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81 〜フローの心情 1 〜

プレゼントを渡したいという列はまだ続いていたが、控え室に行かなくてはいけない時間になったので、並んでくれている令嬢たちに謝りながらその場を離れた。


「フローさ、さっきのアレなに?」


「アレとは?」


「シトリン嬢への注意だよ」


「アレはシトリンが悪いでしょ」


オニキスに盛大にため息を吐かれると、気まずくなる。

私はまた、何か見落としているのかと不安になる。


「どうしてあの場で注意した?」


「え? だって、その場で言った方が分かりやすいでしょ」


「たったそれだけのこと?」


「たったそれだけって……オニキスが悪く言われたんだよ。怒るのは普通でしょ」


「フローって救いようのない馬鹿だよね」


友人が罵倒されたから注意しただけだ。

何も間違っていないと思うのに……

私は、何かを間違えたらしい。

でも、何かは分からない。


「俺、嫌そうにしてた? 傷ついているように見えた?」


「それは……」


「見えてないよね。シトリン嬢が本気で言ってないって分かってたし、シトリン嬢の言うことは最もだしね。

プレゼントは殿下の手にはいかない。これは、全部チャロが引き取りにくる。フローも、それを知っていたはずだよ」


「でも、言っていい言葉と、言ってはいけない言葉があるだろ」


「そうだね。親しき仲にも礼儀ありだからね。でもさ、俺とシトリン嬢のやりとりは、さっきのが当たり前。普通だよ。一緒に昼食をとっているのに知らないなんてないよね? それとも、興味なくて聞いてない?」


2人のいつもの会話?

どうだった?

確かによく言い合っているとは思うけど……


「でさ、あんなに敵対心剥き出しの令嬢たちの前でシトリン嬢を怒ってさ、この後シトリン嬢がどんな噂されるかとか考えなかったの? 傲慢女、ヒステリー、勘違い女、他にも色々言われそうだよね。フローはさ、誰よりもシトリン嬢のことを考えてあげなきゃいけない立場なんじゃないの?」


「考えてる。考えているから注意したんだ」


「ふーん。俺には理想の押し付けにしか見えなかったけどね」


オニキスは何を言っている?

理想の押し付け? どこが?


「やっぱりまだ、全然シトリン嬢を見ていないんだね」


見ている。

見ようって決めてから、一緒に過ごす時間も増やした。


「それともう1つ、どうしてプレゼント受け取ってるの?」


「え?」


「殿下へのプレゼントは、異分子を炙り出すために受け取ったんだよ。殿下とルチル嬢が狙われているって聞いたよね? 何かするならプレゼントだろうってことで、受け取っているんだよ。フローは受け取る必要ないよね?」


「でも、わざわざ用意してくれたんだよ。受け取らないと可哀想だろ」


「可哀想ねぇ。何様だよ」


心臓が痛い……

オニキスの冷たい視線が、心を抉ってくる。

私の行動の何が間違っている?


「まぁ、まだ婚約者内定止まりだからなぁ。ここから違う婚約者になるかもしれないしな」


「ならないよ」


「ならないって言うなら、もっとちゃんと考えて行動するべきだから。誰彼構わず愛想振り撒く必要ないと思うよ」


控え室に着き、そこでオニキスとの会話は終わってしまった。


私は、誰彼構わず愛想を振り撒いているのだろうか?

でも、笑顔でいることはいいことだろ?


何が悪いのか全く分からない。

オニキスだって、いつも笑顔じゃないか。


「あれ? フロー、それどうしたの?」


「殿下、それとは何でしょうか?」


「模擬刀につけてるリボンだよ。シトリン公爵令嬢からもらったの?」


「いえ、これはピャストア侯爵令嬢からいただいたものです」


「え? どうして?」


「どうしてとは?」


「え? あー、僕の知らない間に婚約者代わったとか?」


「いえ、代わっていませんし、内定のままです」


「あー、んー、なるほど。オニキスが怒っている理由が分かったよ」


どうしてこの少ない会話だけで、殿下はオニキスが怒っている理由が分かるんだろう?

