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秋休み初日のお茶会は、規模を少し大きくした。
カイヤナ侯爵令嬢の取り巻きたちや、虐めに目を光らせてくれていただろう数組の小さなグループに、招待状を送ったことが大きな理由になる。
ルチル自身は気づいていなかったが、カイヤナ侯爵令嬢が取り巻きたちのことを、それとなく教えてくれた。
カイヤナ侯爵令嬢と友達になっていて、本当によかったと思ったものだ。
もしかして、他にも影ながら貢献してくれた人がいるのでは? と調べて、数組の小さなグループに行き着いた。
彼女たちの家は、アヴェートワ商会と取引があった。
仲良くするように両親から言われていて、貢献してくれたのかもしれない。
協力的な姿勢は嬉しいし、お礼を兼ねて、まるっと全員招待した。
加えて、2年生が多すぎると萎縮してしまうかもしれないからと思い、1年生の招待人数も増やしている。
そのため、規模を大きくせざるを得なかった。
カイヤナ侯爵令嬢が、失恋したことには触れていない。
相談をされていたわけじゃないからだ。
失恋の痛みが癒えたら話してくれるかもしれない。
その時があるのなら、静かに聞こうと思っている。
ガーネ侯爵令嬢とエンジェ辺境伯令嬢は、仲直りをしている。
ガーネ侯爵令嬢が謝ったそうだ。
そして、ジャス公爵令息が好きだと、エンジェ辺境伯令嬢に伝えたそうだ。
それが、昨日の出来事らしい。
ガーネ侯爵令嬢から聞いて、ガーネ侯爵令嬢には申し訳ないが、エンジェ辺境伯令嬢が心配になった。
「正々堂々と勝負しましょう」と言ったそうだが、勝負も何もジャス公爵令息の好きな人はエンジェ辺境伯令嬢だ。
そこで勝負ってなるガーネ侯爵令嬢の根性に完敗する。
1年生の時の夏休み、ジャス公爵令息がガーネ侯爵令嬢へのお土産に、ヘビのペンを見ていたことがあった。
アレはジャス公爵令息の皮肉だったのかもしれないと、今になって思った。
エンジェ辺境伯令嬢と話をしたかったが、2人で話すことは叶わなかった。
お茶会1日目は人数が増えて大変だったが、みんな楽しそうにしてくれていて、笑顔を見るのは嬉しかった。
そして、2日目も大成功で終わり、ルチルは「明日からが大変なんだよね」と入浴中にブツブツ言って、カーネを心配させてしまった。
秋休み3日目。
朝食後、キルシュブリューテ領に移動した。
一緒に行くメンバーは、オニキス伯爵令息・カーネ・祖父・弟・ミルクだ。
祖父は護衛としてだが、弟とミルクは遊びたいからという理由だった。
ルチルは秋休みの約3週間、ずっとキルシュブリューテ領にいることになるため、数日に1回の頻度でアズラ王太子殿下が泊まりにくることになっている。
使用人たちの緊張は半端ないだろうが、頑張ってもらうしかない。
キルシュブリューテ領の転移陣前で出迎えてくれたのは、2人の男性だった。
1人は、おかっぱの薄紅色の髪に翡翠色の瞳をしている執事長のケープ。
ケープはサーぺの甥で、ブロンとは従兄弟になる。
3人とも平民だそうだ。
何代も前の当主が拾って、代々アヴェートワ公爵家に仕えているとのこと。
サーペとブロンの姓に興味はなかったから聞いたことがなかったが、ケープの雇い主になるのだからと祖父から説明をされていた。
ケープってば、本当にめちゃくちゃ綺麗。
生で見ても高身長の女性にしか見えないわ。
ルチルは、顔と名前を覚えるために、採用した人全員の写真を送ってもらっていた。
1人1人確認している時にケープの写真を見て、「女の人が執事長なんて珍しい」と思いながら右下に書いてある文字に視線を走らせたら、【男性】と記載があって声を出しそうになったものだ。
もう1人、ケープと一緒に出迎えてくれたのは、ルチルの補佐をする文官のヘリオ・コンディンガ子爵令息。
白緑色の髪を丸刈りにしていて、浅緑色の瞳をしている。
騎士と間違えそうなほど体格がいい。
アズラ王太子殿下が治めているガディオッホ領の文官マホガニー・コンディンガ子爵の一人息子で
コンディンガ子爵からルチルの話を聞いて一緒に働きたいと思っていたとのこと。
面接の時に、土下座をする勢いだったそうだ。
「はじめまして。ルチル・アヴェートワと申します。これからよろしくお願いします」
「ご丁寧にありがとうございます! ヘリオ・コンディンガと申します! 精神誠意、尽力いたします!」
お、おお。熱血青年なのかい?
「ケープと申します。死ぬまで、よろしくお願いいたします」
お、おお。こっちは癖が強いのかい?
2人と軽く挨拶と自己紹介をし合い、別邸に向かった。
今日は、特別に全員に出迎えをしてもらっている。
なぜならば、領主代理として挨拶をするからだ。
キルシュブリューテ領の領主は書類上は父だが、経営するのはルチルなので領主代理になるのだ。
まずは、侍女や侍従などの騎士以外の使用人たちと言葉を交わした。
お近づきの印に、チョコレートを配ることを忘れない。
次に訓練場にて、騎士団と顔合わせをした。
昔護衛騎士だったデュモルの姿があって、「久しぶり」と手を振った。
こちらもお近づきの印に、チョコレートを配っている。
ひと休憩する間もなくルチルとオニキス伯爵令息と祖父は執務室に案内してもらい、弟とミルクは「別邸を探検する」と言って走っていってしまった。




