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ダンスパーティーの前には、冬期テストがある。


テスト期間に入り、平民のみんなは大丈夫かなと、勉強しているだろう教室に向かった。


「で、お前たちは出ないわけ?」


ドアを開けようとした時、シュンらしき人物の怒っているような声が聞こえて、手を止めた。


アズラ王太子殿下やオニキス伯爵令息、ジャス公爵令息に向かって、「シー」と唇前で人差し指を立てる。


「出られないよ」


「うん。ドレスないと無理だよね」


「上品なワンピースも持ってないしね」


「でも、出てみたかったなぁ」


「ダンスパーティーって、どんな感じなんだろうね」


「ダンスパーティーっていうくらいだから踊るんだよね」


「ルチル様とアズラ殿下が踊る姿、見たかったなぁ」


聞こえてくる声に、ドアの前で4人顔を合わせて首を傾げる。


出たいなら出ればいい。

ドレスだって、学園が貸し出している。

学生のほとんどは自前だろうから、借りられるドレスがないってことはないだろう。


「シュンたちは出るんなら、見て報告してよね」


「服装なんて気にせず出たらいいだろ。俺たちだって普段着なんだから」


男子も礼服を借りられるはずだ。

もしかして、貸し出しを知らないんだろうか。


「無理だよ。いつもの服でなんて出れないよ。それに目立ったら余計に……」


「だよね。まさか先輩たちの言ってた通り、ドレス借りられなくなるなんてね」


「平民には夢の世界ってことだよね」


ゆっくりとドアの前から離れ、廊下の端に移動した。


「どういうことでしょうか? ドレスや礼服が足りなくなったんでしょうか?」


「そんなはずはないよ。ドレスの寄付だって毎年あるだろうからね」


「1度見に行ってみましょう。分からなければ、先生に聞いてみましょう」


オニキス伯爵令息の言葉に頷いて、みんなでレンタル室に移動した。

レンタル室の前には、令嬢が2人立っている。


「え? あ、あ、でででんかが、どうしてここへ?」


「どんな礼服があるのかなと思ってね。君たちは、どうしてここにいるの?」


「わた、わたしたちもどんなドレスがあるか見にきただけで、も、もう帰ります。失礼しました!」


おーい、廊下は走ったらダメだぞー。


令嬢たちの後ろ姿を見えなくなるまで見送り、レンタル室に入った。


レンタル室には、所狭しとドレスも礼服もサイズ別に並んでいる。

レンタル済みの場合、黄色のタグをドレスのハンガーに付けるようだが、付いているものは数着のみだ。


あー、いやだいやだいやだ。

予想が外れてほしい。


「余ってますね」


「そうだね」


「つまり、そういうことですね」


「たぶんね」


「卑劣な虐めだな」


ジャス様ー!

みんな、口に出さなかったんですよ!


「はぁ……どうしてこんな事するんだろう。恥ずかしくないのかな」


「平民の子たち、呼んできましょうか。今なら選べるでしょ」


「でも、あの子たちはもう出席を諦めているみたいでした。それに、出席すればもっと酷い目に遭うと思っているでしょうし」


ヌーに勉強できる場所を聞かれた時も、文化祭のバザーの時も、あんまり関与してほしくなさそうだったんだよね。

だからって見過ごせないんだけどね。


「首謀者がいるのか、それとも、なんとなく広まっているのか」


「先輩の言ってた通りって言葉ありましたよね。だから、毎年っぽくないですか?」


「そんな伝統要りませんわ」


「ですよねぇ。ダンスパーティーは明後日ですし、今から何か考えて手を打とうにも時間が足りません」


食堂からもカフェからも追いやられて、楽しみにしていただろうダンスパーティーにも出られないなんて……

身分は違っても、学校行事は平等でしょうよ。

何の溜飲を下げたくて虐めなんてするんだか。


「1つどうかと思う案があるのですが……」


「なに?」


「でも、私がすることで、いらぬ波風を立てるかもしれなくて……」


「ルチルに何かする奴がいたら、牢屋行きだから大丈夫だよ」


それ、大丈夫じゃないですよね。


「実行できるかどうかは聞いてからにするから、ルチル嬢教えて」


「彼女たちは、ダンスパーティーがどういったものか知りたいということと、私とアズラ様の踊っている姿が見たいと言っていました。だから、学園のダンスパーティーの後にでも、アヴェートワ家でダンスパーティーを開催すればと思ったんです」


「うんうん、いいと思いますよ。何が問題なんです?」


「また平民の皆さんを贔屓しているという訳の分からないとばっちりが、平民の皆さんに向いたらと思うと……」


「贔屓でいいじゃないですか」


「別に贔屓してるって思われてもいいんです。とばっちりが私に向けばいいんです」


「じゃあ、平民以外の人たちも呼んだらいいんですよ」


「私……社交性ないんですよ……」


「あ、友達少なかったですもんね」


「オニキス!」


いいんです、アズラ様。本当のことですから。

心に擦り傷を負ったくらいですから。

かなし……


「全学年全員はさすがに難しいと思いますし、1年生だけとなると2年生3年生に申し訳ないですし」


「全学年呼んで、王宮でする?」


「殿下、それはダメですよ。それに、全学年呼んだら学園のダンスパーティーしなくてもよくなりますよ」


王宮ではできないよねぇ。

アヴェートワ家にある大きいダンスホールって、何人まで入れるんだろ?


でも、場所がアヴェートワ家だったとしても、オニキス様の言う通り、全員呼んだら学園のダンスパーティーの意味なくなるよね。


ここは平民のみんなだけを呼ぶか。

それで来年と再来年、平民全員とあたしが同じクラスになるよう手を回せばいいんだよ。

あたしの目の光っている場所で、虐めはできないでしょ。


今もこのドレスのように、分からないところで小さな虐めをしてるんだろうな。

みんなに困ったことがないか聞いても、「ありませんよ」と答えるだけなんだよね。

見つけられないから注意ができないんだよね。


それに、他の学年……


うーん……


根本的なものを変えれないとダメなんだろうけど、変え方が分かんないわ。


どうにか虐めを止めたくて、派閥作ろうと頑張っているけど、中々思うように進展してないからねぇ。


仲良くなれたとは思うけど、手助けしてくれるかどうか……

まだ微妙なラインなんだよね。


「平民の皆さんだけを呼んで、アヴェートワ家でダンスパーティーをしますわ」


1ついい考えが浮かんだわ。

上手くいくかどうかは分からないけど、やってみる価値はあると思う。






明日ダンスパーティーです。

明後日で学園1年生終わります。


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― 新着の感想 ―
王立の学校で平等が謳われているということは、それはリアルに考えて、王と国の政策である筈なのです よ。 或いは、学校の創設者(多分、アリストテレスみたいな人ですね)か現在の責任者の理念であり、上もそれを…
[一言] 絶対王政の社会で平等を訴えたりしたら、王家に弓引く反逆罪に問われそうですものね。 根本を覆すのは難しいでしょうが、身分差ありきの世界に生きる人々に、ルチルの思いつきがほんのりでも希望の光とな…
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