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冬休みを目前に、まずは学園祭がある。
ルチルはでき上がっているクッションを展示スペースに飾り、シトリン公爵令嬢とアンバー公爵令嬢と闘技場に向かった。
学園祭は3日間あり、展示品は3日間展示されるが、剣術のトーナメントと音楽の発表会は、今日は1年生、明日が2年生、最終日が3年生となっている。
学園祭は初日から一般公開されていて、騎士団や劇団関係者、各企業の関係者が金の卵を探しに来るのだ。
学生の就職活動にもなるので、力を入れている2年生は多く、特に就職が決まっていない3年生は最後の砦の攻略をというふうに踏ん張っているそうだ。
闘技場に向かっていると、女子たちの長い列を見つけた。
「入場口に続いているのでしょうか?」
「それにしては令嬢ばかりよ。おかしくない?」
首を傾げながら先頭まで見にいくと、オニキス伯爵令息とフロー公爵令息がいた。
「何やってるの?」
「シトリン嬢じゃん。フローへのプレゼントなら後ろに並んでよ」
「え? この列って、フロー様へプレゼントを渡すための列なんですか?」
プレゼントを渡している列が止まって、フロー公爵令息が苦笑いを向けてくる。
「違いますよ。ほとんど殿下へのプレゼントです。後に続くのはオニキスですね」
「モテて、まいっちゃうよね」
「それを、どうしてオニキス様とフロー様が?」
「俺のモテ話無視?」と、オニキス伯爵令息が口を尖らせている。
「殿下は受け取られなかったんですが、オニキスが受け取ってしまいまして。オニキスが受け取り終わるのを待っていたら、いつの間にか列ができてたんです。並んでまで渡したいという気持ちを無碍にはできなくて、という感じです」
「あなたたちバカなの? アズラ様が受け取らなかったなら、股渡しでも受け取らないわよ。アズラ様ってそういう人でしょ」
先頭に並んでいた子が、シトリン公爵令嬢を睨んでいる。
青い包装紙のプレゼントということは、アズラ王太子殿下へのプレゼントなのだろう。
「まぁまぁ。殿下が受け取らなかったら、俺が代わりに有り難くもらうよ」
「きもっ」
「シトリン、その言葉はよくないよ」
「どうしてよ。渡している子たちはアズラ様にって持ってきているのよ。オニキスにいくなんて考えてもないのよ。普通に嫌じゃない」
「だからって、キモいはないと思うよ」
「分かったわ。言葉を変えるわ。最低」
「シトリン」
「なによ」
はぁ。どうして2人が喧嘩するの?
仲良くなったと思っていたのに。
「ルチル嬢、俺の分の席1個確保しといてね」
「どうしてですか?」
「俺1回戦で負けるもん。その後は観覧席から見るから」
それって、あたしの護衛をするためにわざと負けるのでは?
「アンバー様がいるから大丈夫ですよ」
「何の話? ほら、横並びで席取れなくなるよ。行った行った」
オニキス伯爵令息に手を払われて、これ以上ここでシトリン公爵令嬢とフロー公爵令息を喧嘩させないためにもと移動した。
「あー! イライラする! 私は悪くない!」
あたしもそう思う。
きっとアズラ様は受け取らないだろう。
それに、1度受け取ってしまうと、次もまたオニキス様やフロー様経由で渡そうとしてくるだろう。
2人にも迷惑がかかることだ。
フロー様がシトリン様の言葉選びを注意するのであれば、陰でするべきだったと思う。
というか、オニキス様とシトリン様の言い合いなんて、いつもあんな感じだ。
本気で言い合っているわけではない。
ただ戯れあっているだけだから、注意もどうかと思うけど。
うーん……
「シトリン様は、最近フロー様との仲はいかがですか?」
「どうかって聞かれても、最近ずっとお小言ばっかりよ。私の教育係になったつもりなのか、口煩くて鬱陶しいわ」
「喧嘩ばかりですか」
「喧嘩……そうね、喧嘩といえば聞こえはいいわね」
「どういうことですか?」
「何でもかんでも注意されて、怒ったら、そのまま放置されて終わりなのよ」
「フロー様っぽくないですね」
「本当にね」
入場口は空いていて、席もほとんど埋まっていなかった。
決勝に近づくほど席が埋まると聞いていたので、早い時間に来て正解だったようだ。
前方の席を難なく4席取れた。
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