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27

王宮に戻り、アズラ王太子殿下の執務室に行くと、机の上に山積みになっている書類の中からアズラ王太子殿下が顔を見せた。


忙しいと多方面から聞いてはいたが、これほどまでに忙しいと思っていなかったので目を剥いてしまった。


「いつもの光景なんですか?」


書類の山を指しながらオニキス伯爵令息とチャロに尋ねると、同時に頷かれる。


「ルチル様に来ていただけてよかったです」


「私、明らかに邪魔ですよね」


「毎日、殿下に食事を持ってきてほしいくらいです」


「まさか……食べてないんですか?」


「そうな一一


「チャロ、余計なこと言わないでよ」


余計なことじゃないから。

もしかしなくても、あたしと一緒じゃない時は食べてないってことだよね?

食事も睡眠も、あたしがいないと取ってないってことだよね?


アズラ王太子殿下は、不機嫌丸出しでチャロに注意しているが、チャロは涼しい顔で謝っている。


「アズラ様、休憩しましょう! 休憩!」


「うん、そうだね。日中にルチルと会えて嬉しいよ」


あたしと会えなくても、休憩はとろうね。

過労死って言葉があるんだよ。死なないでね。


ソファに移動している間に、チャロが簡易冷蔵庫から飲み物を用意してくれた。

手に持っていたバスケットを、ローテーブルの上に置く。


「何を持ってきてくれたの?」


「薬菓という新作ですわ」


2回頷いているオニキス伯爵令息を、アズラ王太子殿下が睨む。


「いつも僕より早く食べているからムカつく」


「ここにはありませんが、わらび餅も美味しかったですよ」


「どうして僕が食べられないものを、オニキスが食べているの」


「ルチル嬢の専属護衛ですから」


「卒業したら速攻で外すからね」


「えー! 俺、殿下よりルチル嬢がいいー」


それ、お菓子が食べられるからでしょ。


「僕の護衛でもないよ」


「俺、あれ断りましたよね」


「受け付けないって言ったよね」


オニキス伯爵令息が、盛大に息を吐き出した。

もうこの話題はしたくないようで、何も言わずに部屋から出て行ってしまった。


おーい! 専属護衛じゃないんかーい!

アズラ様もチャロもいて、外には近衛騎士もいるからいいけどね。


「アズラ様、よろしいんですか?」


「うん、いいよ。最後には折れてくれるだろうしね」


勝ち誇っているように微笑むアズラ王太子殿下が、大人びて見えた。

あっという間に成長していく青年期だ。

気づけばもう成人している、なんてことになるだろう。

学生時代、本当に一瞬で過ぎ去ってしまう。

今しか見られないアズラ王太子殿下を目に焼き付けなればいけない。


「新作、食べていい?」


「はい。いっぱい食べてくださいね」


ルチルが手に取り、半分に割って、アズラ王太子殿下の口元に持っていく。

嬉々として飛びついてくるアズラ王太子殿下を見て、チャロがホッとしていた。


体を壊さないか、心配なんだろうな。


「机の上にある書類は、いつまでとかあるんですか?」


「右半分が明日までで、左半分がこれから分ける書類だよ」


「時間かかりそうですか?」


「夕食までには絶対に終わらせるよ」


それ、あたしと食べるためにってことだよね。

一緒に食べられるのは嬉しいけど、そのために無理はしてほしくない。


「書類を見てもいいのなら手伝いましょうか?」


「え? いいの!?」


「私でできることならお手伝いしますよ」


「じゃあ、ずっとここにいて」


ん?


「ルチルがいてくれるだけで、やる気が出るからね」


「いえ、書類分けますよ」


「ううん、いてくれるだけでいいよ」


「書類見ない方がいいですか?」


「見ていいよ」


「分けますね」


「ううん。本当にいてくれるだけでいいんだ」


何を言っても平行線だわ。

見てもいいなら、勝手に分けてしまおう。


「薬菓、美味しいね。体に力が湧いてくる」


空腹に、カロリー爆弾投入したからね。

エネルギーへ高速変換されてるんだと思うよ。


「チョコレートかけても美味しいだろうね」


なっ! 美味しいよ! 絶対にハズさないよ!

でもね、チョコがけなんて……悪魔の食べ物になる……

半分なら、あたしも食べていいんだろうか……

作るなら食べたい……






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― 新着の感想 ―
王子様が仕事中につまむサンドイッチやハンバーガー(或いは、もう少し手の込んだキッシュやパイや肉まん・あんまん)でも、ルチルが作ってあげたらどうでしょうね。 いっそ、シリアルバー的なものでも。
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