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12月には、学園祭とダンスパーティーと冬期テストがある。
11月末に、平民のみんながドレスを借りられるているかどうか、衣裳部屋を確認していた。
黄色い札がたくさん付いていて、今年からはもう大丈夫だなと安心した。
焼き芋大会の日を皮切りに、ルチル・シトリン公爵令嬢・エンジェ辺境伯令嬢・ゴシェ伯爵令嬢・ラブラド男爵令嬢でお茶をすることが多くなった。
シトリン公爵令嬢が「ゴシェ様」「ラブラド様」と呼べるように頑張っている姿が微笑ましく、温かい眼差しを向けてしまう。
そして、その度に怒られていた。
剣術のトーナメントは、上記のメンバーと1回戦で負けたオニキス伯爵令息を混ぜたメンバーで見ている。
「フローとジャスの気合いの入り方がすごかったよ」
「何かあるんですか?」
「彼女にいいところを見せたいんでしょ」
オニキス伯爵令息が、ニヤニヤしながらシトリン公爵令嬢とエンジェ辺境伯令嬢を見る。
2人は赤くなりながら、シトリン公爵令嬢だけがオニキス伯爵令息に言い返していた。
「アズラ様、全部瞬殺ですね」
「そりゃそうでしょ。もうルクセンシモン公爵と互角だからね」
すごっ!
ルクセンシモン公爵の強さは知らないけど、第一騎士団団長と互角って相当強いよ。
「となると、ジャスは今年も2位なのね。また悔しがるわね」
「で、でも、番狂せがあるかもです」
エンジェ辺境伯令嬢が必死に応援している姿を、周りが睨むように見てくる。
ルチルは扇子を広げて、口元を隠し、睨んできている周りを睨み返す。
睨み合いが1秒もできないなら、睨んでくるんじゃないよ。
扇子を片付けようとした時に、横に座っているシトリン公爵令嬢も周りを睨んでいたことに気づいた。
公爵令嬢2人から睨まれてたのか。
それは、瞬時に目を逸らすよね。
ジャス公爵令息とエンジェ辺境伯令嬢の婚約は公表されていて、婚約式は卒業をしてから行うそうだ。
指輪は冬休みに買いに行く予定だと、恥ずかしそうに話してくれていた。
エンジェ辺境伯令嬢が、ルチルやシトリン公爵令嬢といることが多いので嫉妬による虐めはない。
ただ、ルチルたちがいないところでは陰口を言われているようだが、これから頑張り続ければいいと決めたエンジェ辺境伯令嬢はへこたれずに前を向いている。
随分と成長したなと、ルチルは熱いものが込み上げてくる想いだった。
「フロー、負けちゃったわ」
フロー公爵令息に勝ったザーヴィッラ侯爵令息が、ルチルに向かってピースをしてくる。
「あれ、どうにかなりませんかね」
「今、殿下も相当イライラしてると思うよ。当たったら殺すんじゃない」
「でも、次はジャスが相手だから、あの男子はアズラ様と当たらないわね」
「必ずザーヴィッラ侯爵令息を倒すからね」って、意気込んでたのにな。
戦えないことを悔しがっているだろうなぁ。
アズラ様が優勝すると思って、この後お祝いができるように用意をしているんだよね。
いくら天才肌だとしても、褒めるって大切だからね。
イライラをどこかに飛ばすためにキスをしてあげたいけど……みんな、きっとついてくるよね?
みんなの前では無理だから、久しぶりに「あーん」をしようかな。
番狂せもなく、今年もアズラ王太子殿下が1位でトーナメントは終了した。
ルチルは、空き教室でアズラ王太子殿下をお祝いすることにした。
予想通り、みんなついてくる。
「アズラ様、おめでとうございます」
「ありがとう。ザーヴィッラ侯爵令息と当たらなかったのは残念だったけどね」
まだ怒ってらっしゃる。
いや、今年はずっと、ザーヴィッラに怒り続けてるんだろうな。
「私はアズラ様一筋だと、早く分かってほしいですね。寝ても覚めてもアズラ様のことしか考えていませんのに。どうしたら分かってもらえるんでしょうか」
「僕も毎日、ずっとルチルのことを考えているよ」
「嬉しいです」
お祝いのケーキをあーんしていると、周りから白い目で見られる。
みんな慣れているんだから、空気と思ってくれたらいいのに。
「ルチル様。冬休みは旅行に行けるわよね」
お披露目パーティーの時にも言ってたもんね。
あたしも旅行に行きたいんだけどねぇ、まだ無理なんですよ。
「キルシュブリューテ領に来てください。おもてなしいたしますわ」
「分かったわ」
「来られた時に、旅館の家具等の相談をさせてくださいね」
「任せてよ」
満足そうに頷いて、手帳を取り出している。
「ルチル嬢、私も行っていいでしょうか?」
「はい。フロー様はもちろん、皆様も来てください」
ゴシェ様はどうするんだろ?
来にくいだろうし、まだ来たくないかな?
「あの、私は、遠慮します……」
「分かりましたわ。でも、春休みはアヴェートワ領に来てくださいね。みんなでお花見しましょう」
小さく頷いてくれたゴシェ伯爵令嬢に、笑顔を返す。
ダンスパーティーの話や、来年はみんなと同じクラスになりたいなどの話をして、プチお祝い会は終わった。




