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ルチルが夜中にふと目覚めると、隣で眠っていたはずのアズラ王太子殿下がいなかった。

布団を触ったら冷たくて、随分前からいないことが分かった。


部屋は暗く、どこに行ったのか分からない。

戻ってくるまで待っていようと思ったが、眠気には勝てず眠ってしまった。


朝起きた時に「夜中、どこか行かれてたんですか?」と聞いてみたら、「最近お腹の調子が悪くて、お手洗いによく行くんだ」と苦笑いされた。


「それは、由々しき事態では? お腹冷やすの大敵」と、クッションを作り終えたルチルは、どうにか腹巻きを作れないかと考えてみた。


この世界で、毛糸を見たことがないのだ。

毛糸を作るところからだなんて、時間がかかりすぎる。

もう1度市場を見回ってみたが、毛糸の替えになりそうな素材は見つからなかった。


しかし、ルチルは気づいてしまった。

アズラ王太子殿下が、毎日のようにお手洗いではなく、部屋の外に出て行っていることを。


1~2時間ほどで帰ってきているようだが、帰ってきたら帰ってきたで強く抱きしめられ、何度も泣きそうな声で「ごめん」と呟いている。


お腹の調子が悪いというのは嘘だったのかと、ルチルの方が泣きそうになった。


裏切られているような気持ちでいっぱいだったが、アズラ王太子殿下の泣きそうな声が耳から離れず、次の日の夜中に尾行することにした。


「何しようとしてるの?」


「オニキス様……どうして……」


アズラ王太子殿下が出て行った直後に静かにドアを開けたら、ドアの前にオニキス伯爵令息が立っていた。


「ルチル嬢、夜中だよ。それに、1人で行動しないって約束、どうなってるの?」


「え? でも……」


「でもじゃないよ。ほら、早く部屋に戻って」


肩を押され、部屋の中に押し込められる。


「こんな夜中に殿下もいないから俺は入れないけど、中で大人しく殿下が帰ってくるの待っててよ」


「えっと……オニキス様は、アズラ様がどこに行かれているのか知っているんですよね?」


「知ってるよ」


「どこに行かれているのか聞いても?」


「辺境伯夫人のとこ」


は? は? はぁ!?

考えたよ! 少しは考えた!

でもアズラ様に限って、それは無いと思っていたのに……

やっぱり男って浮気をする生き物なのね(偏見)……


「……婚約破棄だわ」


「怖いこと言わないでよ。殿下を殺す気?」


「どうして庇うんですか? 可哀想なのは私ですよ?」


「可哀想なのは殿下でしょ。この作戦思いついたのは公爵だし」


「作戦? お父様?」


「聞いてないの? 公爵が、自分から説明しとくって言ってたけどなぁ」


ほほぉ。

お父様ったら、何をアズラ様にさせているんでしょう。

そして、それをあたしに隠しているのは、後ろめたさでいっぱいということですね。


「明日、お父様に聞きますわ」


「そうして。部屋で大人しくしてて」


大人しくを強調しなくても。

アズラ様を待って、アズラ様と話し合いをするだけなのに。


何のための作戦かは知らないけど、いくら作戦だとしても、浮気紛いなことされて黙ってられるほど女心死んでないのよ。


すやすやと気持ちよさそうに眠っているミルクを撫でながら、アズラ王太子殿下が帰ってくるのを待った。


2時間ほどで帰ってきたアズラ王太子殿下は、起きているルチルを見ても驚かなかった。

きっとオニキス伯爵令息が伝えたんだろう。


「ルチル、起こしてしまったみたいでごめんね」


「謝るのは、それだけですか?」


ベッドに上がろうとしていたアズラ王太子殿下が止まった。


「ごめん」


「それは、何の謝罪ですか?」


「……作戦だとしても、あんなことをして」


「あんなこととは? 具体的に教えて欲しいんですけど」


「それは……ごめん。でも、ルチルも了承しているって聞いたから」


はぁ? 聞いてない!

お父様、しめ上げる!

お母様にも告げ口してやる!


「私は、具体的にしていることを聞いているんです。言えないことをされているんですか?」


「……言いたくない」


「分かりました。もう2度と私には触らないでください」


「え? ちょっと待って。無理だよ」


「私も無理ですよ。浮気している人に触られたくないです」


「してないよ! 作戦だよ!」


「作戦でも浮気は浮気ですよ。言えないことされているんですよね」


「ちがっ! 僕だって、何度も嫌だって言ったよ! でも、これしか方法がないって言うから仕方なく……」


泣いちゃった……

泣かせたいわけじゃなかったんだけどな。

アズラ様もアズラ様で限界だったのかな?

既に毎夜泣きそうだったし。


「仕方ないって言葉は便利ですよね」


「っ……僕だって、ルチルが了承したって聞いて、どんなに嫌だったか。でも、領民を助けたいって気持ちから我慢するって聞いたから……僕は王太子なのに、自分の気持ちを優先して軽薄だと、王太子に向いてないと言われたようで辛くて……これ以上、ルチルに幻滅されないよう頑張ろうって……なのに、浮気だなんて……僕、いつの間にそんなに嫌われてたの……嫌だ……捨てないで……」


本格的に泣いてしまった。

それに、王太子に向いてないとか思ったことないから。

今回はお父様にいいように使われてしまったってことなんだろうけど、一体何をしているんだろう?


「何をしているか教えてくれたら、今回は許します」


たぶん……許せる……

許せなかったら、ごめんなさい。


「でも……」


「そんなに言いたくないことをしてるってことが、嫌なんです。他に方法はなかったんですか?」


「だって触りたくないし、触られたくなかったんだ」


んー、えっと、んん?

まさかお茶してるだけとかじゃないよね?

それでこんなに怒ってたら、アズラ様に平謝りしないとだよ。


「教えてください。何をしているんですか?」


小さな声で所々途切れさせながら、何をしているのか教えてくれた。






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