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「ごめんなさい」
「……どうしてルチルが謝るの?」
「私が緊張してキスできなかったから」
「どういうこと?」
恥ずかしい……
でも、アズラ様が笑っていないのは、あたしがキスできなかったからだ。
どうしてアズラ様がキスしなくていいと思ったかは、今はどうでもいい。
答えてくれるか分からないけど、後から聞こう。
今は誤解を与えてしまった、どうしてキスできなかったかを言わなくては。
「私、昔からアズラ様を好きでした。その気持ちに嘘はありません。でも今は一一
「待って! 言わないで!」
え? どうして?
言わなきゃ誤解解けないのに……
「その先は、お願いだから言わないで」
待って……何がきっかけで泣いたの?
泣かせてしまうようなこと言った?
「ごめん……でも、誕生日に聞きたくない……情けなくてごめん……」
だから、どうしてそうなった?
あー。
分からなさすぎて、緊張も恥ずかしさも彼方へ消えていったわ。
あたしの乙女の期間短かったなぁ……
まぁ、もう酸いも甘いも一通り経験済みだもんね。
今は15歳だけど、前世のあたしの経験は残っているものね。
これが、あたしなんだな。
乙女になりたかったよ。
「アズラ様。私はただ告白したいだけです」
「うん、分かってる……でも、今日は一緒にいたいんだ……」
「今日は? これからは一緒にいてくれないんですか?」
「僕は一緒にいたいよ。でも、ルチルは……」
言い淀まれたら、何が言いたいのか分かんないよ。
「私も一緒にいたいですよ」
「そう言ってくれてありがとう。ルチルは優しいね」
おい、それ信じてない時の台詞だろ。
ああ、ダメよルチル。
あなたは、今15歳の可愛くて可憐な純粋で優しくて守ってあげたくなる女の子なんだから。
まぁ、そんな冗談は置いといて、どうしよっかなぁ。
私がアズラ様を好きだって、どうすれば伝わるんだろう?
あ! あれ1回やってみてもいいかも!
現実ですると痛いと思うけど、今までも痛いことしてきたんだから痛い子でもういいでしょ。
「アズラ様、手をお借りしてもよろしいですか?」
「手? いいよ」
アズラ王太子殿下の手をとって、ルチルの左胸に押しつけた。
「なっ! なっ! ななっ!」
「分かりますか、アズラ様。私の心臓がこんなに強く激しく動くのは、アズラ様といる時だけなんですよ。心臓が口から飛び出ないように、息をするのも大変なんですよ」
「分かっ、分かったから、手離して!」
「揉んでみたい? ですか。いいですよ、どうぞ」
「いいい言ってない。はな離して」
初々しくて可愛すぎる!
私も恥ずかしいし、頭真っ白になりそうだけど、この姿見られるだけでも幸せー。
「ルチル、お願いだから離して……」
今日は泣いて懇願しても離しません。
覚悟してもらいましょう。
「嫌です」
「ダメなんだよ……もう限界なんだよ……」
「分かりました。離す代わりにアズラ様を好きにしていいですよね」
「僕を好きにする?」
「はい、キスはしなくていいとのことですので、目一杯愛そうと思いまして」
「ちょっと待って……え? ルチルは、僕のことまだ好きなの?」
「好きですよ。さっきもそう言いましたよね」
「え? いや……でも……え?」
気が抜けてしまったのか、アズラ王太子殿下が手を動かした。
うむ、大きいから柔らかいだろうって、揉みはしないのね。
見えているところ全部を真っ赤にしたアズラ王太子殿下の手が、また固まった。
「ルチル……あああの……手を離してほしいんだ」
「ですから、好きにしていいですか?」
「キスにしよう」
「いいえ。手を離さないか、私に愛されるかです」
挙動不審に瞳を動かしているアズラ王太子殿下が、観念したように息を吐き出した。
「分かった。僕を好きにしていいよ」
「ありがとうございます」
おっと、心の声が漏れてしまった。
手を胸から離すと、静電気でも走ったのかと思うほど素早く手を引っ込められた。
「ちょっと席を外すね。すぐに戻ってくるから」
「ダメですよ。はい、アズラ様寝転がって」
「ルチル、ダメなんだ。僕は今ダメなんだ」
ええ、ええ、気づいていますとも。
どうして席を外したいのかも分かっていますとも。
でも、逃すわけないよね。
存分に泣いてもらいましょう。
ルチルの楽しそうな笑顔は、アズラ王太子殿下から見たら悪魔の笑みに見えただろう。
腕を掴み、引っ張って寝転がし、夜明けまでアズラ王太子殿下を泣かせ続けたことは2人だけの秘密だ。
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