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秋休みに誘拐未遂があったため、冬休みは予定を入れていない。
それに加え、アズラ王太子殿下は自領の視察に1週間ほど出かけて留守だ。
一緒に行こうと誘われたが、今回は両陛下からストップがかかった。
まだ警備が整っていない領地が多いから、という理由からだった。
警備が整っていない領地の1つに、ガディオッホ領も入っている。
アズラ王太子殿下は、しょんぼりしながら自領の視察に出かけて行った。
ということは、やっとアレに取り掛かれるということ。
転移陣での王宮とアヴェートワ公爵家の移動は認められている。
朝のうちにオニキス伯爵令息に、父に用意してほしい物を伝書鳩で伝えてもらっている。
「こうやってお願いするために、俺がいるんじゃないからね」と言われたが、気にしないことにした。
お米のとぎ汁だけでも問題ないが、今回はお洒落で、いい匂いのする物を作ることにした。
匂いで癒されたいじゃないか。
それに、今回の作業工程で精油も手に入るんだから、まさに一石二鳥だ。
そう、今回作るのは、ずっと作りたいと思っていた化粧水だ。
アヴェートワ公爵家のタウンハウスで祖父と合流して、本邸に移動する。
本邸にはリバーを呼んでいて、作ってほしい魔道具の話をした。
作りたいのは、フローラルウォーターだ。
水蒸気蒸留法で精油を作る時に用いる方法で、その副産物がフローラルウォーターになる。
ルチルが、蒸気で蒸したハーブの水蒸気を冷却したいと説明しながら、図をおこしていく。
これは、口だけの説明では理解が難しい。
リバーも図を見て、理解してくれた。
そして「これなら簡単に作れます」と、ものの数分で作ってくれた。
冷やした水蒸気は2層に分かれる。
上層部が精油、下層部がフローラルウォーターになる。
その2層をそれぞれに分ける魔法陣を作れるかどうか聞いたら、数時間で作ってくれた。
奇天烈だけど、天才は健在のようだ。
父に用意してもらった大量のハーブを機械に入れる。
作るフローラルウォーターは、全部で3種類。
ラベンダー、ローズマリー、カモミール。
蒸留を待っている間は、オニキス伯爵令息とお茶をしながらトランプをした。
祖父は、生産ルートと工場を建てる場所を検討するそうだ。
作る化粧水は、しっとりタイプとさっぱりタイプになる。
ルチル自身はさっぱりが欲しいが、王妃殿下や母たちはしっとりタイプが欲しいだろうと思って、両方作ることにした。
しっとりタイプは、フローラルウォーターとグリセリンと精油で作れる。
さっぱりタイプは、フローラルウォーターと無水エタノールとグリセリンと精油で作れる。
フローラルウォーターとグリセリンを混ぜるだけの特に簡単な化粧水もあるが、いい匂いが欲しいのだ。
精油は欠かせない。
ちなみに、グリセリンと無水エタノールは医療で使用しているので、この世界にもある。
スミュロン公爵家の先祖が作ったそうだ。
いつか作る化粧水のために本で調べ済みだったが、作る工程は秘密にされていて載っていなかった。
夕食までもアヴェートワ公爵家の本邸で食べたが、欲しい量のフローラルウォーターはでき上がらなかった。
中1日空けてアヴェートワ公爵家本邸に行くと、侍女がフローラルウォーターと精油を整理してくれていた。
フローラルウォーターは無理だけど、精油は少しあげようと思った。
後は容器に入れて、使用前に振って混ぜるだけなので簡単だ。
容器に入れる作業はオニキス伯爵令息が手伝ってくれて、時間はかからず終わった。
祖母と母にしっとりタイプを渡し、腕の内側で忘れずにパッチテストをすることを伝えた。
精油が入っているので、肌が弱い人は荒れてしまう。
荒れなければ顔や手に使ってほしいと説明し、湯浴みの時に湯船に精油を垂らすことも勧めた。
侍女たちにも、みんなで使ってほしいと精油を渡している。
王宮に戻り、王妃殿下に謁見を申し入れて、化粧水と精油を渡した。
使用方法と効果を話すと「まぁまぁ。まぁまぁ。まぁまぁ」と何回まぁって言うんだろうと思うほど、歓喜に満ちていた。
そして、早く商品化してほしいという要望は、強めの圧を伴って放たれた。
王妃殿下付きの侍女たちからも商品化の圧を感じて、笑顔が引き攣らないように顔の筋肉に頑張ってもらった。
新年祭では、王妃殿下と母とルチルの肌に注目が集まり、王妃殿下が「そのうち皆様にも分かるわ」と意味ありげな言葉を言っていた。
カメラも大好評で、その日のうちに出張カメラサービス希望の手紙がわんさかとアヴェートワ商会に届いたそうだ。
冬休みは、化粧水と精油を作りまくり、領地から戻ってきたアズラ王太子殿下と、首都でも珍しく降った大雪で雪だるまやかまくらを作って遊んだ。
2人用の小さなかまくらの中では、お互いの手に息を吹きかけあい、温め合った。
そのかまくらの中で、夜中両陛下がイチャついていたそうだ。
聞いた時のアズラ王太子殿下は、遠い目をしていた。
親の仲がいいことは嬉しいだろうが、親のイチャつきは知りたくないだろう。
アズラ王太子殿下も思春期の男の子なのだから。
この話をアズラ王太子殿下にしてきたのは、近衛騎士だ。
ルチルは「きっとこの人が、アズラ様がマル秘本を持っていることを王妃殿下に伝えたんだろうな」と気づいた。
そして、この人がいる時は注意しようと心に決めた。
これにて、学園1年生は終了です。
予想よりも長くなってしまいましたので、一旦章を区切りたいと思います。
学園2年生は第3章、学園3年生以降を第4章としようと思っています。
第3章を始めるにあたり数日投稿をお休みします。
第3章は、来週の月曜日から投稿いたします。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
めちゃくちゃ感謝していますし、嬉しいです。
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書く力を皆様からいただいています。
本当にここまで読んでくださり、ありがとうございました。
第3章で、またお会いできれば幸いです。




