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学園祭の剣術のトーナメント1年生の部は
1位 アズラ・ラピス・トゥルール、
2位 ジャス・ルクセンシモン、
3位 ベリル・ザーヴィッラで終わった。
ホールでの音楽発表も聞きごたえがあり、展示品も様々な物が見れて楽しかった。
そして、学園祭中も学生の間で盛り上がっていたのは、ダンスパーティーでのドレスやパートナーの話だった。
「ルチル嬢さぁ、殿下に言わないよね?」
「言いませんよ」
「よかった。彼の勇気は讃えるけど、なにをどう血迷ってルチル嬢にダンスパーティーのパートナーを申し込んできたんだが」
うん?
アズラ様がいるのにってことだよね?
あたしへの申し込みが、おかしいわけじゃないよね?
そこのところ、どうなの?
今は土曜日の夕方で、王宮のルチルの部屋で刺繍花の作業をしている。
「オニキス様は誰とも入場されないんですか?」
「好きでもない子とするもんじゃないからね」
「ふーん」
「なに?」
「プレゼントは受け取っていたのになぁと」
「ああ、それね。確かに受け取ったけど、その場で好きな人いるよって言ってるからね。それでもっていう子だけ受け取ったの」
「本当、モテますよねぇ」
「本当にねぇ」
「ジャス様と一緒に入場すればいいのに」
「ボソッと何を言うんだか。それに、ジャスはアンバー嬢と入場するって。姉弟がいるっていいよね」
「申し込みを断る風避けになりますもんね」
「で、本当は何が聞きたいの?」
お互い手先しか見てないのに、よく分かったなぁ。
どこから気づくんだろ?
「シトリン様とフロー様って何かあったんですか?」
「さぁ?」
「絶対知ってますよね?」
「知らないよ」
そうですか、ああ、そうですか。
「拗ねるくらいなら本人に聞きなよ」
「本人は触れてほしくなさそうだから聞けないんですよ」
「じゃあ、他で聞くのもよくないでしょ」
「でも、気になるんですー」
「分かった。情報交換にしよう。ルチル嬢が知っているフローの好きな人教えてよ。そしたら教えるよ」
「分かりました。教えてくれなくて結構です」
オニキス伯爵令息が作りかけの刺繍花を机に置いて、腕を上げて伸びをした。
「聞き分けがよくて、いい子」
「どうも」
「俺、謎なんだけど、どうしてフローは好きな人にアプローチしないの?」
「実らないと分かっていて告白するのは、勇気と覚悟がいるからじゃないですか」
「絶対に実らないの?」
「はい」
「でもさ、区切りがないから次に進めないんじゃないの?」
「どうでしょうか。進める人もいれば、区切りがあったとしても忘れられない人もいるでしょうから、一概には言えないと思いますよ」
ジュースを1口飲んだオニキス伯爵令息は、刺繍花作りを再開している。
「オニキス様は、手紙などでやり取りしているんですか?」
「してないよ」
「もしかして、夜中会いに行っているとか?」
その笑いは、どっちなの?
「俺ね、魔法で最初に練習したの、伝書鳩なんだよね。文字より声の方がいいじゃんって思ってさ。だから、いまだに伝書鳩。向こうはどう思っているか知らないけどね」
「聞かないんですか?」
「聞いても答えてくれないからね」
「恥ずかしいんでしょうね」
「どうだろね」
「どんな方なんですか?」
「小さい時は猿みたいに元気で、大きくなってからも令嬢っていうより猿って感じかな。でも、誰よりも女の子なんだよね」
「会いたいですか?」
「会いたいよ。毎日会えてる殿下とルチル嬢羨ましいもん」
だよね。
バカな質問したわ。ごめんなさい。
「冬休みにでも会わせてくださいね」
「冬は無理かな。春もちょっとなぁ。うん、夏だね」
「楽しみにしていますね」
返事はなかったけど、小さく頷いてくれた気がした。