私の何が問題だというのだろう。


「それ、つけたまま戦わない方がいいよ」


「どうしてですか? このリボン、祈祷までしてくださっているそうなんです」


「そうだとしても、シトリン公爵令嬢に失礼だよね」


「でも、ピャストア侯爵令嬢に失礼になります」


「えー、んー、そうくるのか……」


悩ましげに顔を歪める殿下に、首を傾げるしかない。

私にはオニキスの言っていたことも、殿下を悩ませてしまったことも分からない。


「フローのさ、好きな人って誰?」


「好きな……人、ですか……」


心臓が五月蝿い。息ができない。


好きな人のことは考えないようにしている。

それこそ、向き合おうとしてくれているシトリンに失礼になる。


「じゃあさ、誰を大切にしたい?」


「……大切にしたい人?」


「言葉を変えると、誰を優先したい? さっきの話だと、シトリン公爵令嬢とピャストア侯爵令嬢のどっちを大切にしたい?」


「どちらもです」


「んー、でもさ、リボンをつけていると、傷つくのはシトリン公爵令嬢だよ。つけないとピャストア侯爵令嬢が傷つく。どっちかは絶対傷つくんだ。フローが選ぶしかないんだよ」


「どうしてリボンをつけていると、シトリンが傷つくんですか? たかがリボンですよ」


「殿下、さっきから聞こえてます。腑煮えくり返るんで止めてもらっていいですか」


「そう怒らないでよ、オニキス」


「怒りますよ。本当自分以外、どうでもよすぎる。たかがリボンならつけんなよ」


苦しい。


どうして、そこまで言われないといけないのか。

どうして、こんなにも怒られないといけないのか。


誰か正解を分かりやすく教えてほしい。


握りしめている手が痛い。

でも、それ以上に心が痛い。


「フロー、リボン取れ」


「ジャス……」


「シトリン泣かすな」


「泣かないよ。シトリンは強いじゃないか」


「泣く。あいつは泣き虫だ」


ジャスは、何を言っている?

今までシトリンの泣いているところなんて見たことない。

また私が見ていなかっただけ?


でも、さすがに泣いていたら記憶にないなんてこと……ないはず……


「ああもう! 腹立つ! フロー、いい加減にしろよ! お前のおままごとに周りを巻き込むな!」


「オニキス、言いすぎだ」


オニキスの舌打ちが、私を追い込んでいく。

何も考えられない。


「フロー、シトリン嫌いか?」


「今は嫌いじゃないよ」


「なら、どうしてシトリンの気持ちを考えない?」


「ジャス違う。フローは誰の気持ちも考えていないんだよ」


「そんなことない。フローもいい奴だ」


「悪い奴とは言ってねぇよ。どうでもいい奴ばかりに愛想振り撒いている奴とは思っているけどな」


「そこまで。オニキス、落ち着いて。そろそろ開会式だ。行こう」


歩き出した殿下やオニキスの背中を見てから、模擬刀についているリボンを見ていると、ジャスにリボンを取られた。


「これは、俺が預かっておく」


私の何が悪い?

どうして3人共、私を責める?

私は紳士道に反している?


小さい頃から、子供と女性には優しくするようにと習っている。

優しくできているはずだ。

それに、シトリンに無礼のないようにしている……はずだ。


言葉遣いだって、悪いと敵を作るのはシトリンになるだろ。

そうならないように注意しているだけなのに……

シトリンのことを考えて行動しているのに……


分からないことばかり考えていたせいか、2回戦で負けてしまった。


オニキスは宣言通り、1回戦で怪我もせず負けていた。

観覧席で、ルチル嬢たちと楽しそうにしているオニキスを見られなかった。


オニキスを、いつも羨ましく見てしまう。

何でも器用にこなせて、誰とでも仲がいい。

恋愛も上手くいっている。


その上、護衛騎士にまでなった。

そして、何もかも分かっている。


劣等感が膨らんでいく。






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― 新着の感想 ―
「貴族向いてねえからヤメロ」、ですねえ。 ヒヨコの雌雄を識別する仕事や、無数に作られる工業製品の中から不良品を見抜いて弾く仕事などさせたら、当人も周囲も幸福なのでは。
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