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スミュロン公爵はあまり時間を開けずに来てくれ、陛下や残りの公爵たちも後から駆けつけるとのことだった。

全員が夜のパーティーに顔を出さないのはおかしいから、顔だけ見せてこちらに来るそうだ。


スミュロン公爵の適切な処置により、全員助かった。

後遺症も残らないとのこと。


痺れ薬が薄まる薬を飲んで、アズラ王太子殿下も不自由なく動けるようになり、華やかなパーティーの裏で緊急会議が開かれた。

陛下、四大公爵家当主、アズラ王太子殿下とオニキス伯爵令息でだ。


ルチルの側には、戻ってきたカーネと祖父がいてくれることになった。


「ルチル、大丈夫か?」


「私は守ってもらいましたので大丈夫です。ただ、今日はアズラ様の誕生日でしたのに……笑って過ごしてほしかったんです」


誕生日に事件があったなんて、一生忘れることができないだろう。

撃退できたけど、いい記憶としては残らない。


襲うにしても、空気読んで襲ってよね!

どうしてよりにもよって、アズラ様の誕生日なのよ!

あの双子、許さない!


ずっと背中を撫で続けてくれている祖父を見る。


「お祖父様。黒目黒髪の人は、どんな魔法が使えるのですか?」


聞いたことがないし、習ったことも読んだこともない。


「黒目黒髪は忌み子と言われていて、生まれた時に殺されるんだ」


は?

ひどい。何、その風習。


「理由は、邪竜が黒目黒髪だったからだそうだよ」


ん? んん?

邪竜が、黒目黒髪?

竜の目が黒でもいいけど、黒髪?


「えっと……竜って髪の毛あるんですか?」


数回瞬きをした祖父が、大声で笑い出した。

変なこと言ってないよね? と、首を傾げる。


「邪竜と呼ばれているが、邪竜は人間だ。名前は、ルリ・イガラシ。女性だよ」


は? はぁ? はぁぁぁぁ!?

めっちゃ日本人の名前きたー!


ちょっと待って……

どうしてお祖父様はそんなことを知っているの?

これって、常識なの?

でも、どの本にも、邪竜は名称だとは書いてなかったよね?

あたしが読んでいないだけ?


考えるように俯いた視線の先に、祖父の左手があった。

ルチルの心臓が大きく脈打つ。


だ、だめ。動揺したら、だめ。


目を1度閉じて改めて見ても、祖父の左手人差し指にあるはずの指輪がない。


このお祖父様は偽物だわ。


いつから?

ずっと一緒だったよね。


もしかして、はじめから……


待って、待って、待って!

本物のお祖父様は、どこにいるの?


「ルチル、震えているが寒いのか?」


「いえ、今になって、襲われた時の怖さがきたようです」


声が震える。

どうしよう。どうやって逃げればいい。


「先ほどの話の続きですが、邪竜の子孫ということですか?」


「邪竜の子孫は王家じゃないか」


「親戚かなにかかと思いまして」


カーネに、どうにかして伝えたい。

でも、どうやって伝えたらいいのか分からない。


「カーネ。悪いが、温かい飲み物をもらってきてくれないか?」


「かしこまりました」


待って! 行かないで! カーネ!!


無情にもルチルの心の声は届かず、カーネは部屋を出ていってしまった。

斜め上からクスッと笑ったような声が聞こえた。


「ねぇ、ルチル・アヴェートワ公爵令嬢。バレてるよね?」


祖父の声なのに、口調が若い子のように砕けた。


「な、なにを……」


「君に何かするつもりはないよ。教えてほしいことがあるだけなんだ」


「わた、私が知っていることなんて、少ないわ」


「そんなことないよ」


偽物の祖父が、ドアに向かって叫んだ。


「外にいる人たちも入ってきていいよ!」


何を? と思う間もなく、ドアがゆっくりと開き、アズラ王太子殿下・オニキス伯爵令息・祖父と父が入ってきた。

カーネは部屋に入らず、開けたドアの前にいる。

こんな状況なのに、祖父の無事が確認できて安堵した。


「完璧だと思っていたのにな。いつからバレていたの?」


「初めからだよ。アヴェートワ前公爵にしては火力が弱すぎた。そして、僕に対して優しすぎたし、敵が消えた後にルチルを抱きしめなかった。他にもあるけどね」


「もっと調べてから行動すればよかったかな。でも、残り時間が少ないんだ」


「何の時間?」


「それは秘密。でも、俺は敵じゃない。それは信じてほしい」


「だったら、変装を解いて、ルチルから離れろ」


「それはできない。この子を離した瞬間、攻撃するんだろ。俺はただ話したいだけなんだ。ルリ・イガラシについてね」


ルリ・イガラシ……

知らないよー! 聞いたことないよー!


「さっき、邪竜が人間だって言ってたな。それは本当のことなのか?」


「本当だよ。神獣から聞いてないの?」


「聞いてない」


あたしも聞いてない。

ミルクは、基本聞かなきゃ教えてくれないから。


「忌み子については知ってる?」


「知っている。でも、未だに殺しているのは、ポナタジネット国だけのはずだ」


「それはどうかな」


「トゥルール王国では禁止している」


「禁止していても、バレないように殺したり捨てたりする親はいると思うよ」


あたしが見たことないのも、そうしているからってこと?

黒目黒髪の、何が悪いのよ!

喧嘩売ってるわ!!


「邪竜だけが黒目黒髪だったわけじゃない。他にも大勢いたはずなんだよ」


「それが知りたいことか? 神獣に聞けばいいのか?」


「違うよ」


剣を握っているアズラ王太子殿下の手に、力が込められる。

ルチルを助け出したくて仕方がないのだ。


「知りたいのは、ルリ・イガラシのことだよ。ルチルは知っているはずなんだけどね」


「気安く呼ぶな!」


え? あたしが、ルリ・イガラシを知っている?


知らないよ。

前世は誰の顔も思い出せないけど、名前は覚えているもの。

あたしの名前も家族の名前も違う。

友達や知り合いにもいない。


「どうして私が知っているの?」


「君が、ルリ・イガラシが食べたいと言っていたものを次々と作ったからだよ」


はぁ? そんな理由!?

日本人ならってか、前世同じ時を生きてた人たちなら、全員食べたいと思うわー!


ん? 前世同じ時を生きていた人たちなら?

あたしは転生したけど、黒目黒髪だったとしたら転移したってこと?


「ルチルが知っていたとして、聞いてどうするんだ?」


「色々教えてほしいんだよ。糸口が見つかるだろうから」


小さく鈴の音が鳴った。

本日聞くのは、2回目だ。


「時間切れ。また会いにくるよ。本当に分からないなら、神獣にでも聞いておいて」


アズラ王太子殿下たちに笑顔で手を振る偽物の祖父は、消える直前に顔を近づけてきた。


「え?」


嘘でしょ……


偽物の祖父は、ルチルにしか聞こえない声で「裏切り者に気をつけて」と言い逃げをしたのだ。


「ルチル! 大丈夫!」


「……は、はい」


オニキス伯爵令息以外の人たちが駆け寄ってきて怪我はないか等の心配をしてくれるが、伝えられた言葉が衝撃すぎて上手く受け答えできない。


嘘だよね?

裏切り者がいるっていうの?


嘘だよ。

あたしを惑わせようとする嘘に決まっている。






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