18
5月に入り、E組とF組の劇は順調そうだった。
平民の子たちは、大道具以外の仕事を押し付けられているように見えなかった。
理由は、このクラスにはカイヤナ侯爵令嬢の取り巻きの重鎮がいて、目を光らせているからになる。
どうして、彼女たちが目を光らせているのかというと、去年ルチルが平民を招待して催したダンスパーティーの一件があったからだ。
カイヤナ侯爵令嬢から、お茶会での会話も聞いている。
そして、実際に春期は何もなかったから、ルチルは平民の子たちに対して何もしていない。
お茶会での会話通りなのだ。
公平とまではいかなくても、虐めなければ平民を優遇しないということが示された。
平民優遇を面白く思っていない貴族の子たちは、虐めなければいいだけと理解したのだ。
そうすれば、平民優遇だった枠に自分が入れるかもしれない。
そう思ったのだ。
ルチルが思っていた以上に去年のダンスパーティーは、いい働きをしているようだ。
後は、ルチルが貴族の子たちの思惑に気づき、カイヤナ侯爵令嬢の取り巻きの重鎮をお茶会かパーティーに招待すれば、虐めはもっと落ち着くだろう。
しかし、それさえ理解できない人間もいる。
そういう人間の末路は、悲惨なものになるだろう。
「おかしいですわ」
「うん、おかしいよね」
「何をそんなに怒っているの?」
放課後、ルチルとアズラ王太子殿下、オニキス伯爵令息とシトリン公爵令嬢とでカフェテリアで過ごしている。
ジャス公爵令息は、隣の席でエンジェ辺境伯令嬢とお茶をしている。
「怒ってはいません」
「怒っているように聞こえるのよ。落ち着きなさいよ」
シトリン様に言われるなんて……
「それで、何をおかしいって言っているの?」
「D組の文化祭の準備です」
「D組? 確かくみ紐を販売するのよね?」
「そうなんです。でも、お父様に聞いても、ディスクの大量販売はしていないと仰るんです。どうやって作っているんでしょうか?」
「どうだっていいじゃない」
「んー……それに、もう1点気になることがあるんですよね」
「なに?」
「モスアとセレです」
「そういえば、D組だったわね。あの子たちは、経験者だから大丈夫でしょ」
「それが、最近随分と顔色が悪いんですよ。聞いても大丈夫としか返って来ませんし、ヌーに尋ねても『最近2人に会わないんです』って本当に知らないようでしたし」
「ルチルの気にしていることは分かったけど、オニキスも同じことを気にしてるの?」
「俺はそこじゃなくて、D組の子たちは、いつ編んでいるんだろうってところですよ」
「去年みたいにHRじゃないの?」
「俺たち、HRの度に料理室に移動するからD組の前を通るんですけど、編んでいるところ見たことないんですよね。おかしくないですか? D組の子に聞いても濁されるんですよ。もう1度言いますけど、おかしくないですか?」
ねぇ、オニキス様。
それは、いつの時点の情報なんでしょう?
どうしてもっと早く教えてくれなかったの?
あたしが言い出すのを待っていたとか言わないよね?
ルチルは目を閉じて、小さく息を吐き出した。
あー、嫌だ。
あーあー、嫌だ。
予想が当たってほしくない。
ってか、すぐに結びつくあたしって、虐めの才能あるんじゃない?
嫌だわー。
「簡単じゃない。モスアとセレが全部押し付けられているんでしょ」
ふむふむ、シトリン様も虐めの才能がありますな。
あたしと同じ答えを一瞬で導き出せるとは、やりますな。
「で、ルチル嬢はどうするんですか?」
「どうって言われても……」
D組にどう介入するか、か……
難しい……
「私のはただの予想よ。合っているか分からないわよ」
「モスアとセレに聞くしかないんじゃないかな? 本当のことが分からないと、動きようがないと思うよ」
「アズラ様の言う通りですわ。どうにかして2人から聞いてみます」
「僕も協力できることは協力するからね」
気持ちは嬉しいけど、さすがに王太子を動かすことはしないよ。
それに、闇属性を備えてしまったアズラ様は怖いからね。
いくらなんでも、死刑や牢屋行きになんてできないからね。
ルチルは、モスアとセレにどう接触しようか考えていたが、接触したところでという考えに至った。
話を聞き出すことは粘り勝ちすれば、モスアとセレならば口を割るだろう。
でも、問題はその後だ。
話を聞き出すだけでは、問題の解決にはならない。
どうするかと悩みに悩んだルチルは、閃いた。
ついニヤけてしまったら、ルチルの部屋で本を読んでいたシトリン公爵令嬢に「気持ち悪いわよ」と言われてしまった。
ひどい……
明日はルチルがとてつもなく怒ります。
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