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邸に着いたら、サーぺと侍女全員が頭を下げて待っていた。

そのまま庭が見えるサンルームに向かい、和やかな昼食会が始まった。


「ちゃっきのはなちのつづきなんでしゅが、おじーちゃまとおとーちゃまは、とってもとってもつよいってことでしゅか?」


瞳を輝かせながら2人を見ると、自慢していいんだぞという、ドヤ顔をされながら頷かれた。


「しゅごいです! かっこいいでしゅ!」


「ルチル。どんな敵からも、どんな魔物からも守ってやるからな。お祖父様とずっと一緒にいような」


「あい、ずっといっしょにいましゅ」


「父さん、何を言ってるんですか。老体に鞭を打たなくてもいいんですよ。ルチルは私が守りますから」


「五月蝿いぞ。ルチルは私といると言ってるんだ。ヤキモチ妬くなんてみっともない」


「ルチルは優しい子ですからね。お年寄りを蔑ろにできないんですよ」


「2人共、やめてくださいな。アズラ王子殿下の前で恥ずかしいですよ」


祖父と父が、顔を見合わせて気不味そうに目を泳がせた。

途端に、コロコロと鈴が鳴るような、可愛らしい笑い声が聞こえてきた。


「笑ってしまってすみません」


ええ!? アズラ様の笑い声!? 可愛すぎない!?


「王宮では1人で食べることが多いからか、このあたたかい空気がたのしくて、つい。おはずかしい」


やだ、もう……おばちゃん、本当に泣いちゃいそうだよ……小さな子供が1人でご飯だなんて……

どんなに豪華なご飯でも味気無いに決まってるよ……


「アズラちゃま、ちゅうしょくごは、おじかんありましゅか?」


「うん、あるよ」


首を傾げながらも、笑顔で答えてくれる。


「では、おうましゃんでさんぽしましょう」


「馬? ルチルは乗れるの? もうしわけないけど、ぼくは乗れないんだ」


「わたちものれましぇんよ。おじーちゃまとおとーちゃまにのせてもらうんでしゅ」


「え?」


「駄目ですよ、ルチル。危ないことをアズラ王子殿下にさせられません」


「あぶなくないでしゅ」


「駄目です。もしもがあるかもしれませんからね」


いつもならお祖母様の言うことをきくけど、今日はきかない。

だってアズラ様は、きっと外に出たことないはずだもの。

王宮は想像できないほど広いんだと思うけど、そういうことじゃない。

見たことない新しい物って、それだけで楽しいんだから。


「もしももないでしゅ。おじーちゃまとおとーちゃまがいましゅ」


「ルチル、我儘言わないの」


少し強目に言われて、つい頬を膨らませてしまった。


「えっと、ルチル、ありがとう。馬はもう少し大きくなったら練習する予定だから、乗れるようになったらいっしょに散歩しよう」


それじゃ、遅いの!

今、楽しいことを知らないって、気づかないうちに心にシミを残しちゃう。

知らず知らずのうちに心が真っ黒になってしまう。

天使が堕天使になっちゃう。


「ルチルは、きょうアズラちゃまと、おうましゃんでおさんぽがちたいでしゅ」


ここはもう秘密兵器を使うしかない。

頑張って瞳に涙を溜めて、眉を下げながら祖父を見た。


「おじーちゃま……どうちてもダメでしゅか? つよいおじーちゃまとおとーちゃまがいるのに……ルチル、みんなとおうましゃんのりたいでしゅ……」


ここで1粒涙を溢してみる。


うん、上手に流れた。


「ルチル……うんうん、お馬さん乗ろうなぁ……お散歩しようなぁ」


あ、お祖父様まで泣いてしまった……

嘘泣きでごめんなさい……


「あなた」


「大丈夫だ。ちょっと散歩するだけだ。問題あるまい」


「アラゴからも何か言ってよ」


「母さん、すみません」


「もう! あなたたちは、本当にルチルに甘いんだから!」


ふふ、勝った。

アズラ様が帰った後が怖いけど、今は勝利に酔いしれよう。


横目でアズラ王子殿下を見たら、呆けていた顔から喜びを隠しきれていない顔に変わったので、心の中でガッツポーズをした。


その後、アズラ王子殿下の日常を聞いてみたら、すでに王子教育が始まっているので、空いている時間に王宮の庭の散歩に、図書館での読書、剣の練習場では今はかけっこをしているそうだ。

5才になったらお茶会と称して、同年代の子供を招待して遊んだりするだろうとのことだった。


ほら、やっぱり王宮の外に一歩も出てないよ。

外を知らないなんて可哀想だよ。

あたし、領地に来て外に出られた時、嬉しかったもん。楽しかったもん。


食後のデザートに、バニラアイスが出てきた。


「これが、あたらしいスイーツ? どんな味なの?」


「たべてみてのおたのちみでしゅ。とけりゅまえにどうぞ」


上から横からと眺めていたアズラ王子殿下が「溶ける?」と、不思議そうにカップに手を添えた。

冷たいカップに顔を伸ばし、ゆっくりとスプーンを口に運んでいる。


人が喜びで震えるところ、初めて見た。

これが普通の子供ならば、手足をバタバタさせたに違いない。


でも、さすが王子様。

瞬きの異様な回数だけで、後はスマートだ。

瞳も顔も輝いているけどね。


「おいしい。とてもおいしいよ」


「おくちにあってよかったでしゅ」


夢中でアイスを食べるアズラ王子殿下を見ながら、ルチルは心を寛がせていた。






天使、もといアズラ王子殿下が登場しました。そしてルチルの性格が段々と表れてきました。次話は王子様と遊びます。


いいねやブックマーク登録ありがとうございます。誤字報告はお手数お掛けしました。以後、気を付けたいと思います。

ここまで読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。楽しみながら投稿頑張ります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] かわいい、かわいい、かわいい。の一言(三言?)です。 [気になる点] そうか、この可愛らしくノーサツするところが悪役令嬢に……。っていうか、ルチル悪役令嬢じゃないよね。どっちかっていうと聖…
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