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秋休み最終日は、シトリン公爵令嬢とエンジェ辺境伯令嬢を見送ってから、キルシュブリューテ領のDIYに参加した。


今日から始まるルチル管轄のDIYは、掃除と修理がメインなので、ルチルは掃除を頑張った。

半分ほど修理が終わったら、色塗りと残りの修理を並行していく予定だ。


他の4地区は、昨日からDIYを始めている。


ルチルは掃除をしながら騎士にも街の人たちにも声をかけ、とにかく仲良くなれるように心掛けた。


学園冬期が始まり、秋期よりも忙しい日々が待っていた。

月曜から金曜は学業と書類仕事、土曜は王太子妃教育と旅館の建設や運営の打ち合わせ、日曜はキルシュブリューテ領のDIYと豊穣祭の準備。

アズラ王太子殿下が闇落ちした理由が、よく分かる日常だった。


アズラ王太子殿下との時間が本当に取れなさすぎて、心がすり減っていく。

心に栄養がほしくて「どうにか男子寮に忍び込めませんか?」とオニキス伯爵令息に相談をして、お説教された。


旅館運営の出資には、ナギュー公爵家・スミュロン公爵家・ポニャリンスキ辺境伯家・オレンニュ伯爵家がしてくれることになった。

王妃殿下も手を挙げてくれたので、素直に甘えることにした。

もう湯水のように使ってもいい状態だ。


ピャストア侯爵家からの出資はないが、従業員の育成に力を貸してくれるそうだ。

見返りとして、旅館で行うマッサージ等の新サービスを、ピャストア侯爵家のホテルでも提供できるようにしてほしいとのことだった。


独占するものでもないので、ルチルは2つ返事でオッケーをした。

従業員を育成してくれるなんて、そんな有り難い話はない。

人材育成は時間がかかるし、特に大変な部分だ。

すぐに募集・面談をして、研修してもらおうと思っている。


そんな時間に追われる日々の1ヶ月なんて、あっという間に過ぎるもので、今日はもう豊穣祭。

5地区にある街は、DIYが完了している。

農村は、明日から取り掛かる予定だ。


豊穣祭には、アズラ王太子殿下・シトリン公爵令嬢・フロー公爵令息・ジャス公爵令息・エンジェ辺境伯令嬢が訪れることになった。


アヴェートワ公爵家からは、祖父と弟とミルクが昨日から来ている。

というより、1ヶ月間キルシュブリューテ領に住んでいた。

DIYが終わるまで、キルシュブリューテ領に住むそうだ。

ルチルが学園のため手伝いができないので、本当に感謝をしている。


転移陣前でみんなを出迎え、まずは邸に案内し、それぞれの部屋に通した。

そして、部屋にて豊穣祭の衣装に着替えてもらう。

玄関ホールで待ち合わせをし、ルチルとオニキス伯爵令息はみんなが来るのを待っていた。

祖父たちは、玄関ホールに隣接している応接室で、お茶を飲んでいる。


1番先に登場したのは、アズラ王太子殿下だ。


赤色も似合う。めちゃくちゃ素敵。

カメラ、カメラ。


他の人たちが来る前にと、色んなポーズをしてもらい、何枚も写真を撮った。


次に、ジャス公爵令息のエスコートでエンジェ辺境伯令嬢が現れた。

真っ赤になっている2人が、何とも甘酸っぱい。


エンジェ辺境伯令嬢は、この1ヶ月の間に、ガーネ侯爵令嬢と話し合いをしたそうだ。

エンジェ辺境伯令嬢が「ライバルだと認めてもらえました」と、やり切った感いっぱいの顔で報告してくれたのだ。


そうかぁ、2人がそれでお互い納得したんなら、あたしはいいよ。

でも、エンジェ様とジャス様が付き合うのは、時間の問題だと思うよ。

もうライバルとかの話じゃなくない?


