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冬休みの1日目2日目は、もう恒例になったルチル主催のお茶会だ。
そのお茶会で計画を実行することにした。
ルチルは学園のダンスパーティーの後で、平民を招待してダンスパーティーをしたことを話した。
半分は驚いていて、半分は既に知っていたようだ。
そして、こう話した。
「平民の皆様がドレスを借りられないようにと、誰かがしていたようなんです。
たかが学園のダンスパーティーですよ。王家主催のパーティーではなく、学校行事の1つに目くじらを立てられるなんて狭量すぎませんか?
私も何事もなければ、何もしませんのに……
きっと私を蹴落としたい人たちが多いんでしょうね。何もしなければ冷たいと言われ、何かすれば贔屓していると言われるだけですものね。
どちらにせよ、アズラ様には似合わないと言いたいのでしょうね」
哀愁を漂わせて悲しそうに微笑んだ。
引き出したい言葉は「そんなことをする貴族がいるなんて、同じ貴族として恥ずかしい」「平民の皆様が可哀想」と、ついでに「アズラ様には、ルチル様以外似合いません」などなど。
そして、主に誰がしているかの情報。
ふふ、たぶんと前置きがあったけど、数名聞けたよ。
覚悟しろよ。
休み明けも変わらず虐めをしたら天誅を下してやる。
そしてそして、1番の収穫は、カイヤナ侯爵令嬢も幼稚な虐めに憤っていたことだった。
1年生最大の派閥のカイヤナ侯爵令嬢と手を組めば、虐めをなくせるかもしれない。
はじめから、そのつもりで招待した人だ。
今日は大収穫だ。
学生以外のお茶会でも同じような話をして、学生たち同様の言葉を引き出した。
この場だけの言葉だとしても、社交界にはルチルが言った言葉は噂として広く流れるだろう。
アヴェートワ公爵家に睨まれたくない貴族は、子供に注意をするはずだ。
それでいいのだ。
学生たちも周りに話すだろう。
そして、噂になるだろう。
それでいいのだ。
全部の虐めを一気に無くすことはできない。
少しずつ減って、最後に無くなればいいのだ。
お茶会の最後には集合写真を撮ってもらい、お茶会メンバーは友達だというアピールをした。
それはもうお茶会メンバーは喜んだ。
両陛下も、まだ知らない発表前の魔道具。
自分たちは特別だと思うだろう。
お茶会メンバーが帰ってからルチルは、純粋な友達が欲しいのにと自己嫌悪に陥っていた。
どうしても、身分や計画が壁になって阻んでくる。
向こうだって、思惑の1つや2つあるだろうし、それを利用しているのは自分だ。
仕方がないことだと分かっていても、子供相手に汚いことしているよねという沼に足を取られてしまう。
仲が良くなったと思うし、お茶会のメンバーが笑ってくれるのは嬉しい。
友達だと思っているが、損得勘定なしなのかと聞かれると違うと言い切れないから口の中が苦くなる。
気持ちが落ちたままではしんどいので、ここは新しいお菓子でも作ろう! 気分を盛り上げよう! と、オニキス伯爵令息とアヴェートワ公爵家の本邸に行った。
厨房に顔を出すと、久しぶりに来たルチルを全員が歓迎してくれた。
「新作、新作。楽しみー」
心を躍らせているオニキス伯爵令息には少し離れてもらって、料理人たちに材料を用意してもらう。
今日作るのは、ハッロングロットルという北欧のホロホロした生地の真ん中に、ジャムがあるクッキーになる。
小麦粉とベーキングパウダーをふるいにかけて混ぜ、アーモンドを粉状にしたものと粉砂糖を加えて混ぜる。
小さく切ったバターを混ぜて、粉にまとまりがでてきたら、手のひらで丸めて少し平らに潰す。
真ん中に窪みを作り、そこにジャムを入れてオーブンで焼く。
焼き上がったクッキーが冷めれば、完成だ。
今までは普通のクッキー生地のジャム添えはあったが、ホロホロ崩れる柔らかい生地のクッキーは初めて。
冷めるまで待てないオニキス伯爵令息と料理人たちは、熱々のまま食べている。
「美味しい! ルチル嬢、これ熱くても美味しいよ!」
ルチルも匂いとオニキス伯爵令息の言葉に負けて、1つ食べてみた。
ホロホロ崩れる食感が、心の黒いものをボロボロと崩していく気がする。
美味しいものは心を豊かにしてくれると、お菓子にも作ってくれた料理長にも感謝した。




