嬉しいのぅ! 待ちわびておったんじゃ」
「喜んでもらえてよかったです。でも、今回もお代はお菓子でよろしいんですか?」
「よいよい。しかし、これほど貰えるとは思っておらんかった。大サービスしようかのぅ」
なになに? 何をくれるの?
「ゼオ・マルニーチは、信用して大丈夫じゃぞ」
「え?」
「今度は、もう少し早く会いに来ておくれ」
最後の言葉は、空に放たれた矢の音のように遠のいていった。
そして、ルチルたちは指輪の時と同じように、広場のベンチ前に立っている。
ミルクは、ミソカの頭の上に乗っている。
先生は信用して大丈夫。
うん、重要だよね。教えてくれて嬉しいよ。
でもね、あたしのことをどう思ってるかも教えてほしかったよ。
それにね、媚薬魔法陣の件があったから近づきたくないのよ。
「ルチル嬢、とりあえず帰ろう」
「そうですね。アズラ様に報告しませんとね」
「お祖父様とお父様には、僕から報告しますね」
「ありがとう」
「会議はしないと思うとも言ってもらえると助かる」
「伝えときます」
嬉しそうに剣を抱きしめているミソカの頭を撫でたかったが、ミルクがいて撫でられなかった。
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