と思ったが、口には出さなかった。


2人の甘酸っぱい姿を写真に収めていると、フロー公爵令息のエスコートでシトリン公爵令嬢がやってきた。


「ルチル様! この衣装可愛いわ! もらえるかしら!?」


豊穣祭の衣装は、領地の女性たちが作ってくれた。


DIY作業中の親睦時間に「収穫祭に着ているんです」と見せてくれた衣装が、オランダの民族衣装フォーレンダムに似ていて、とても可愛かった。

一目見て気に入ったルチルは、豊穣祭でも着ましょうと提案したのだ。


女性は、三角形のような立体的な白色の帽子、黒のワンピースにスカートの下半分がストライプ模様(色は白と赤、白と青など)。

腰は幅太の白いリボンで、背中側でリボン結びにする。

前掛けは、白い生地に花柄模様。


男性は、赤いシャツに黒いズボンになる。


「もちろんです。お持ち帰りください」


嬉しそうにその場で回るシトリン公爵令嬢を、フロー公爵令息が柔らかく見つめている。


この2人は、もう大丈夫だろう。

今のフロー様なら、シトリン様を大切にしてくれる。


フロー公爵令息に褒められて真っ赤になっているシトリン公爵令嬢に、ルチルの頬が緩む。

祖父たちも呼んで、集合写真をケープに撮ってもらい、お祭りに出かけた。


「可愛いわー!」


「別世界みたいです」


街を見たシトリン公爵令嬢とエンジェ辺境伯令嬢の顔が輝いている。


DIYされた街は、色とりどりのペンキで鮮やかに蘇っていて、見ているだけで楽しい気分にしてくれる。

屋根から道向こうの屋根を紐で繋げて、紐には飾りや花がついている。

この飾りは、子供たちが作ってくれた。


男性はDIYをし、女性は衣装作り、子供は飾り作りと、領民全員で力を合わせて作り上げたお祭りになった。


はじめはやる気のなかった領民たちも、ルチルやアヴェートワ公爵家の面々が領民と積極的に話し、領民の意見を取り入れたりしたおかげで、本来の明るさを取り戻してくれたようだった。


後は、DIYをしていた騎士たちが、アヴェートワ公爵家を誉めてくれたからだろう。


領民たちは、騎士が大工仕事をしてくれることが恐れ多かった。

騎士たちに「すみません、すみません」と、何回も謝っていたそうだ。


その姿に1人の騎士が、何回も謝ってアヴェートワ領に帰っていったルチルを思い出し、笑い出したらしい。

笑い出したことを不思議がる周りに、ルチルを思い出したと言うと、周りの騎士も笑い出したとのこと。

「領主らしくない領主だけど、文句をつけようがないいい領主だ」と「仕えることができて幸せだ」と、口々に言い出したらしい。


それを聞いていた領民たちから次第に噂が広がっていき、接してくるアヴェートワ公爵家の面々が気さくで優しいので未来に希望を持ち、もう1度頑張ってみようと思えたのだろう。


ルチルたちに気づいた領民たちが、手を振ってくれる。

笑顔で手を振り返し、ルチルは祖父と弟と顔を合わせて微笑み合った。


「いい匂いがします」


「何から食べますか?」


「お腹空いたから、お肉がいいわ」


「では、肉巻きを食べましょう」


広場に続く道の両脇には、屋台が並んでいる。

屋台もカラフル仕様だ。

そして、屋台のメニューは、ほとんどルチルが考えた。


「肉巻きって、なに?」


「美味しかったですよ」


「オニキスに聞いてない。ルチルに聞いてるんだよ」


「串に刺した細長い麦ご飯のおにぎりに、薄い肉を巻いて、甘辛いタレで焼いた物になります」


尋ねてきたアズラ王太子殿下よりも、ジャス公爵令息の瞳が輝いている。

お肉好きは健在だ。


「美味しい」「食べやすい」と言う女性陣に対し、男性陣は「少し物足りない」という感想だったので、次はご飯バーカーを勧めた。


ご飯バーガーとは、パテを焼いた麦飯にし、葉野菜と焼肉、または根野菜と鶏肉のミンチを挟んだものになる。


ジャス公爵令息が、ご飯バーガーを気に入ったようで、4つも食べていた。






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