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整えられた応接室で、ルチルは青い百合の花束を持ってきたアズラ王子殿下と並んで座り、父と母は対面のソファに腰を下ろしている。
今日は婚約式までの流れの話し合いになり、チャロが説明をはじめた。
「婚約式は、来年の4月2日を予定しています」
「1年後ですか」
「うん。理由は、その前に立太子することにしたからなんだ」
「立太子を? 前におうかがいした時は、10才の洗礼を済ませてからと仰ってませんでした?」
「その予定だったんだけどね。4月1日に立太子をして2日に婚約式をすれば、地方や隣国からの出席者にはいいのかなと思って。後は、王子の婚約者よりも王太子の婚約者の方が融通が利くからね」
何に融通を利かせるつもりなのかは聞かない方がいいと思い、聞かなかった。
「立太子の式典と婚約式の準備を考えると、急いでも1年くらいかかりそうなんだ。だから来年になる。ごめんね」
「いえ、問題ありません」
もっと遅くてもいいとは言えなかった。
「招待客の選別や招待状の作成は王家の方でやります。よろしいでしょうか?」
「式典と被るのならば、その方がいいでしょう。招待客が決まりましたら一覧を見せてください」
「かしこまりました。ルチル公爵令嬢のドレスは予算をお渡しいたしますので、好きな物をお選びください」
「えっと……形や色などの指定はないんでしょうか?」
「ございません。ルチル公爵令嬢のドレスに合わせて、アズラ王子殿下の礼服を仕立てます。形や色はなんでもよろしいですが、早く決めていただければ有り難いです」
「僕が選んで贈りたいって言ったんだけど、王妃殿下から怒られてしまってね。女の子には夢があるから好きな物を着させてあげなさいだって。でも、指輪は一緒に決めようね」
「指輪ですか?」
「はい。婚約式では指輪の交換があります。こちらも予算内でしたら、好きな物を選んでいただいて問題ありません」
後は、当日着けるアクセサリーも予算内なら何でもいいということだった。
アクセサリーもドレスによって変わるだろうから、何よりも先にドレスを決めないといけないことは分かった。
「婚約式は神殿で行われ、その後馬車で街を回遊し、王宮での婚約披露パーティーになります。これは陛下からの相談なのですが、婚約披露パーティーでは『アヴェートワ公爵家のスイーツをふんだんに使用したい』とのことです。いかがでしょうか?」
「娘の婚約式ですから、皆様が食べきれないほど用意しますよ」
「ありがとうございます」
横を見ると、アズラ王子殿下の瞳が輝いている。
可笑しくて控えめに笑うと、笑われたと気づいたアズラ王子殿下の頬がほんのり赤くなった。
後の細かい内容は王宮の方で決めてくれるそうだが、希望があれば都度言ってくれたらいいと説明された。
例えば、どんな馬車にしたいとか、どんな披露パーティーにしたいとかだそうだ。
それと、誰に聞かれてもどこに行っても、王子殿下と婚約すると話していいとのこと。
そのために分かりやすく、今日馬車で来たからと言われた。
あの華やかで美しく光り輝いていた集団に、意図があったと分かって少し安堵した。
話し合いが終わり、フルーツケーキを渡して、アズラ王子殿下を見送った。
その際、アズラ王子殿下は「母上が会いたがっているから、近々お茶会のお誘いがあると思うよ」と、爆弾を落として帰っていったのだ。
そして、その爆弾通り、数日後に王妃殿下からお茶会の招待状が届いた。
1つ安心したことは、母にも同じ招待状が届いたことだった。
断るという選択肢はない。
お茶会に持って行く手土産に新作スイーツを用意し、母親と一緒に初めて王宮に足を踏み入れたのだった。
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