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秋期の成績順位表を見終わったルチルは、その足でD組の教室に向かった。
モスアとセレの元のクラス、ルチルがお仕置きをしたクラスだ。
ナギュー公爵にお叱言を言われて色々考えてみたが、そこまで悪いようにはしていないと思っている。
家族も含めて白い目で見られるようになっているが、生活水準は変わっていない。
どれだけ悪いことをしたのか理解するには、必要なお灸だったはずだ。
D組の扉の前で、深呼吸をした。
「放っておけばいいのに」
「そうですけど。これから生きていく人生の方が長いですから。道は切り拓けるんだと知ってほしいんですよね」
それに、虐めがなくなったのは、D組の子たちのおかげでもあるからね。
騒いでくれたから広まって、二の舞にならないようにってなくなったはずだもの。
許せはしないけど、反省して頑張ろうってなるなら、背中を押すくらいはしてもいいと思うの。
オニキス伯爵令息が、ドアを開けてくれた。
背筋を伸ばして、教壇まで歩いていく。
教室の空気が張り詰めたのが分かった。
今度は何をしに来たんだろうと、ほとんどの子が怯えている。
教壇から生徒たちを見渡して、笑顔を浮かべた。
「皆様に、耳よりな情報をお持ちしました。冬期のテストで1位になられた方は無罪放免にいたします」
秋期D組の成績の平均値は、10クラス中10位だった。
勉強が手につかなかった子が多かったんだろうが、目も当てられない成績だった。
勉強だけで、優秀かどうかを決めることはできないと分かっている。
他に優秀な面があるかもしれない。
でも、勉強は1つの目安になる。
それに、本当に1位じゃなくてもいい。
どれだけ頑張れるかを見たいだけなのだ。
「あ、あの、無罪放免とは……」
「就職先を斡旋させていただきますわ。領地経営で家に入られる方もいらっしゃるでしょうから、新しい取引先の斡旋でも構いません。婚活パーティーを開催してもいいですしね」
「急にどうしてでしょうか?」
あの子は怯えていないのよね。
反省をしてないんだろうな。
そもそも、何であんなことになったのかも分かっていなさそう。
「アズラ様に嘆願された家の方はご存知だと思いますが、これからの行動を見るとお言葉があったかと思います。私は、優しいアズラ様の手伝いをしたいだけですわ。皆様も大切な国民ですから」
「アヴェートワ公爵令嬢は、平民にしか興味がないんだと思っていました」
ほうほう、てめぇマジで反省してないな。
でも、ひねくれさせたのは、あたしかもしれないしね。
許してやろう。
「私は、アズラ様にしか興味がありませんのよ」
予想外の言葉だったのだろう。
喉を詰まらせている。
「皆様も、アズラ様がどれだけ素晴らしいかご存知でしょう。勉強ができて、強くて、カッコよくて、可愛くて、優しくて。いつ見ても、どの角度から見ても見惚れてしまうんです。
危ないわ。声がカッコいいということを伝え忘れるところでしたわ。後、いい匂いもしますのよ。ああ、後、瞳も綺麗ですし、手も素敵ですわね」
「見た目ばっかじゃん」
オニキス伯爵令息にツッコまれる。
「中身は内緒ですわ。外見も中身も完璧だと、皆様も惚れてしまうでしょう。それに、アズラ様とのエピソードを話すとなると何日かかることか。秋休みは予定がたくさんありますから、今はそこまで時間をかけられませんの」
「1エピソードも聞きたくないっての」
「そう言うオニキス様も、アズラ様が大好きですのに」
「うわっ、やめてよ。俺は女の子が好きなんだから」
オニキス伯爵令息と言い合っていると、D組の担任がやってきた。
ルチルの姿を見て、青い顔をしている。
足に根が生えたように、ドア前から動けないようだ。
「あら、早く戻りませんと、マルニーチ先生に怒られそうですわ」
ルチルは気を取り直して、生徒たちに向き直した。
「私は、貴族平民関係なく、1人の人間として皆様を見ています。それぞれ生きている、代わりがきかない1人の人間です。
確かに、平民より貴族の方が偉いです。でも、偉いからと言って何をしてもいいわけではありません。同じ人間なんですから、同じように気持ちがあるんです。ですから、皆様1人1人が大切な国民なんです」
真っ直ぐに胸を張って、生徒たちを見渡す。
「皆様、冬期頑張ってください。私も負けないように頑張りますわ」
胸に手を当てて、小さくお辞儀をした。
D組の担任に「お邪魔しました」と伝え、教室を出ていく。
「俺、時々、ルチル嬢が男に見えるよ」
「どこがですか? アズラ様を想う私は乙女ですよ」
「はいはい、そーですね」
棒読み……ひどい。
「ダンピマルラン侯爵令嬢は、やっぱりいませんでしたね」
「あの日から休んでいるからね。婚約破棄されて、部屋に引きこもっているらしいよ」
ダンピマルラン侯爵令嬢は、暴力に関する虐めは止めてくれていたらしい。
いくら平民でも女の子を殴るのはダメだと、注意をしていたそうだ。
でも、虐めという導火線に火を点けたのは、間違いなくダンピマルラン侯爵令嬢だ。
ここまでならやっていいなんて灰色部分はない。
虐めは、虐めだ。
この先どう頑張るかは、彼女次第だ。
ダンピマルラン侯爵令嬢にも、前を向くチャンスがあればいいと思う。
明日から秋休み突入です。キルシュブリューテ領に行きます。
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