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朝から昨日開けきれなかったプレゼントを母と開けていた。
実は、昨日開けたプレゼントは、両方の祖父母からのプレゼントと父母からのプレゼントだけだった。
1才と2才の時も同じく、両方の祖父母からと父母からのプレゼントのみを開けていた。
その他は、母が中身を確認して、侍女が片付けていた。
今年もそうなるだろうと思っていたが、朝食後に母に呼ばれ、一つ一つ誰からのプレゼントか説明を聞きながら開けていたのだ。
母の説明で、初めて分かったことだらけだった。
まず、この国は王家の下に四大公爵家があり、今ある公爵家はこの4つのみ。
もちろんアヴェートワ家は、その4つしかない公爵家の1つ。
何故公爵家が4つしかないのか、というと建国時に遡る。
この国は英雄ラピス・トゥルールによって邪竜を封印し、トゥルール王国として建国され、ラピス・トゥルールが初代国王となった。
邪竜を倒す時に一緒に戦った4人が、公爵位を賜ったそうだ。
王家の王太子以外は男女関係なく、何処かの家に降下、または隣国と縁組をする決まりとなっているため、新しく公爵家ができることはないとのこと。
プレゼントを包んでいる包装紙を外す時に、包装紙の柄を指しながら母が教えてくれた。
カトレアの花の柄は、スミュロン公爵家。
邪竜を倒す時は、医療を心得ていて、光の魔法を使えたこと。
そして、現当主は王宮医をしていて、親戚筋も含めて代々多くの医師を輩出していること。
コスモスの花は、ナギュー公爵家。
邪竜を倒す時は、戦術を心得ていて、土の魔法を使えたこと。
そして、現当主は宰相をしていて、親戚筋も含めて最も宰相や文官を輩出していること。
蓮の花は、ルクセンシモン公爵家。
邪竜を倒す時は、ラピス・トゥルールが背を預けるほどの剣の腕前で、風の魔法を使えたこと。
そして、現当主は騎士団長をしていて、親戚筋を含めて代々ほとんどの者が騎士をしていること。
ルチルは、四大公爵の話にも驚いたが、何より魔法が使える国ということに顔を伸ばした。
母の話では、10才になると神殿で洗礼を承り、何の魔法が使えるかを鑑定してくれるそうだ。
でも、鑑定の前に大体分かっているという。
それは、瞳の色だそうだ。
「ルチルは、瞳が赤色よりだから火でしょうね」と、微笑みながら言われた。
父と祖父もルチルと同じ茜色の瞳をしているから、遺伝だと思っていたら違ったらしい。
魔法は遺伝しないから、瞳の色が似てない親子は多いんだそうだ。
魔法は火・水・風・土が基本で、光の魔法の使い手はほとんどいない。
もし、光の魔法の使い手がいたら聖者になるんだそう。
光の魔法は、治癒中心の魔法だからとのこと。
なるほど。だから、初代スミュロン公爵は医者だったのかと納得した。
2000年前の大昔に医療を心得ているなんて、とんだ化け物だと思っていたのだ。
でも、光の魔法の使い手でなくても多くの人たちが医師になっているそうなので、ルチルはただただ感心した。
そして、魔法は火・水・風・土・光の他にも、この5つから派生した炎や氷などがあるらしい。
その使い手は、光の魔法の使い手と同じくらい少ないとのこと。
母がとても嬉しそうに微笑んだので理由を聞くと、父がその希少な炎の魔法の使い手で、昔騎士団長を断っていたのだと教えてくれた。
ええー! お父様、もの凄くカッコいい上に、もの凄く強いの!
というか、アヴェートワ公爵家はどんな家なんでしょうか!
医師、宰相、騎士とくれば……
うーん……何が残っているんだろう……
なんと、アヴェートワ公爵家は商人の家だった。
父は「王宮は堅苦しい」と言って王宮には勤めていないそうで、自由に各国と取引をしているらしい。
いいの? それ? と思ったが、王宮での会議には四大公爵家として出席しているし、王宮の外務省からの相談には乗っているので、陛下も渋々了承してくれているそうだ。
いいの? それで? と思わなくないが、母曰く、陛下は祖父や父には頭が上がらないらしい。
祖父や父よ……陛下に何をした……
話を戻すと、アヴェートワ公爵家は邪竜の時食事担当をしていて、親戚筋はもちろん祖父も父も食べ物に1番関心を持っているんだそう。
今食事が豊かなのは、アヴェートワ公爵家が色んな国と交渉して、様々な食べ物を輸入し広めたからだそうだ。
もちろん食べ物以外にも、洋服や化粧品、家具や骨董品、生活のあらゆる物全てアヴェートワ公爵家からはじまっている。
今では、近隣諸国合わせてもアヴェートワ公爵家ほどの商会はない。
つまりは、No.1商会とのこと。
ルチルは、瞳を輝かせながら何度も頷いた。
食事中に祖父と父が交易についてよく話しているなぁと思っていたら、商会を営んでいる家だったとは。
それに、本当に有り難いことに、前世となんら変わりない美味しい食卓なんだよね。
ご先祖様と祖父と父には感謝だな。
まぁ、1つだけ残念なこともあるけど……
ルチル自身も前世から通して1番の興味は食にあるので、アヴェートワ公爵家に生まれてよかったなぁと思っている時に、母から爆弾が落とされたのだ。
「まぁ、なんて素敵なカチューシャなんでしょう」
感嘆の声を上げる母の手には、宝石を散りばめたキラキラと光るカチューシャが入った箱があった。
「どこからでしゅか?」
「陛下と王妃様からよ」
「え? 関わりたくないから送り返していいですか?」とは言えず、うっとりしている母を見た。
王家の花は百合で、カチューシャと共にミニチュアの造花の百合が入っていた。
百合の造花に目を見開く母に、どうしたのか聞いたところ、狼狽えながら教えてくれた。
王家が百合の花を贈る意味は、王子の婚約者として見ていると……
ルチルが固まっている間も、母は話を続けていた。
ただ今回は、ミニチュアで造花だから意味はないかもしれないと。
この国で百合をもてるのは王家のみ、そして、百合を贈られる相手は王家に嫁ぐ者だけと。
ここで母が、弟が泣いていて誰にもあやせないと知らせに来た困り顔の侍女と、部屋を出て行ったのだ。