19
19・20話に関しましては、虐めを懲らしめる行動が、少し過激になっています。
読むのはちょっとなという方は、21話から読んでいただければと思います。
21話の前書きに19・20話で何をしたのか軽く記載し、物語が分かるようにします。
HRの時間になり、ルチルはA組に断りを入れて、オニキス伯爵令息とD組にやってきた。
「どうするの?」
「悪いことをしていると自覚させるだけですよ」
「ふーん。まぁ、何をしても、誰もアヴェートワ公爵家には何も言えないしね」
ですよねぇ。
身分振りかざすとか本当はしたくない。
したくないけど、手っ取り早いんだよね。
春休みも振りかざしちゃったしなぁ。
アズラ様に嫌われなければ良しとしよう。
D組のドアに手をかけたオニキス伯爵令息に見られたので、頷いた。
オニキス伯爵令息が開けてくれたドアから、堂々と入る。
みんな驚くよねぇ。
あら、先生もいるのね。
へぇー。大人がいて、この状況なの。へぇー。
「ア、アヴェートワ公爵令嬢、い、今は授業中だと思いますが」
先生が、しどろもどろとはね。
後ろめたさがあるのねぇ。
こんな光景、見られたくなかったよねぇ。
「クラスメートにもマルニーチ先生にも、許可を取っています。D組が、去年A組がしたくみ紐販売だとおうかがいしたものですから、何かお手伝いできればと思ったんです。去年A組の皆様を指導したのは私ですから」
ツカツカと教壇まで歩いた。
教壇から生徒たちを見回す。
「聞いてもよろしいかしら? どうしてくみ紐の作成をしているのが、モスアとセレだけなのでしょうか?」
ほう、誰もが俯いて、何も発しないと。
無駄な抵抗だというのに。
「あ、もしかして、モスアとセレ以外は完成していますのね。ぜひ、作品を見せてほしいですわ」
重たい空気が流れる。
教壇の前に座っている生徒を、手で指した。
「あなた、見せてくださる?」
「ぇ……ぁの……」
「あなたは?」
次から次へと聞いても、誰も何も言わない。
重たい空気を壊すように、堂々とした声が聞こえてきた。
「ルチル様、属していないクラスで問いただすことは、横暴ではありませんか?」
ペリット・ダンピマルラン侯爵令嬢だ。
何人かが安堵したのが分かった。
「横暴? どこがですか? 私は、親切心でお手伝いをしようと思ったのです」
「ありがとうございます。ですが、D組は順調ですので必要ありませんわ。お引き取りください」
「そうですね。順調だと分かるものがあれば帰りますわ。完成しているくみ紐や、使用したディスクを見せてください」
「どうして見せなければいけませんの?」
「ああ、見せられないのですね。モスアとセレしか作成していないからですよね。それこそ横暴ではありませんか」
呆れるように馬鹿にするように告げた。
憤慨したような顔をした縦ロールが、言い放ってくる。
「完成したものはあります。ディスクはもう使わなくなったので捨てました」
「捨てた? そうですか。ディスクはどこで購入されましたの?」
「どこだっていいでしょう。ルチル様に関係ありますか?」
「私には関係ありませんが、アヴェートワ商会に関係ありますのよ。ディスクを販売しているのは、アヴェートワ商会のみ。でも、大量のディスク購入はありませんでした。他の商会が販売しているのでしたら、話し合って値段設定をしなければいけませんわ。市場がおかしくなりますから。
ですので、教えてほしいのです。どこで購入されたのですか?」
「か、買っていませんわ。作ったのです」
どこまでも嘘をつくと。
絶対に認めないと。
「どのように、どなたが作ったのですか? 作れる方を引き抜きたいと思いますの」
「そ、それは……」
「言えませんか?」
「この子よ!」
ヤケクソになったのか、隣に座っている女の子を指した。
指された女の子は真っ青になっている。
「では、そこのあなた。どのように作られたか教えてくれませんか?」
震えて声も出ないようね。
「まぁ、後でじっくりとおうかがいしますわ。で、作られたというくみ紐を見せていただけませんか?」
大きな足音を立てて、ダンピマルラン侯爵令嬢が近づいてきた。
鞄から数回くみ紐を出し、教卓に叩きつけるように置いている。
「たったこれだけですか? モスアとセレ以外は完成しているんですよね?」
机の上には、100本あるかないかだ。
「何本販売しようが自由でしょ」
「そうですね。では、質問を変えますわ。お1人何本作成だったのでしょう」
ダンピマルラン侯爵令嬢の体が震えている。
たぶん怒りだろう。
このクラスでは女王様だったのだろう。
それを今、壊されそうなのだ。
「1人7本です」
「オニキス様、数えていただけますか?」
「いいですよ。っと、あぶな」
オニキス伯爵令息が触ろうとしたくみ紐を、ダンピマルラン侯爵令嬢が大きく振り払った。
くみ紐が、床に散らばる。
「一体何なんですか!? 何の権限があって、D組に介入するんですか!? ルチル様、関係ありませんよね!?」
大きなため息を吐き出して、ダンピマルラン侯爵令嬢を射るように睨んだ。
「あなたこそ、何の権限があって私に意見しますの?」
「え?」
「四大公爵家に、たかが侯爵家が意見するのか? と聞いていますのよ」
「そ、それは……」
素直に謝って、これからみんなで作るって言うなら、あたしは何も言わずに手伝ったよ。
文化祭まで日にちがないから、本数を集めるのは大変だろうと思ってね。
あたしは、言い出せるタイミングを何回も作ったよ。
でも、反省する色はなく、逃げ道がなくなったら逆ギレするってなに?
「このクラスの方の名前は、全て把握済みです。自分の仕事を押し付け、人を見下す方々だと、王宮にも各商会にも社交界にも通達いたしますわ」
色んな所から、息を飲む音が聞こえてくる。
「仕事をしない方を雇ったり、家に迎えようとしたりしないでしょうね。ましてや、嘘に嘘を重ねていくんですから。信用もできませんしね」
啜り泣く声が聞こえても気にしない。
侯爵家が怖かったとしても、今ここで黙っている必要はなかったのだから。
シトリン様が言ってた通り、平民は四大公爵家をみくびっているのかもしれない。
でも、貴族の子供たちの方が、よっぽど四大公爵家をみくびっている。




