44 〜 シトリンの心の行方 3 〜
やってしまったわ。
フローが気持ち悪かったせいで、フローの誕生日プレゼントを買いに行けてないわ。
ナギュー公爵家からは贈るんだし、今年はなくてもいいかしら。
でも、正式な婚約者になったものね。
その年に私からないのはおかしいわよね。
「ルチル様、お願いがあるの」
オレンジペコーを淹れているルチル様を見た。
私がオレンジペコーを好きだと知ってから、オレンジペコーの回数多いのよね。
時々会うお祖母様が、「シトリン、これ好きでしょ」って買ってくるのと同じだわ。
ルチル様、まだ16才なのに変なのよね。
「なんですか?」
「フローの誕生日プレゼントなんだけどね」
うわ。言うんじゃなかったわ。
キラキラした顔で見られて鬱陶しいわ。
「何か手作りしたいんですか?」
「違うわよ」
「プレゼントは私。とか、やりたいんですか?」
「なにそれ?」
ルチル様が「体にリボンを巻くんです」って詳しく教えてくれたけど、信じらんない!
バカじゃないの! はしたなさすぎるわ!
「まさか……アズラ様とそんなことしているの?」
「していませんよ。アズラ様には刺激が強すぎますから」
「フローには強くないっていうの?」
「うーん、フロー様の場合、体よりも目隠しの方が喜びそうですよね」
リボンで目隠しするの?
絶対に目が痛いわよ。
する意味が、全く分からないわ。
「ルチル様……その、アズラ様と、どこまで進んでいるの?」
きょ、興味なんてないわよ!
令嬢が興味を持つなんて、はしたないもの!
ただちょっと同じ年の婚約者がいる身としてね、ルチル様を心配しているだけよ!
「キスまでですよ」
もうキスまでしているの!?
キスって、結婚式の時に初めてするものでしょう!
「どういう時にしているの?」
本当に、興味があるわけじゃないわよ!
そういう雰囲気にならないように勉強しておくの。
フローのことだから、何かしてくるとかないと思うけどね。
念のためよ、念のため。
「アズラ様、好き! が爆発した時ですね」
え? その言い方……まるで……
「ルチル様から、しているの?」
「はい」
はいー!?
常々、ルチル様はおかしいと思っていたわよ。
こういう所も普通じゃないなんて。
友達やめた方がいいのかしら?
でも、私ほどの令嬢に、普通の令嬢はついてこれないものね。
変なルチル様だから問題ないのよ。
仕方ないから友達でいてあげましょ。
「そもそも好きって、爆発するものなの?」
「しますよ。体からブワーッて溢れ出すんです」
よく分からないわ。
ルチル様の言うことだから、分からなくて当たり前ね。
「そのうち、シトリン様にも分かりますよ」
「その言い方、ムカつくからやめて」
「ごめんなさい」
クスクス笑うルチル様を睨むと、もう1度謝られた。
「フロー様の誕生日プレゼントでしたよね。何を協力すればよろしいんですか?」
「アヴェートワ商会で取り扱っている指輪類を見せてほしいの」
「婚約指輪とは別に贈るんですか?」
「昨日買いに行ったけど、決まらなかったのよ」
「決めるの難しいですよね。どんなデザインがいいとかありますか?」
「特にないわ。でも、どんな服にも合う指輪がいいわ」
「宝石はあった方がいいですか?」
「できればね」
「うーん、でもなぁ」と言うルチル様を見ながら、お茶を飲む。
「私が買おうと思っていた指輪があるんです。シトリン様には気に入ってもらえると思うんですが、フロー様には可愛すぎると思うんですよね」
「それを含めて、色々見せてほしいの」
「土曜日の午後、アヴェートワ公爵家のタウンハウスでもいいですか?」
「転移陣で行くわ」
「分かりました。父に言って用意してもらいますね」
フローとはお昼休みと放課後は一緒に過ごし、金曜日の夜にルチル様の部屋でエンジェ様にネイルをしてもらった。
エンジェ様は、ルチル様からもらったチップという透明な爪で練習をしていて、上達がとても早い。
フローの瞳が焦茶色だからいつも取り入れるのに苦労するけど、「爪だと可愛いですよ」ってルチル様が教えてくれたからエンジェ様にお願いしたのよね。
チョコレートみたいに可愛くて、満足だわ。




