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階段から落とすなんて、頭がイカれている。

打ちどころが悪かったら、シトリン様は死んでいた。


人を殺そうとしたのなら、人を殺したのなら、同じ報いを受けたって文句を言われる筋合いはない。

命を脅かすんだから、命かけなさいよって話。


ルチルは、対面にいる2組の家族を観察する。


上座に座っているのは、アズラ王太子殿下。

アズラ王太子殿下の後ろに、怒りを我慢しているだろうジャス公爵令息が立っている。


向かい合わせの席にナギュー公爵とルチルが並んで座り、後ろにフロー公爵令息が立っている。

オニキス伯爵令息は、ドア前に立っている。


もう片方の席にはスペンリア伯爵夫妻とマラ伯爵令嬢が座り、その他の人たちは立たされている。

ゴシェ伯爵令嬢も立たされているのだ。


ルチルが、座っている3人を睨んでも怖くないようだ。

スペンリア伯爵夫妻は、ナギュー公爵の機嫌だけを窺っている。


「この度は、ゴシェが御息女様に危害を加えて、誠に申し訳ございませんでした。ゴシェとは、家族の縁を切ります。どうかスペンリア伯爵家を許していただけないでしょうか」


ほう。こいつは、更にあたしの怒りを買いたいと。

売ってやろうじゃないか。


「私は、私は何もしていません」


「嘘を付くな!!」


スペンリア伯爵の怒鳴り声に、ゴシェ伯爵令嬢が真っ青になり、体を震わせ始めた。

萎むようにしゃがんで、両手で耳を隠している。


ルチルの視線が鋭くなる。


「ゴシェ様とは家族の縁を切るということで、よろしいでしょうか?」


ナギュー公爵ではなくルチルが発言したことに、スペンリア伯爵は蔑むようにルチルを見た。


オニキス伯爵令息がジャス公爵令息に視線で「いざという時は、殿下を止めろよ」と送るが、ジャス公爵令息は顔を背けている。


「アヴェートワ公爵令嬢は言葉が分からないようですね」


「後から何か言われないための確認ですよ。もう家族ではない。よろしいでしょうか」


「はぁ。言葉を覆しませんよ」


ルチルが満面の笑みで、アズラ王太子殿下とナギュー公爵を見る。


「アズラ様も宰相様も聞かれましたよね」


ナギュー公爵は、ルチルが敢えて「宰相様」と言ったことに眉を顰めた。


「僕が証人になるよ」


「ありがとうございます」


「殿下が証人になるよりも、一筆書いてもらいなさい」


おお! そうしよう! さすが宰相様!


鞄から紙とペンを取り出して、イライラしているスペンリア伯爵に一筆書いてもらった。

ルチルは紙を大切に鞄に片付けると、笑顔で2組の家族を見た。

笑顔でも目は笑っていない。


「マラ伯爵令嬢。どうしてシトリン様を落とされたのか話してください」


「私は何もしていません。暴れる姉から、シトリン公爵令嬢を助けようとしました」


マラ伯爵令嬢が、涙を拭きながらスペンリア伯爵に寄りかかった。

スペンリア伯爵が睨んでくる。


「ゴシェと違って、マラは心優しい子ですよ。失礼を詫びていただきたい」


オニキス伯爵令息が、いつの間にかアズラ王太子殿下の横に立っていた。

アズラ王太子殿下は、足を組み直している。


「私は、状況の整理をしたかっただけですよ。マラ伯爵令嬢は絶対にされていないんですね。嘘ではありませんよね?」


「そんな怖いことできません」


そうかい、そうかい。

じゃあ、もう地獄をみればいい。


「では、嘘だった場合、どうされますか?」


「嘘ではないと何回も言っています」


「えっと、会話できませんか?」


憤慨すればいいさ。


「嘘ではないなら、何でもできますよね?」


「アヴェートワ公爵令嬢。そこまで言うのでしたら、マラが犯人じゃなければ王太子妃を譲ってくれますか?」


「かまいませんよ」


アズラ様、そんな目をしないで。

譲るなんてこと絶対にないから。

でも、傷つけてごめんなさい。


悲しそうにしているアズラ王太子殿下の前で、歓喜しているスペンリア伯爵夫妻とマラ伯爵令嬢に、どこからそんな自信が出てくるんだろうと不思議になる。


「では、もしマラ伯爵令嬢が嘘を吐いていた時は、家族全員で無人島に行っていただくでよろしいですね」


「勝手に決めないでいただきたい」


「そちらが私のことを決めましたのよ。私が決めることが公平でしょ。それとも、嘘だからダメなんでしょうか?」


「嘘じゃないと言っているだろ!」


怒鳴らないと話せないのかな。

鬱陶しい。


「だったら、よろしいではないですか」


無人島とは名ばかりの監獄島だ。


トゥルール王国と数国が合同運営をしている、2度と出ることができない牢屋になる。

奴隷以下の扱いを受ける牢屋だそうだ。


島の存在を知るのは、王族と上層部のみ。

王太子妃になるまで、教えてほしくなかった情報だ。


ルチルは優雅に微笑んでいるが、スペンリア伯爵は今にも殴りかかってきそうな雰囲気だ。


「トスカシウス子爵令嬢ですよね。あなたは、本当にゴシェ様が暴れて落とすところを見られたんですか?」


震えている子爵令嬢を、父親が両肩に手を置いて支えている。


「わた、わたし、あ、あの……」


「先ほどの証言は忘れます。今言われることを、トスカシウス子爵令嬢の言葉とします」


「私が、見たのは……」


「早く証言しろ! ゴシェがしたんだろう!」


このクソは、どこまでもクソだ。


「スペンリア伯爵は落ち着かれたらいかがですか? 大人なのにみっともありませんよ」


「何を仰っているんですか? みっともないのは、娼婦のようなあなたでしょう。殿下には、マラのような清楚な女性が側にいるべきなんです」


大きな爆発音がして、ルチルの体が跳ねた。


周りを見渡すと、応接室のドアだっただろう扉が、アズラ王太子殿下が座っていた1人がけのソファに激突していた。


アズラ王太子殿下たち3人は華麗に避けたようで、傷一つなさそうだった。






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