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薬菓を食べ終わり、アズラ王太子殿下がそろそろ仕事を再開しようとした時、ドアがノックされた。

チャロが開けると、ナギュー公爵が入ってきた。


「失礼いたします」


「あれ? 約束してた?」


「いいえ、しておりません。珍しくルチル公爵令嬢がいらっしゃると、小耳に挟んだもので参りました」


あたしは会いたくなかったよ。


「ルチルに用事?」


「お2人に用事があります」


向かいのソファに、これみよがしにため息を吐きながら腰を下ろしている。


「学園での出来事を聞きました。なぜ、あのようなことをされたんですか?」


「えっと……」


どのことでしょう?


「はぁ。平民を助けたそうですね」


困ったように頭を振られる。


「助けました。何か悪かったですか?」


「悪いところしかありませんよ」


ほほう、喧嘩を売りにきたと。


「宰相、どういう意味かな?」


「殿下も殿下です。何をされているんですか」


アズラ様の何が悪かったって言うんだよ!


「平民を助けるなと、仰りたいんですか?」


「そうは言っていませんよ。平民も大切な国民です」


あら、やだ。

宰相っぽい答えが返ってきちゃった。


「やり方が問題だと言っているんです。ルチル公爵令嬢は仕方がないとしても、殿下までルチル公爵令嬢の案に乗る必要はなかったんです」


あたしは仕方ないって、なに!

一応、成績優秀者なんだからね。


「僕は、あれがベストだったと思っているよ」


「嘘をつかないでください。ルチル公爵令嬢を立てているだけでしょう」


ナギュー公爵は、呆れた様子を隠すことなく、息を吐き出している。


「殿下。今が、どのように大切な時期か分かっていますよね」


「分かっている」


「では、なぜ、貴族から反感を買うようなことをされたんですか? 神殿やポナタジネット国に寝返られたら、どうされるおつもりですか?」


最重要問題を指摘されて、愚かなことをしたと自覚した。

それでも、そのことに気づいていたとしても、あのままにしておくことはできなかった。

ただナギュー公爵の言う通り、他に方法があったかもしれないと、頭の中がぐるぐると回ってくる。


「恐怖政治は必要な場面もあります。ですが、殿下には似合わない。そして、必要のない方法です」


アズラ王太子殿下の握り締めている拳が、かすかに揺れている。


「もっと考えて行動してください。お2人に伝えたかったことは以上です」


立ち上がったナギュー公爵に、冷たい視線を投げつけられる。


「シトリンが殿下の相手であれば、こんなことにはならなかったでしょうね。失礼します」


アズラ王太子殿下が抗議する前に、ナギュー公爵は背を向けて部屋を出ていった。


「ごめんなさい……」


「ルチルが謝ることじゃないよ」


「私が軽率でした」


「そんなことない」


「もっと考えなきゃいけなかったんです。行動する前にアズラ様に相談するべきでした」


助けることばかり考えて、他のことを疎かにしたんだ。

公爵家の名前を使ったくせに、使い方を間違えたんだ。

手っ取り早いとか考えちゃいけなかった。


「相談については、いつもしてほしいと思っているよ。ルチルは勢いよく突っ込んでいっちゃうから、心配なんだ」


包まなくていいよ、暴走って言っていいよ。


「ごめんなさい」


「今回のことは、相談されても賛同していたと思うから、気にしないで」


アズラ様は、優しい。

あたしはアズラ様を甘やかそうとしているはずなのに、いつの間にかアズラ様の優しさに甘えている。


「なんでも相談してもらえるように、僕はもっと頑張るよ」


違う。

アズラ様を頑張らせるんじゃいけない。

あたしが、もっと頑張らなきゃいけない。


あたしの行動全てが、アズラ様の評価につながる。

分かっていたし、気をつけていたけど、頭に血が昇って抜け落ちてしまっていた。


もっと冷静に考えよう。もっと冷静に状況を把握しよう。


心配そうに見てくるアズラ王太子殿下に、笑顔を向けた。

強がっているってバレてもいい。

頑張るからね、という気持ちを伝えたかったのだ。






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― 新着の感想 ―
当方の前述の対策など、宰相が思い付けなかったすれば、有り体に言って、無能ですね。 国民を害するばかりか、王の権威を貶めています。 偉そうに説教できる立場ではないです。 こいつも敵ですな。
[気になる点] えー、じゃあどうするのがベストだったのでしょうか。 教えてエロイひとー! いかにも有能な政治家っぽく語ってても、最後にシトリンのこと持ち出して台無しなカンジ(笑) [一言] 確かに報…
[一言] おま、さんざんお世話になっててそれいう?シトリンなら‥なんて娘バカのあなた以外、誰もうなずきませんよ。今は丸くなってるけど、昔はおいおいだったもの。今回の事は、ずっと解決せずにきて起きたこと…
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