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金色の魔法のお披露目パーティーの日に、久しぶりに会ったシトリン公爵令嬢から「旅行に行きたいわ!」と圧をかけられた。
フロー公爵令息が「2人でならいつでも行けるよ。どこがいい?」と微笑んでいたが、シトリン公爵令嬢は真っ赤になって「み、みんなと一緒がいいのよ」とモゴモゴしていた。
ええー、何か進展あったの!?
ねぇ! ねぇ! おーしーえーてーよー!
ずっとお金のことばっか考えていたから恋愛話聞きたい!
「ルチル嬢、少しいいか?」
慌てた様子で現れたジャス公爵令息に、首を傾げる。
隣にいたアンバー公爵令嬢も、弟の焦りように心配そうにしている。
「どうされましたか?」
「今日は、エンジェ嬢を招待していないのだろうか?」
「招待しましたよ。食事やスイーツを楽しみにしていると仰っていましたよ」
まだ挨拶回りをしていない。
そろそろ始めないといけないと思っていたところだ。
エンジェ辺境伯令嬢は見かけてもいない。
「そうか……探しているんだが、見当たらないんだ」
「エスコート、申し込まなかったの?」
「申し込んだ」
「断られたの!?」
「オッケーしてもらったが、秋休みはじめに手紙で断られた。秋休みに会う約束も、全部なくなった」
……ガーネ様が原因だ。絶対そうだ。
あたしが聞いた内容以外にも、何か言っているかもしれない。
「この前会った時、あの子、あんなに好きだったネイルをしてなかったのよね」
「シトリン、エンジェ嬢と遊んだのか?」
「化粧品を一緒に買いに行ったのよ。でも、見ているだけだったから、私が勝手に買ってやったわ」
少しずつだけど、楽しそうにお洒落していたのに……
ライバル宣言されただけで、お洒落を止めるとは考えにくいよね。
どうにかして、エンジェ様との時間をとればよかった。
「俺が、何かしてしまったんだろうか……」
めっちゃ落ち込んでる。
ガーネ様のことを言うのもなぁ。
誰の恋愛にも手を貸さないようにしていたからなぁ。
でも、心が痛い……
「ルチル嬢、何か知っているでしょ?」
「いえ、なにも知りません」
「いいや、俺には分かる。絶対に知ってる」
「オニキス。ルチルは知らないって言ってるから」
「殿下は、ルチル嬢の言葉を信じすぎですよ。結構、嘘つきですよ」
そんなことないわ!
黙っているだけで、嘘はついてない!
「ジャス、見つけた」
ここで登場しないでー!
「ガーネ、引っ付かないでくれ」
おお、ジャス様の拒否、はっきりしているな。
「いいじゃない。婚約者候補よ」
「候補じゃない。正式に切れている」
「切れていないわ。私は納得していないもの」
ガーネ様、優しい姉御肌だったのに、恋愛絡むとウザい女すぎますよ。
はぁ、遠い目しちゃう……
「ガーネの納得など関係ない。俺はエンジェ嬢が好きだし、婚約者候補はもういない。それが全てだ」
「ジャスがどう言おうと、私はジャス以外とは考えていないの。それが全てよ」
頭痛い……
「そこの性格ブス。あなた、エンジェ様に何かしたでしょ?」
シトリン様ー、ブスは言っちゃだめ。
「ナギュー公爵令嬢、あなたより性格が悪い人間なんて、いないと思いますよ」
「はぁ? 目の前にいるわよ」
「性格だけではなく、頭と目も悪いんですね」
バチバチですなぁ。
さて、どうしようかな。
「ガーネ。さっきシトリンが言ったことは本当か?」
「私は性格悪くないわ」
「そっちじゃない。エンジェ嬢に何かしたのか?」
「してないわよ。エンジェ様がどうしたの?」
「俺を避けるようになった。今日もまだ来ていない」
ガーネ侯爵令嬢が、少し考えた素振りを見せ「そっか」と呟いた。
「何をした?」
「何もしていないわよ。私は、ただジャスと結婚するために、どれだけ頑張ってきたか話しただけよ」
なるほど。
どんな言い方だったか分からないけど、エンジェ様には「努力もしていないあなたが、ジャスの隣に並ばないでよ」と聞こえたのかもしれない。
でも、それだけでお洒落までやめるかなぁ?
「エンジェ様は自分で、ジャスの隣はふさわしくないって考えたのよ」
「俺にふさわしいかふさわしくないかは、俺が決めることだ」
「私に怒らないでよ。私は別に、エンジェ様はふさわしくないなんて言ってないわ」
「そうか、悪かった」
直接的に言ってなくても、間接的に伝えていたら一緒なんだけどね。
「他にも何か言ったでしょ。お洒落するなとでも言ったの?」
「はぁ? あなたじゃないし言わないよ」
「お洒落に関することは言っていないのね?」
「言ったのか?」
ガーネ侯爵令嬢が、シトリン公爵令嬢を睨みはじめた。
ジャス公爵令息が同調しているのが気に食わないのだろう。
「信者が減るから悔しいの?」
はい? 急に何を言い出した?
そして、嫉妬剥き出しの顔になってますよ、ガーネ様。
100年の恋も冷めるような顔してますよ。
「エンジェ様のお化粧があなたにそっくりだったから、嫌われ者のあなたの真似をすると嫌われますよって言ったわ。後、あなたとは何もかも違うんだから、エンジェ様はエンジェ様に似合うお化粧をするべきだってね。爪まで真似するのも媚びているみたいで印象悪いですよ、って教えてあげたのよ」
ない。ないわー。
ごめん、ガーネ様。これ以上、聞いてらんない。
恋愛になると人格変わる人いますよね。
あれは一体何の魔法にかかっているんでしょうか。不思議です。
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