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ずっと顔を伏せていたオニキス伯爵令息が、お腹を抱えて笑い出す。
「ルチル嬢、演技が下手すぎる! キャって、なに? そんなこと言ったことないでしょ」
「ひどっ! 悲鳴くらい……たぶんあります」
「絶対ないよ」
笑いすぎだっての!
「ルチル、演技だったの? 僕、全然分からなかったよ」
悪ノリではなかったの?
殺すとか、土に埋めるとか、本気で言ってたの?
2年生になって闇属性でもついたの?
「ルチル様の演技は酷かったけど、棒女が去ったからよかったわ。何もかも最悪な人ね」
「すごいドレスでしたね」
それに、性格悪い イコール 巻き髪の法則でもあるの?
嫌な法則だな。
「そうね。よくあんな恥ずかしい姿で外に出られるわよね。私なら死にたくなるわ」
「シトリン、少し言いすぎな気がするよ?」
「どこがよ。アズラ様よりマシよ」
「僕、そんなに酷くないよ。ルチルを守ろうとしただけだよ」
「ほら、分かった? アズラ様よりマシでしょ」
どっちもどっちだと思うよ。
あたしも似たようなもんだけどさ。
「エンジェ様、今の方は?」
「ご迷惑をおかけしてすみませんでした。彼女は、私の従姉妹でアイオラ・アンジャー侯爵令嬢です。1つ下で、今年から学園に通っています」
ああ、あの子がか。
お茶会メンバーに入れなくてよかった。
春休み初日にしたお茶会では、新1年生を数名呼んでいた。
学園での成績がまだ分からない状況だったので、1口メモを頼りに招待した。
どの子も可愛らしい子たちばかりで、夏休みのお茶会にも呼んでいいかもなと思っている。
去年3年生だったアンバー公爵令嬢たちは、学生ではない方のお茶会メンバーに移行している。
アンバー公爵令嬢からは「数ヶ月に1度でも、会えて嬉しいです」と、目を潤ませながら言われ、手を握られている。
ほんの数日前の出来事だ。
ポニャリンスキ領への旅行も誘ったが、護衛騎士になるための訓練をみっちり入れているので無理だとのことだった。
アイオラ・アンジャー侯爵令嬢の1口メモは“お洒落好き”だったのだ。
最後までお茶会メンバーに入れるかどうか、悩んだ女の子だった。
「あの方、普段ご飯食べていますの?」
「食事の量は絞っているみたいです。体型を維持するために、とても頑張られているようです」
ええ子や。
あんな風に言われたのに、悪く言わないなんて、ええ子や。
「細ければいいってものじゃないでしょ。ねぇ、殿下」
どうして、今アズラ様にふった?
最近太ったと思ったけど、それを遠回しに言いたいのかな?
どうなんだい?
「僕はルチル以外に興味ないから、なんでもいいよ」
「そう言うと思っていましたよ。フローやジャスは? 好みくらいあるでしょ?」
「俺は気にしない」
「同じく」
「逃げた! 女子の前では恥ずかしいから逃げた!」
「そうじゃなくて、好きな相手なら細くてもふくよかでもいいってことだよ。そう言うオニキスは、どうなの?」
「俺も元気ならなんでもいいです」
「結局皆様、そうなんですね。普通の答えすぎて参考にもなりませんわ」
「じゃあ、ルチル嬢はどうなの?」
アズラ王太子殿下を見つめて考えていると、アズラ王太子殿下の顔が赤くなっていく。
「アズラ様はハゲてもカッコいいとは思いますが、ハゲは嫌ですね」
「ぼ、ぼく絶対にハゲないからね!」
「私もハゲは嫌だわ」
シトリン公爵令嬢が、フロー公爵令息の頭を注視した。
フロー公爵令息が、あたふたしながら髪の毛を触っている。
「父はハゲていないから、私もハゲないよ」
「大丈夫ですよ、フロー様。私がカツラを作ってみせますね」
「カツラって?」
「偽物の髪の毛です」
「ルルルルチル嬢、それは私がハゲそうってことですか!?」
「いえいえ、違いますよ。念には念をってやつです」
あ、虐めすぎちゃったかな。
神様にお祈りを始めちゃったよ。
シトリン様は笑っているから、気にしなくていっか。
「エンジェ様はどうですか? 理想の男性像とか、ここだけは許せないとかありますか?」
「私なんかが条件をつけるなんて烏滸がましいですわ」
「そんなことありませんよ。エンジェ様、魅力的ですよ」
「そう言ってくださるのは、ルチル様だけです。ありがとうございます」
「何を言ってるの。あなた素材はいいんだから、お洒落すればいいのよ」
ナイスです! シトリン様!
「俺もそう思う。淡い色とか似合いそう。ジャスやフローも、そう思わない?」
「うん、そうだね。似合いそうだよね」
「俺は……今も十分可愛いと思う」
「え? え? あ、あの! 皆様、ありがとうございます!」
真っ赤になって頭を下げるエンジェ様に、ほっこりするよねぇ。
いや、約2名ニヤニヤしているけど、今はまだ藪蛇になるから突かない。
これ教訓。
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