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シトリン公爵令嬢が鞄から出したチョコレートを見て、ルチルの頬が緩んだ。
「ルチル嬢、何笑ってんの?」
「笑っていませんよ。シトリン様が可愛いなぁと思っただけです」
「あなた、急に何を言い出すのよ!」
真っ赤になっちゃって、もう。
「オニキス様、あのラッピング見覚えありませんか?」
「ラッピング?」
フロー公爵令息が手に持っている箱を見て、オニキス伯爵令息がニヤけはじめる。
「へぇ。手作りじゃないと言いながら、手作りチョコのキットに入っていた箱かぁ。リボンはナギュー公爵家のものみたいだけどね。へぇ」
「うううるさいわよ!」
「シトリン様、どこで作ったんですか? 上手に作れました?」
「ううううるさいって言ってるでしょ!」
フロー公爵令息が、シトリン公爵令嬢と箱を交互に見てから、顔を綻ばせた。
フロー公爵令息の幸せに浸っているような顔に、伝染したように全員微笑む。
「私もフロー様にチョコを用意していたのですが、受け取ってはもらえなさそうですので、アズ一一
「はい! 俺、もらいます」
「オニキスさ、ルチルは今僕にって言いかけていたよね? どうして遮るの」
「俺が欲しいからですよ。一緒に作ったはずなのに、なぜかルチル嬢の方が美味しいんです」
「あなたたち、一緒に作ったの? どうして呼んでくれなかったの?」
「シトリン様は厨房に入ると、ご両親から怒られるかと思いまして」
「隠れて作れば怒られないわよ」
「では、来年は一緒に作りましょうね」
「絶対よ」と言うシトリン公爵令嬢に、笑顔で頷いた。
「オニキスも作ったの?」
「作ったよ。別に女の子から男の子にってイベントじゃないでしょ。男の子から女の子にでもいいじゃん」
「そうだったのか」
「え? ジャス? もしかして渡したかった?」
「いや、迷惑だろうから無理だ」
「そんなことないと思いますよ。私、ジャス様の恋実ると思っているんです」
「ちょ、なに!? ルチル様、ジャスの好きな人知っているの!?」
興奮するシトリン公爵令嬢を、フロー公爵令息が不思議そうに見ているのが、ルチルには奇妙だった。
恋愛話が大好きなシトリン公爵令嬢だ。
興奮するのが普通だ。
「なんとなくですよ。なんとなく」
「そうか」
「ジャス、そうかじゃないでしょ」
「私、お手伝いしましょうか?」
「手伝いは必要ない」
「ルチル嬢の手伝いは断って正解」
ひどっ!
しつこいようだけど、ここの誰より経験豊富なんだからね。
大盛り上がりして終わった昼食は、前半の殺伐とした空気も、アズラ王太子殿下の疲れも忘れさせてくれた。
放課後になり、アズラ王太子殿下と空き教室で、フロー公爵令息に渡すはずだったチョコレートを食べた。
オニキス伯爵令息とジャス公爵令息は、廊下で警備してくれている。
「ルチルのチョコレート、本当に美味しいよ」
「アズラ様に喜んでもらえて嬉しいです」
チョコレートを食べているアズラ王太子殿下をカメラで数枚撮り、アズラ王太子殿下は「チョコレートだけの写真が欲しい」と言って、チョコレートが映えるように頑張って撮っていた。
「ねぇ、ルチルが教えてくれないから聞くけど、ザーヴィッラ侯爵令息は退学にした方がいい?」
久々の過激発言きた……
「きちんとお断りしていますから、アズラ様の手を煩わせることありませんわ」
「でも、キャワロール男爵令嬢並みの付き纏いなんだよね? ルチルの側にいるだけでも許せないのに、付き纏っているんだよ。退学なんて生温い方だよ」
アズラ様の心をこんなにも乱しているから、あたしからしても許せない奴だけど、退学は止めよう。
それに、退学は生温くないからね。
「でも、オニキス様も守ってくださっていますし、触られたとかではありませんから」
「触ったりしたら腕を切り落とすよ」
もう冗談が上手いんだから。
っていう、おとぼけは置いといて、アズラ様がやさぐれている。
去年に比べたら会えている時間が少ないし、アズラ様も毎日キャワロール男爵令嬢に付き纏われていて大変だろうしな。
エロエロ小説に相応しいように、体にチョコ塗ってみる?
いやいや、まだ15才。
大人になってからにしよう。
「私の髪の毛1本まで、全てアズラ様のものですからね」
「僕の髪の毛1本まで、全てルチルのものだよ」
「嬉しいです」
「僕も嬉しい。早く卒業して結婚したい」
右手を取られ、薬指にはめている指輪にキスを落とされた。
クスクス笑いながら、お返しにアズラ王太子殿下の指輪にキスをする。
「アズラ様は、子供が生まれたらつけたい名前とかありますか?」
「子供……それって……」
「もちろん、私とアズラ様の子供ですよ。アズラ様に似たら、男の子でも女の子でも可愛いんでしょうね」
同意を求めて見たアズラ王太子殿下の顔は、耳まで真っ赤になっていてニマニマしている。
すかさず写真に収め、心の中で拍手喝采した。
裸にチョコレートじゃなくても機嫌直せた。
棚からぼたもち感すごいけど、やったね!
「ルチル似の子供が欲しいな」
「私は、アズラ様似の子供が欲しいです。となると、最低2人は生まれてきてもらわないとですね」
「ルチルとの子供かぁ」
妄想にトリップしてる。
現実に戻ってくる前に写真撮っておこう。
どんな顔でも麗しいからね。
「あ! 名前だったよね」
写真撮ったよ音が欲しくて付けてもらったけど、今は鳴らなくてよかったのに。
「はい。男の子バージョンと女の子バージョンください」
「……難しいね」
教室のドアがノックされた。
下校時間が近いから帰りますよという合図だ。
「生まれるまでの課題ということで楽しみにしていますね」
「分かった。カッコいい名前と可愛い名前考えてみるよ」
1人目の名前は分かるんだけどね。
本では、アズラ様が戦場に行く前にルチルとの将来を話してた時に出てきて、ルチルはその名前を生まれてきた子につけたから。
あれ?
でも、生まれてくる予定だった子……
数年遅くなっても生まれてきてくれるよね?
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