表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

231/373

65

「ルチル様。子供たちが持っている、あの食べ物は何ですか?」


「あれは、今回アヴェートワ公爵家から提供しているベビーカステラです」


お祭りといえば、手軽に食べ歩きできるものだよね。

りんご飴や綿菓子も考えたけど、どうせなら大麦粉を使うお菓子の方がいいと思ってベビーカステラにしたの。

ベビーカステラって、どうしてか絶対買っちゃうんだよね。

あの匂いの誘惑に勝てたことないなぁ。


名産は大麦かぁと少し残念に思っていたけど、大麦粉にすればお菓子に使い道はある。

ほんのちょっと香ばしくなっちゃうけど、小麦に比べると健康にいいし、食物繊維がたっぷりだから大麦でよかったのかもしれない。


ただ、大麦粉を使ったパンの作り方は知らないんだよねぇ。

普通に焼くとひび割れるはずだから、分量調整でイケると思うんだけど。

うーん……日本食というか麦飯をメインにしようと思っているから、パンじゃなくてもいいか。


ベビーカステラの屋台に案内していると、甘い匂いが鼻と胃を刺激してくる。

ニヤけ顔を戻せないエンジェ辺境伯令嬢を、ジャス公爵令息が赤い顔で見ていた。


屋台に到着し、邸で雇っている料理人見習い数名と挨拶し、ベビーカステラを大袋で1つもらった。


「美味しいです!」


「見た目がよかったら、お茶会に出してもいいのに」


色んなキャラクターの形とかがあったなぁ。

あれも味は変わらず美味しかったけど、あたしの中のベビーカステラはカプセル型なの。

これは、譲れない。


「オニキス、どうして小袋を持っているの?」


「後で食べるためにもらったんですよ。殿下の分ももらってきましょうか?」


無言で頷くアズラ王太子殿下に、オニキス伯爵令息は屋台に並びに行った。


「エンジェ嬢、俺たちも並ぼう」


「しかし……」


ベビーカステラは無料というだけあって、長蛇の列だ。

待たせてしまうことを気にしているのだろう。


「エンジェ様、問題ありませんよ。ベンチに座っていますので、どうぞ行ってきてください」


「ありがとうございます」


チラチラと屋台を見ているエンジェ様に気づくなんて、ジャス様は本当にエンジェ様を見ているんだなぁ。

オニキス様についでに言えば? と思ったけど、並んでいる間は2人で話せるもんね。

ラブラブしてきてちょーだいな。


「私、あのお店が見たいわ」


「行こうか」


シトリン公爵令嬢が指したのは、民芸品を売っている屋台だった。


あそこなら、あたしも見たいかも。

領地巡りはしたけど、どんな民芸品があるか知らないんだよねぇ。


「私も行きます」


「あそこならいいかな」


呟くアズラ王太子殿下を見ると、視線はオニキス伯爵令息に向いていた。

ベビーカステラに並んでいるオニキス伯爵令息が、2回頷いている。


騎士は、2名しか連れてきていない。

いくらDIY期間中に親しくなったと言えど、何名も連れて歩くのは領民が楽しめないかもと思ってやめたのだ。

祖父も弟も一緒にいるから問題ないだろうとのことだった。


ミルクは人混みの中、どこにいるかというと、弟の頭の上で寝そべっている。

弟が歩きながら、頭の上のミルクにベビーカステラをあげている。

1人と1匹は、なんとも器用なのだ。


民芸品を並べている出店の規模は、普通の屋台の3倍だった。

木で造られているアクセサリーや食器が並んでいる。

柄は、綺麗に掘られている。


「アヴェートワ公爵家の皆様!? いらっしゃいませ。ごゆっくり見ていってください」


店番をしていた20代の夫婦だろう人たちが、緊張で笑顔がぎこちなくさせている。


アズラ様の顔を知っている平民は、王都以外では少ないからなぁ。

あたしたちより大物だよ。知ったら、腰を抜かすかもよ。


緊張している店番に笑顔を振り撒き、並べられている商品に視線を移した。


ふむふむ、旅館の食器にしてもいいな。

気に入ったら買って帰ってくれるしな。

お金が余分に落ちる。


いつでもどこでも、お金で頭がいっぱいのルチルである。


「ここにあるもの全部ください」


「「は?」」


店番の2人は、出してしまった素っ頓狂な声が恥ずかしかったのか、慌てて口を隠している。


「ルチルお嬢様、今、なんて仰いましたか?」


「ここにあるもの全部ください」


「聞き間違い?」「私たちの耳おかしくなった?」と、店番の2人の瞬きの回数が尋常じゃない。


「ルチル様。私、そこのアクセサリー買おうと思ったのよ」


「差し上げますよ」


「そう、だったらいいわ」


「ルチル、全部買ってどうするの?」


「邸のみんなにあげようと思いまして。昨日から全員出勤で働いてくれていますから」


宿泊での来客だからね。

昨日の準備から大変そうだったもの。

お祭りに行かせてあげられないお詫び。


「じゃあ、僕が買うよ。みんなを忙しくさせてしまったのは、僕が来たからだろうしね」


お祖父様、全力で頷かないでください。


「ありがとうございます。みんなも私からもらうより、アズラ様からの方が喜びますわ」


「そんなことないと思うよ」


そんなことありますよ。

王子様から何かもらうなんて、一生に一度あるかないかだと思うからね。


「あ、あの、本当に全部買ってくださるんですか?」


「うん」


「「ありがとうございます!」」


やっと実感したのだろう。

手を取り合って喜んでいる。


「このお皿やコップは、お2人で作っているんですか?」


「私たち家族と後数軒の家になります。農業に転職される方が多くて、作り手が少なくなってしまったんです」


「お店で売っているんですか?」


「はい。街外れに、小さいですが店があります」


「教えてくれてありがとうございます。今度、伺いますね」


「ありがとうございます」


騎士が持っている空間魔法陣がある鞄に入れていると、オニキス伯爵令息たちがやってきた。

ベビーカステラの袋も、鞄に入れてもらう。


他の色んな屋台に目移りしながら、街の広場に到着した。

本日の目的地だ。


広場では、ギターのようなもの、小さい太鼓や木琴のようなもので、音楽を奏でている。

その音楽に合わせて、みんな踊っている。


エンジェ辺境伯令嬢と目が合って、頷きながら小さくガッツポーズをした。

エンジェ辺境伯令嬢も同じようにしている。


頑張れ、エンジェ様。

大丈夫。きっと喜んでくれるよ。






いいねやブックマーク登録、誤字報告、感想ありがとうございます。

読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読んでます! 一度は言ってみたい、このお店の全部買いますとか(笑) ちなみに今回は金額的にどれぐらいだったのかな? アズラ様のお小遣いでいけるぐらいかな?
[良い点] お祭りいいですね! 人混みと行列が大の苦手なのですが、私は焼きとうもろこしが大好きなのでそれを目当てに、あとは他の屋台を適当に眺めたら、いつも早々に逃げ帰ってます。 どうにかしてアレが身近…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