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22 〜アズラの想い〜

アヴェートワ領から帰宅し、自室へ戻らず食堂に足を向けた。

アヴェートワ公爵家のタウンハウスで、ルチルの母タイチンに挨拶とルチルとの婚約を説明し、王宮に戻ってきたら丁度夕食の時間だったのだ。


「父上、母上、お待たせして申し訳ありません」


「よいよい」


アズラ王子殿下の到着を待っていた陛下と王妃は、談笑をやめてアズラ王子殿下に笑顔を見せる。

アズラ王子殿下が席に着くと、すぐに料理が運ばれてきた。

毎日一緒というのは無理だが、月に数回一緒に食卓を囲んでいる。


「ルチル嬢は元気だったか?」


「はい。本日も大層可愛らしかったです」


「本当にこの子ったら」


呆れながら言ってはいるが、王妃の嬉しそうな雰囲気に、陛下も穏やかに笑っている。


アズラ王子殿下は、生まれながらに天才だった。

すぐに言葉を話し、歩き始めるのも早かった。

大人が言うことも1度で理解して、いつも微笑んでいる。

怒ることも泣くことも、声を出して笑うこともしなかった。


そんな我が子をどうすればいいのか分からず、成長を見守ることしかできなかった両陛下は、日々頭を悩ませていた。

欲がなく、あれをしたい、これが欲しいがない。


ただ唯一様子を変えたのが、フルーツサンドとジャムを初めて食べた時だった。

フルーツサンドやジャムを考えたルチル公爵令嬢に、興味を持ちはじめたことにも喜んだ。

ルチル公爵令嬢と遊ぶ度に、表情が豊かになって嬉しかった。

だから、アヴェートワ領に遊びに行くことを許可している。


「父上と母上にご報告があります」


「どうした?」


「本日、ルチル公爵令嬢に白い百合の花束を贈りました」


アズラ王子殿下が白い百合の花束を用意していたことは、両陛下の耳にも入っていた。


「受け取っていただき、後日、青い百合の花束も受け取っていただけるそうです」


両陛下が顔を伸ばし、震える手で持っていたフォークとナイフを置いた。


「そ、それは……」


「アヴェートワ前公爵と公爵には許しをもらっています」


「まぁ! まぁ! なんてことかしら!」


「母上、落ち着いてください」


「落ち着いていられないわ。おめでたいことなのよ」


「……ありがとうございます」


照れたようにはにかみながら小声でお礼を伝えると、息子の変化に嬉しい王妃は涙ぐんで両手で口元を隠した。


「そうか、そうか。よくやった」


同じように涙ぐんでいる陛下は、侍女に新しいワインを持ってくるように言っている。

両陛下共、アズラ王子殿下の気持ちは知ってはいたが、アヴェートワ公爵家の守りが固く婚約を進められずにいたのだ。


「父上も母上も許してくださるということで、よろしいでしょうか?」


「もちろんだ。アズラが決めた相手を反対なんてするものか」


「ありがとうございます」


その後は婚約式のことを話し合い、終始賑やかな夕食は終わった。


アズラ王子殿下は湯浴みが終わり、ソファに座って一息吐いた。

すかさず紅茶を淹れてくれたチャロを下がらせて、目を閉じる。


なんとかルチルと婚約できてよかった。


最近、お茶会で令息たちが「両親がアヴェートワ公爵家に縁談を持ち掛けている」って話をしているのを聞いて、息が止まるかと思った。

何家申し込んでるんだ? と思うほど、みんな言ってたな。

だから、僕のお茶会で会えたら話そうと思ってたのにって。


目は閉じているが、苦虫を噛み潰したように顔を歪ませる。


そんなこと、僕が許すわけないだろう。

ルチルが出席したら、ルチルの側から離れず、令息たちを追い払うに決まっているのに。

僕が遊びに行っていることを知っているはずなのに、バカな親たちにバカな子供たちだ。


目を開けて、気持ちを落ち着かせるように紅茶を1口飲んだ。


ルチルは、僕が悲しそうにすれば、大抵のことは首を縦に振ってくれる。

それを利用しようとした。


けど結果は、ルチルはずっと困り顔のまま、アヴェートワ前公爵と公爵が許してくれた。


ルチルのことは……仕方ない。

まだ、僕を好きではないんだろう。

友達としか思われていないことも分かっていた。

これから、好きになってもらえばいい。


気になるのは、アヴェートワ前公爵と公爵が許したことだ。

そして、何よりアヴェートワ前公爵の言葉が気になった。


『もう1つは、何者からに対してもルチルを守ってほしいのです』


当たり前のことを言われた次の言葉……


『必ずですよ。他の貴族であっても、隣国であっても、神殿であってもです』


他の貴族は、縁談はもちろん嫉妬からの虐めや暗殺などだろう。

王家と、今現在国1番の力を持つ貴族アヴェートワ公爵家が、縁組みをするのは嫌がるだろうから。


アヴェートワ公爵家は、中立で貴族派や王族派には属していない。

貴族派の筆頭はナギュー公爵家で、王族派の筆頭はルクセンシモン公爵家。

スミュロン公爵家は、アヴェートワ公爵家と同じ中立派だ。


まぁ、貴族派王族派といっても対立している訳ではない。

意見が纏まらないだけで、反旗を翻すとかの亀裂も綻びもない。

ただのグループ分けで、呼びやすいグループ名というくらいだ。


だからといって暗殺がないわけではない。

自分の娘を王妃にしたい貴族はごまんといるからだ。


隣国も可能ならば縁組みしたいだろうし、僕が縁組みすることは嫌だろう。

トゥルール王国は周りの国に比べて豊かだし、これ以上力をつけてほしくないと思うだろうから。


国内外の貴族や隣国の王族に気をつけるのは分かる。

だけど、神殿も?


こんなの暗に、ルチルが神殿から狙われている。

又は、これから狙われると言ってるようなものだ。


神殿から狙われる理由なんて1つしかない。

光の魔法の使い手だ。


王宮の図書館で禁古書になっている、光の魔法の使い手たちの生涯を書いた本が頭をよぎる。


休む間もなく光魔法で治癒を続け、夜は神官たちの夜の相手を強要される生活は、途中で吐きそうになるものだった。

豪華な部屋に豪華な食事だとしても、耐えられるような日々ではない。


神殿など潰してしまえばいいと、何度も思った。


だが、教会は孤児院を併設しているところが多く、また信者も多い。

国民から反感を買ってまでする必要はない。

内乱は国も民も疲弊する。


それに、辛い思いをする光の魔法の使い手は、今は現れていないのだから。


息を吐き出して、頭を小さく振った。


でも、現れてしまった。

愛しい相手が、光の魔法の使い手なのだ。


光の魔法の使い手の行く末は、王家か神殿。


だから、僕が許されたというだけ。

アヴェートワ公爵家から認められるには、ルチルを守りきるしかない。


ルチルが、光の魔法の使い手と知れ渡るのは10才の年。後3年……

その間に、ルチルを守れる手段を整える。


ルチルは、毎日がつまらなかった僕に、面白い世界もあると教えてくれた人だ。

失くすものか。


そう心に決め、冷たくなった紅茶を飲んだ。






あれ?アズラ様、実は少しお腹が黒い?天使のはずでは?(;-ω-)a゛

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