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コーヒーの話が終わり、次に話すのは温泉旅館を建てるという話。
温泉とは何かというの説明。
疲労回復と肌にいいという話もしておく。
温泉源を見つけていて、建てるのは1人~3人のグループの2組だけが泊まれる旅館にするということ。
その旅館では、体の筋肉をほぐすマッサージや頭皮マッサージをし、昼食で食べたようなご飯を提供するということを話した。
「旅館に関しては、建物が完成すれば開業します。建築中に人材育成を並行する予定です。1組目は、コネを使って両陛下に来ていただきます」
「「は?」」
コネを使ってって言っちゃったー。
咳払いして誤魔化しておこう。
4人が驚いたのはコネの部分ではなく、両陛下が来るということだった。
「こんな田舎に両陛下が来るなんて、あり得るのか?」と驚いていたのだ。
「コーヒー事業に関しても、すぐ行動に移したいと思っています。ただ、挿し木をし、実がなるまで3年かかります。広く流通させるには、3年以上かかるということです。
これらを踏まえて、キルシュブリューテ領をアヴェートワ領並みに豊かにするには、最低5年かかると思います。
私1人では、もっとかかります。皆様のお力を考えての年数になります。長い道のりになりますが力を貸してください。よろしくお願いします」
立ち上がって、頭を下げた。
協力して頑張っていく必要があるんだから、領主代行だとか、子供だとか、大人だとか関係ない。
このお辞儀は、私は頑張りますという意思表示だ。
これからの道のりを、胸を張って進んでいくための一礼だ。
椅子が動く音が聞こえ、顔を上げると、4人全員が頭を下げていた。
数分後、上がった顔には優しい笑みが浮かんでいる。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。こんなにも考えてくださっていて、感無量ですよ」
「なんでも協力いたします。一緒に頑張らせてください」
「皆様、ありがとうございます」
微笑み合って、座り直した。
ケープが2杯目のコーヒーを淹れてくれ、皿受けにはチョコレートが用意される。
「コーヒーの木は、早速、植えはじめたいと思います」
「はい、お願いいたします。植えられそうな場所ですが、ピックアップをしてみました。参考にしてください」
地図と写真を机に並べた。
土地勘のある4人が、あーでもないこーでもないと、栽培場所を選んでいく。
コーヒーの木を植える場所が決まり、大麦と大豆の二毛作の話も詰めることができた。
旅館や旅館のサービスに関しては、ルチルが主導で進めることが決まった。
「最後にもう1つだけ、とても重要なことがあります」
「なんでしょうか?」
「領民が楽しそうではないということです。活気がなく、頑張り方が分からなくなっているように見えます」
「そうですね。もう何年も前から、楽しそうにしている姿は見ていない気がします」
「5年前からじゃないでしょうか」
「何かあったのですか?」
「この領地、最大のお祭りは収穫祭だったんです。6月の大麦の収穫時期に開催していたのですが、財政難で8年前からお祭りをしていないんです。来年こそはと頑張っていましたが、5年くらい前から開催さえ諦めるようになってしまって、今では誰も口にしなくなりました」
収穫祭は特別みたいだもんねぇ。
アヴェートワ領でも飲めや歌えやで、その日だけ夜遅くまで音楽が聞こえるもの。
頑張った自分たちへのご褒美でもあるんだろうしね。
人間労ってもらわないとダメってことだよね。
「楽しいことがないと、頑張り続けるのは無理ですものね。
分かりました。豪華にはできませんが開催しましょう。やってみる価値はあると思うんです」
「でも、今は9月ですよ。予算はどうされますか?」
「豊穣を願うお祭りにして、種まき前の10月後半にでも開催できればと思うんです。それに、それぐらいの予算はありますよ」
「あるんですか!? スペンリア伯爵は、いつも赤字だって言っていましたよ」
陛下から割り当てられた支度金が、ちゃんとあるからね。
あいつの赤字は、自分たちが贅沢するからなんだよ。
「先に街だけでも設備を新しくしようかと思っていた予算を豊穣祭にあてれば、問題なく開催できます」
「設備なんて、それこそ10年以上新調されていませんよ」
「そのようですね。街が寂れて見えてしまう1つの原因だと思います」
ボロボロだったベンチとか、綺麗にしたかったんだけどなぁ。
DIYしてみようかな?
「街が綺麗になったら、皆様、少しは元気になるかもと思ったんです。それで、多めの予算を割り当てていたんです」
やましいことは何一つないので、予算表を4人に見せる。
「自分の無能さに腹が立ちます。私は、スペンリア伯爵に騙されていたんですね」
そうなるね。口に出して言えないけどね。
「あなただけではありませんよ。私も一緒です」
残りの2人も頷いている。
辛そうな4人の表情に、ルチルは声をかけることができない。
「今までは今まで、これからはこれからです。皆様は今から領民のために動くことができるんですから、過去に反省があるなら生かすべきです」
ん? んん? ねぇ、ヘリオ様。
いいこと言ってる風だけど、過去の反省活かすなら、あたしをずっと疑うってことじゃない?
「そうですね、頑張りましょう」って言い合っている姿に、そんなんだから騙されるんだよと思ってしまった。
雰囲気に飲み込まれすぎだよー。
ん?
もしかして、これがこの領地の特徴なのかも?
ってことは、お祭りしたら元気になるよ!
それに、街もオランダみたいに色とりどりなら可愛いし綺麗しで、気持ちも明るくなるんじゃないかな。
街はDIY決定だな。
簡単なDIYだったら、農村も含めてできる気がする。
力仕事だし、騎士団にお願いしてもいいかな?
騎士が至るとこにいるってなると、喧嘩もなくなるだろうしね。
DIYは、街の人たちにも協力してもらおう。
4人にも協力してもらわないとと、街や農村の修理を提案した。
修繕後はペンキを塗って華やかにしたい、と伝ると4人は了承してくれ、4人とヘリオ子爵令息が領民たちに説明をしてくれることになった。
3日後からDIYを始めることになったが、ルチルには金色の魔法のお披露目パーティーがある。
パーティーが終われば冬期が始まるため、学園に戻らなければならない。
「楽しそうだから、僕、お手伝いしますよ」と弟が言ってくれ、弟に甘えることにした。
祖父も手伝ってくれるそうだ。
ルチルは「土日は絶対に手伝いに来るから」と、騎士団に何度も感謝と謝罪を述べて、アヴェートワ領に帰ったのだった。




