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昼食を食べた後は、ルチル希望の飴専門店に行き、ルチルは飴をたくさん購入した。
他のメンバーも興味本位で買っている。
飴専門店の後は、街を散策して、気になったところには手当たり次第入ってみた。
シトリン公爵令嬢は、目についた雑貨や小物を買っているようだ。
前世の香港や台湾のような柄のものが多く、ルチルもあれこれ買った。
そして、お香を見つけた。
お香!? なんで流行ってないの!?
「これって、お香ですよね?」
「はい。夏に虫が寄ってこないように使うものです。森が多いせいか虫が多いんです。便利なんですけど、匂いが苦手な方は苦手かと」
なるほど。蚊取り線香のような匂いがするのね。
そして、他の匂いはないのか。
たしかハッカが虫に効果が強かったはず。
清涼感ある匂いもいいしね。
ハッカのお香だったら欲しかったなぁ。
「お香って、ポニャリンスキ領のものなんですか?」
「よく見かけますが、どうなんでしょう? お店の方に聞いてみましょう」
店員さん曰く、南の方にある国から取り寄せているものだそうだ。
騎士団が、魔物討伐に行く時に大量購入をしてくれるので取り扱いしているとのことだった。
ポニャリンスキ領のものじゃないなら、手を組まなくてもいいか。
精油を使ってフレグランスを売り出しても、問題なさそうでよかった。
「アズラ様、購入されるんですか?」
「これから休みの度に魔物討伐だって聞いてるから」
「お祖父様ですか?」
「うん。強くなるには実践が1番なんだって」
また一段と厳しくするのか。
「ジャスは買わなくていいの?」
「俺は魔物討伐をまだ許されていない。悔しい」
「大丈夫だよ。もう少しで許してもらえるよ」
「頑張る」
そこ、頑張るとこなのかなぁ。
まだ学生だよ?
でも、騎士団に入りたかったり、親の背中を見てたりしてるから早くって思うのかな。
安全第一って思うけど、誰かが討伐してくれないと安心して過ごせないものね。
今度、騎士団に差し入れしよう。
夕食は、歓迎会を兼ねて豪華な食卓だった。
「遊びに来ているだけだから、明日からはそこまで気を使わないでほしい」と、アズラ王太子殿下に言ってもらった。
次の日から観光地を巡ったり、馬で遠乗りをしたり、湖畔でお弁当を食べたりして楽しんだ。
盛り上がったのが、ガラス陶芸教室だった。
というより、陶芸家の家にお邪魔して作らせてもらった。
琉球ガラスのコップの作り方に似ていて、沖縄旅行で作ったなと前世を思い出していた。
ルチルとアズラ王太子殿下は、作ったコップを交換した。
シトリン公爵令嬢とフロー公爵令息も交換していた。
だから、チグハグな色で作っていたのかと納得した。
オニキス伯爵令息は、彼女へのお土産にするそうだ。
ジャス公爵令息は、無表情のまま。
エンジェ辺境伯令嬢は、いい思い出になったと喜んでいた。
このまま楽しく終わると思っていたが、5日目が過ぎたあたりで、見たことがある気するおじさんがやってきた。
アイオラ・アンジャー侯爵令嬢の父親、アンジャー侯爵だ。
ポニャリンスキ辺境伯夫人の弟だそうだ。
新年祭の挨拶で数回見たことがあったようで、見覚えがあった。
娘の非礼を謝りに来たと同時に、お茶会に誘われた。
断りたかったが、アンジャー侯爵は、ルチルたち女の子3人にドレスを持ってきた。
ここまでされると断りにくい。
仕方がないので、了承することにした。
アンジャー侯爵の相手で疲れたので、少しだけお茶をすることになった。
プレゼントを開けたシトリン公爵令嬢が「ゲッ」と声を漏らした。
「なにこれ、ダサすぎない? こんなにリボンつけなくていいでしょ。下品だわ」
ルチルも箱を開け、ドレスを確認した。
「シトリン様と色違いのようです」
エンジェ辺境伯令嬢も、箱を開けた。
ドレスを出して、顔を曇らせている。
親子揃って最低。
どうしてあたしやシトリン様のドレスより、エンジェ様のドレスが小さいのよ。
それに、赤と緑のドレスに対して、エンジェ様だけ暗い赤紫ってなに?
腹立つ!
「生地はいいみたいですから、解いて巾着でも作りましょうか。そして、抽選で侍女にあげますわ」
「私の分も使ってくれていいわよ。あなたもそうしたら? こんなダサいドレス着る必要ないわよ」
「あ、はい。私は、どのみち着れそうもありませんから、ぜひ使ってください」
無理して笑わなくてもいいのに。
こんなにいい子、珍しいのに。
許さん!
それに、去年の秋休みのことがあったから、念のためドレスは持ってきているのよ。
これからは、常に持ち歩こう。
「私、趣味が悪いと思われているのは心外ですわ。ここはもう、めちゃくちゃお洒落をしましょう」
「いい考えね。と言いたいところだけど、家じゃないのよ。鞄に入れているものじゃ心許ないわ。今から買いに行くの?」
「いいえ。私、いいもの持っているんですよねぇ。今回の旅行のお礼に、エンジェ様に渡そうと思っていたものなんですけど。王妃殿下からは、それはもう大絶賛されていましてね」
アズラ王太子殿下とオニキス伯爵令息が「ああ、あれね」と呟いている。
「私も欲しいわ!」
「シトリン様の分もありますよ」
「先に言ってよね」
シトリン様って、お洒落の最先端な人だもの。
学生に広めてもらうために、用意するに決まっているじゃないですか。
「ルチル嬢、笑顔怖いよ」
失礼な! お金を思い浮かべていただけなのに!
「ということで、今日のお昼は準備がありますので、男性の皆さんは自由行動ということでお願いします」
「僕は、ルチルの側にいるよ」
「ですよね、殿下。護衛騎士について、もう1度話し合った方がいいと思うんですよ」
いえ、もう話し合いたくない。
ごめんなさい。
「ルチル、トランプ貸して。横でトランプしてるよ」
お洒落道具とトランプを鞄から取り出した。
お洒落道具からは、何も分からないのだろう。
不思議そうに見ているシトリン公爵令嬢に、ルチルは自身に施して見本を見せると、王妃殿下同様大絶賛された。
非常に賛美された物が何かというと、とうとうリバーが、蓋兼ハケに魔法陣を施すことで、光沢があるネイルを作ってくれたのだ。
除光液も同時に作ってもらっているので、簡単に落とすことができる。
ドレスに合わせて、手軽に色を変えられるのだ。
指輪しかなかった手のお洒落に革命を起こせるのだ。
悪い笑顔が出るのが、当たり前の品物になる。
ルチルは青色と屑宝石で指先を飾り、シトリン公爵令嬢は薄紫と屑宝石と金のラインで飾り、エンジェ辺境伯令嬢には薄ピンクに屑宝石と白のラインで飾った。




