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恋が実ると分かっていたから、今日の夕食は豪華にしてほしいとお願いをしていた。
色んなお肉料理を並べてもらい、ケーキはハート型にしてもらっている。
終始恥ずかしそうにしていたエンジェ辺境伯令嬢は可愛く、ジャス公爵令息は頬がほんのり赤かった。
楽しい夕食の後に、ジャス公爵令息に「相談したいことがある」と言われて、オニキス伯爵令息と3人でお茶をすることになった。
他の人たちには聞かれたくないとのことだったので、エンジェ辺境伯令嬢へのプレゼントでも相談されるのかと思っていた。
そんなことが起こっていたとは……
何しちゃてんの、ガーネ様……
ジャス公爵令息の相談は、ガーネ侯爵令嬢のことだった。
ガーネが悪いと思うが、俺にも悪いところはあったんじゃないか。
俺が、もっとはっきりガーネの気持ちに応えられないと言うべきだった。
両親に潰さないでほしいとは言えていない。
母上とガーネの話し合いは明日だというのに。
堰き止めていたものが放出されたように、ジャス公爵令息は話してくれた。
随分と思い悩んでいたんだと思う。
まずは思う存分吐き出してもらおうと、何も言わず聞いていた。
ガーネ様は、エンジェ様の気持ちと覚悟を聞いて、最終手段に出たんだろう。
でも、やり方を間違ったらダメだよね。
最後にもう1度、思いの丈をジャス様にぶつけるとかさ。
デートしてみようとか、色々あったと思うんだよ。
家問題に発展してしまうことは、やったらダメだよ。
あたしとしても助けてあげたいけど、公爵夫人が潰すと決めていると難しいなぁ。
「ジャス様は、ガーネ様を助けたいでいいんですね?」
「ああ」
「俺は、助けなくていいと思うよ」
「潰すまでする必要ないだろ」
「する必要があるよ。ガーネ侯爵令嬢と友達のルチル嬢だって、そう思ってる。だよね?」
全部、オニキス様が説明してくれたらいいのにー。
「私個人の意見としては助けたいと思っていますよ。ただ、現実は厳しいかと」
「どうしてだ?」
「ガーネ様のついた嘘が、公爵家の信頼を落とす嘘だったからです。
もし、アンゲノン侯爵家の皆様が周りに言ってしまったら、どうなると思いますか? 婚約者候補だった女性と付き合っていて、他にはお嫁に行けない体したんですよ。そこまで言われたら、妊娠や中絶を想像する人もいるでしょう。そんな未成年の女性を捨てたってことになりますからね。ジャス様の評判はガタ落ちし、ルクセンシモン公爵家は白い目で見られるようになりますよ。表立ってルクセンシモン公爵家に何か言う人はいないでしょうが、裏では相当過激なことを言われると思いますよ」
ジャス公爵令息が俯いた。
「それに、その嘘が広まれば、エンジェ様との未来はありませんよ」
勢いよく顔を上げられ、見開いた瞳で見られる。
「未成年の女性をおもちゃのように扱う人のところに、ポニャリンスキ辺境伯家が大事な娘を嫁がせると思いますか? それ以前に、ガーネ様の嘘を、エンジェ様にどうやって証明するんですか? エンジェ様は深く傷つくことになるんですよ」
付き合えたことを喜んでいる時にそんな噂を聞いたら、どこまで深く落ちてしまうんだろう。
描いていた未来は、全て黒く塗り潰されてしまう。
エンジェ様がジャス様を信じたとしても、家族を説得できなければ結婚できない。
「……そこまで考えられなかった」
アンゲノン侯爵家が、他に言っていないことを望むよ。
面白おかしく広まってしまったら、何をどうしても止めることはできないからね。
ガーネ様、本当になんてことしちゃったのよー。
「それでもガーネ様、そしてアンゲノン侯爵家を助けたいですか?」
膝の上で握り締めているジャス公爵令息の拳を見る。
「俺は……やっぱり、このまま見捨てることはできない」
「分かりました」
「ルチル嬢、本当に助けるの? ジャスも、もっとちゃんと考えなよ」
「考えた。そして、助けたいと思った」
関係のないあたしにできることは、平民になったアンゲノン一家をアヴェートワ領かキルシュブリューテ領に歓迎するくらいかなと思ったけど、当事者のジャス様が望むなら助けてあげようじゃないの。
「ジャス様。明日は私と一緒にアンゲノン侯爵家に行きましょう。そして、ガーネ様に『嘘つきは嫌いだ』と伝えましょう」
「しかし、ガーネが嘘をついたのは俺のせいかもしれない」
「いいえ、ジャス様に悪いところは何一つありません。ガーネ様が猪突猛進すぎただけですよ」
オニキス伯爵令息は、最後まで「助ける必要ないと思うけどなぁ」と言っていた。
明日はアンゲノン侯爵家に行きます。
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