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今の部屋がある離宮は、建物が高くない分、横に広い。
それぞれの部屋ごとが建物になっていて、建物と建物が屋根だけがある廊下で繋がっている。
1つ前の部屋は7階建ての7階だったので、階段が嫌いなルチルは、今の部屋の方が気に入っている。
部屋がある建物に続く廊下で、突然オニキス伯爵令息が立ち止まった。
「ルチル嬢、これ以上進んだらダメだ」
「急に何一一
怖いくらい真剣な顔をしているオニキス伯爵令息に、言葉を続けることができない。
「カーネさん、ルチル嬢から絶対に離れないで。あーもー、給仕つれてくればよかった」
「オニキス様。一体、どうされましたか?」
「痺れ薬かな? 風に乗って匂いがする」
え? これ以上進めないってことは、この先から匂っているってことだよね?
この先って……私たちの部屋しかないじゃない!
走り出そうとしたところを、オニキス伯爵令息に捕まえられた。
「進まないでってば!」
「でも! アズラ様が!!」
「殿下は大丈夫だから」
「どうして分かるんですか!?」
「信じているからだよ」
掴まれている腕に、力を込められた。
声は冷静でも、心では物凄く心配なのだろう。
無意識に入れられただろう力が強くて、顔を歪めてしまう。
「ごめん。カーネさん、ルチル嬢捕まえてて。絶対に先走りさせないで」
頷くカーネに引き渡されて、カーネに腰をもたれた。
絶対に離さないという意思が、よく分かる。
「アヴェートワ公爵は近くにいるけど……前公爵に来てもらうか」
すぐさま伝書鳩が飛んでいく。
「お父様の方が早いなら、お父様を呼びましょう」
「給仕が一緒にいたら呼びにいってもらってたよ」
「伝書鳩があるじゃないですか」
オニキス伯爵令息の瞳は、真っ直ぐに前、アズラ王太子殿下の部屋がある方に向いている。
本当はルチルを置いて助けに行きたいのだろうが、オニキス伯爵令息の役目はルチルの護衛だ。
緊急事態の今、離れることはできない。
「伝書鳩は、秘密の魔法なんだ」
「どういうことですか?」
「ラセモイユ伯爵家には、隠密部隊っていう裏の顔があるの。これで分かる?」
隠密部隊……
納得した。
昔からオニキス様の行動は、謎が多かったもの。
王宮に忍び込めたのも、周りの噂話や状況を調べられたのも、隠密としての勉強や訓練をしていたからなのね。
そして、ラセモイユ伯爵家は、王宮主催のパーティーには参加しない。
実はオニキス様以外見たことがない。
現当主は、陛下と仲が物凄く悪いと聞いている。
それは、きっと嘘なのだろう。
自由に動くために、不仲を装っているのだろう。
そういえば、伝書鳩は、周りに人がいる時は隠れるように使っていた。
「ルチル嬢には、殿下と結婚してから言う予定だったんだ。内緒にしていて、ごめんね」
「いえ、秘密にされることは当たり前です」
「でね、殿下はたぶん今戦っている」
「分かるんですか!?」
「探知魔法でね。6名倒れていて、3名動いている。1名突っ立ったまんま。様子見しているのかな」
オニキス伯爵令息が舌打ちしたと思ったら、既に横にいなかった。
後ろで、黒ずくめの男と剣を交じ合わせていた。
「オニキス様!」
「見つけた。あの女だ」
左右から黒ずくめの男が、1人ずつ飛び出してきた。
それぞれから粉を投げられたが、見えない壁に当たったようで、水滴が落ちるように地面に落ちた。
「絶対、そこから動かないでよ!」
もしかして、防御壁?
って、1人倒した!
えええええ!? 全然弱くないよ!
他の2人もあっけなく、オニキス伯爵令息に倒されている。
息を吐き出したオニキス伯爵令息が剣を片付けようとした時、オニキス伯爵令息の足元から水柱が上がった。
「へぇ、まだ生きてるな」
「本当だね。これ壊れてないもんね」
防御壁をノックされた。
振り返ると、見たことない男性と女性が笑顔で立っている。
男性は、ツーブロックにした髪を結んでいて、瞳は鋭く尖っている。
女性は、ツインテールで鋭い瞳をしている。
2人共、髪の毛も瞳も黒色だ。
日本人? 双子? え? どうして??




