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顔を近づけて、目を開けたまま、触れるだけのキスをした。

アズラ王太子殿下が起きるまで唇を離さずにいようとしたが、唇が触れた瞬間にアズラ王太子殿下の瞳が開いた。

至近距離で、視線がぶつかる。


「んんん! んんん!」


何か言いたいようだが、ルチルが面白がって唇を離さないのでアズラ王太子殿下は動けない。


「んんんん!」


「はなれて!」かな?

まだまだ塞いでおきたいけど、芋けんぴ食べてほしいしな。

寮に戻るまでの時間は余りないだろうから、離れてあげるか。


ルチルがゆっくりと離れると、アズラ王太子殿下は勢いよく起き上がった。


「なななななに!? どどどうして!」


「アズラ様がキスしたいって言ったんですよ」


「え?……夢で、ルチルが出てきたけど……え?」


「夢で、私と何をしてたんでしょう? 教えてほしいです」


「いつものようにお茶をしてただけだよ」


「イチャイチャしてなかったんですか? 私の夢のアズラ様は狼ですよ」


「ぼぼぼくは自重できるよ!」


「殿下、そこは狼になっていいの? と聞くところでしょう。夢は願望なんですから」


笑っているオニキス伯爵令息に今気づいたようで、アズラ王太子殿下は真っ赤になりながら小声で「オニキス……」と漏らした。


「あ、そっか。ルチルが来るのを待っていて寝ちゃったんだね。来た時に起こしてほしかったな」


「眠れる時に寝てください。それに、寝顔をゲットできて、私は満足です」


写真にキスすると、アズラ王太子殿下は恥ずかしそうに視線を逸らした。


「チャロ、お茶する時間ある?」


「少しだけあります。すぐに用意いたしますね」


「新作待ってきたの。お茶だけでいいからね」


「かしこまりました」


新作の言葉に、アズラ王太子殿下の顔が輝いた。

アズラ王太子殿下と並んで座り、向かいの席にオニキス伯爵令息が座る。

鞄からバスケットを取り出し、蓋を開けて、机の上に置いた。


「残ったら、寮に持っていってくださいね」


「ありがとう。これは、何?」


「さつまいもを揚げたもので、芋けんぴと言います」


1つ食べたアズラ王太子殿下から、ザクザクといい音が聞こえてくる。


「美味しい。ほっこりするね」


うんうん、和菓子ってほっこりするよね。

芋けんぴは歯応えあって、味が口の中に残るから食べてる感あるよね。

カロリーゼロ? と錯覚するようなスポンジやパンケーキとは違うよね。


「アズラ様。来週、少しお時間取れたりしますか?」


「取れるよ」


本当に?

全く考えなかったけど、本当に大丈夫なの?


お茶を淹れてくれているチャロを見るが、顔色一つ変えない。


アズラ王太子殿下の幸せ絶対主義者のチャロだ。

チャロの様子を窺ったところで、分かるわけないのだ。


「焼き芋大会をしようと思っているんです。ぜひ参加してくださね」


「焼き芋大会? 焼き芋っていうくらいだから、芋を焼くんだよね? 誰が上手に焼けるか競うの?」


な、なんと!?

焼き芋大会を知らないの!?


「殿下、色んな芋を焼くんですよ」


「そうなんだ」


「違いますよ!」


アズラ王太子殿下が眉間に皺を寄せながら、オニキス伯爵令息を睨んだ。


「オニキス様。この話をした時、知らないように見えなかったのに……」


「名前からして、色んな芋を焼いて、1番美味しい芋を決めるんだと思ったんだよね」


アヴェートワ領の平民のみんなは焼き芋をしてたから、貴族はしないだけなのかも。

ケープに来週の用意をお願いしたら、笑顔で頷いてくれたもの。


「違いますよ。アヴェートワ公爵家では、小さい頃は毎年のように、使用人たちを巻き込んで秋に焼き芋大会をしてたんです」


「僕、参加したことないよね? ある?」


なかったのかなぁ。

そういえば……お父様が、王子様にさせるべきじゃないって言ってた。


「ないと思います」


「で、焼き芋大会って何なの?」


オニキス伯爵令息の言葉に、アズラ王太子殿下の顔にも「知りたい」と書いている。


「掃除ついでに集めた落ち葉を使って、さつまいもを丸ごと焼くんです。何箇所かでたくさん焼くから、焼き芋大会なんです」


「さつまいもを丸ごと焼くの? 真っ黒にならないの?」


「濡らしたバナナの葉で包んで、土を薄く被せるんです。その上で焚き火をするので、中の焼き芋は無事なんです」


「楽しそう」


「さつまいもは、ねっとりと甘くなるんです。栗を焼いても美味しいですよ」


この2人は、焼き栗もきっと知らないだろう。


「両方やりたい」


「だね」


やっぱり知らなかったか。

栗の用意はお願いしなかったからなぁ。

食材庫に、たくさんあればいいけど。

アヴェートワ領の食材庫からも拝借すれば足りるかな?


学園寮に戻ると、シトリン公爵令嬢に芋けんぴを渡して、焼き芋大会に誘った。

返事は、もちろん参加だった。


芋けんぴは、登校して出会った順番にお茶会メンバーに渡した。

今までしていたルチルの部屋でのお茶会が、領地経営で忙しくてできなくなっていたので、少しでも交流になればと思ってだ。

この世には出ていないお菓子というだけあって、みんな喜んでくれた。






明日の投稿はお休みです。


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読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読んでますです! さつまいもの無限の可能性! 美味しいですよね〜
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