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白い百合の花束をもらってから1週間後。


青い百合の花束を持ったアズラ王子殿下が、アヴェートワ公爵家のタウンハウスにやってくる日。

婚約式の話し合いをすることもあり、母親も話し合いに混じるので、ルチルはタウンハウスに戻ってきていた。

そして、部屋の窓から豪華爛漫な一団を見て、目を剥いていた。


アズラ王子殿下は、転移陣ではなく王家の煌びやかな馬車に乗って、騎士たちを伴い、正門から堂々とやってきたのだ。


なにあれ……やり過ぎな気がするけど、王家と公爵家の婚約だからなぁ。

これが普通なのかどうかも、貴族人生7年目のあたしには分からないわ。


ルチルは白い百合の花束をもらってから、どうすればいいのかをずっと考えていた。


悪役令嬢にならないために距離を置いたはずなのに、気づけば仲のいい友達になっていた。

誰も虐めず、仲のいい友達でいれば悪役令嬢にはならないだろうと気持ちを切り替えていたのに……気づけば婚約者……悪役令嬢真っしぐらじゃないか。


何度も何度も項垂れたが、自分が吐いた嘘のせいだ。

祖父や父が決めたことならば、腹を括るしかないという結論になった。


祖父と父が決めたのは優しさからだろうから、その優しさを踏み躙ることはできない。

だって、あのルチルバカな2人が婚約を許すには、相当な我慢が必要なはずだから。


だからこそ、誰のことも虐めず、アズラ王子殿下に他に好きな人ができたら身を引き、悪役令嬢にはならないと決め直した。

大好きな家族を悲しませたり、辛い思いをさせたりしないと。


出迎えのため部屋から出ると、呼びに来た侍女と廊下で会った。

侍女を引き連れて玄関ホールまで行くと、父と母が揃っていた。

祖父母は、弟のミソカと一緒に別室にいる。


外に出て、近づいてくる一団を見つめる。

馬車が目の前で止まったので頭を下げた。

馬車から降りてきてるだろうアズラ王子殿下の足音が、聞こえてくる。


「アヴェートワ公爵、アヴェートワ公爵夫人、そしてルチル公爵令嬢。出迎え感謝する。頭を上げて」


ゆっくりと頭を上げたルチルは、目を点にした。

青い百合の花束が大きすぎて、アズラ王子殿下の顔が見えていないのだ。

え? え? と戸惑うルチルだったが、両親は平然としている。


「ようこそお越しくださいました。花束はこちらで預かります」


「いやいや、ルチルに渡させて」


「何を仰いますやら。こんなに大きいと娘が潰れてしまいます」


「僕が一緒に持つから大丈夫だよ」


「いえ、殿下にそのようなことはさせられません」


婚約を許しているはずなのに花束を渡させないようにする父に、母は広げた扇子で口元を隠しながら呆れたように息を吐き出している。


押し問答していても仕方がないと、先にアズラ王子殿下が折れた。

どっちが子供なんだか。


「分かったよ。では、1本だけ」


アズラ王子殿下は、青い百合の花束から1本だけ手元に残し、後はチャロに渡している。

チャロからは、執事のブロンに渡っている。

ブロンは、アヴェートワ領地の邸の執事長サーぺの息子で、タウンハウスの執事長だ。


甘い微笑みを携えたアズラ王子殿下が、ルチルの目の前まで歩いてくる。

そして片膝をつき、青い百合の花を差し出してきた。


「ルチル公爵令嬢、あなたと一緒に過ごしていく日々に、愛しいとは何かと知りました。あなたを愛しています。僕と結婚してください」


い、息がー!!! ちょ、ちょっと待って!

天使が、天使があたしを殺しにきてる!

破壊力半端ない!


YES以外の選択肢がないルチルは、悶えたことでアズラ王子殿下と同じ気持ちではないという罪悪感を、宇宙の彼方に放り投げることができた。


「はい。よろしくお願いいたします」


青い百合の花を受け取り、花の匂いを嗅ぐ。


立ち上がったアズラ王子殿下の顔が近づいてきたと思ったら、頬にキスされた。

が、一瞬のことで、アズラ王子殿下は父に肩をもたれてルチルから引き離されていた。


「殿下、お戯れが過ぎますよ」


「ごめんごめん。嬉しくて、つい」


「ついではありません。今日はもうルチルに近づかないでください」


「エスコートさせてよ」


「駄目です」


「分かったよ」


父がアズラ王子殿下の肩から手を放すと、アズラ王子殿下は母に近づいて手を差し出した。


「アヴェートワ公爵夫人、よろしければエスコートさせてください」


「喜んで」


まるで映画のワンシーンのように母は軽く頭を下げてから、アズラ王子殿下の手をとって歩き出した。

悔しそうにしてる父の背中を、ルチルは優しく叩く。


「どうして、そうアズラ様と戦うのですか? 大人気ないですよ」


ルチルは、父にエスコートしてもらいながら歩を進める。


「どうしてってルチルを取られるからだろう。婚約は認めても、まだ殿下を認めたわけじゃないからな」


「私はまだまだこの家にいますよ。それに、婚約しても結婚するかどうか分かりませんしね」


「ルチル……お祖父様が何をどう説明したのか知らないが、婚約した時点で手遅れなんだよ」


「どうしてですか? まだ子供ですし、将来アズラ様は別の方を好むかもしれませんよ」


「あの血筋に限ってそれはない」


「血筋ですか?」


答えを聞きたかったが応接室に着いてしまい、聞けずじまいになった。






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