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泣いているルチルを廊下でアズラ王太子殿下が抱きしめていたことで色んな噂が飛び交ったが、それ以外は何もなく平和と言っても過言ではなかった。


マルニーチ先生も何も言ってこないし、何かをしてくるようにも見えない。


アズラ王太子殿下の誕生日を明日に控え、授業が終わると、ルチルとアズラ王太子殿下は王宮に向かった。


陛下と王太子の誕生日は祝日になる。

学園は休校だ。


ちなみに、両陛下の誕生日パーティーは夜会のため、子供の出席は不可。

王妃殿下の誕生日は祝日にはならないが、夜会は行なっている。

成人する18歳を超えないと、ルチルもアズラ王太子殿下も出席できない。


ああああああ!

無理! もう無理だよー!


ルチルは、やっとアズラ王太子殿下から離れられた湯浴みの時間に、頭を抱えていた。


ねぇ! 前のあたしは、どうやって接していたの?


あんなに麗しくてカッコよくて可愛くて、優しくて物腰も柔らかくて、いい匂いまでするアズラ様に、どうしてドキドキもせずに接することができていたのー!?


それに、めちゃくちゃいい声で「好きだ」「愛してる」「可愛い」「側にいたい」なんて言われるんだよ!


もう無理! 心臓壊れる!

笑いかけられるだけで天に召されそうになる!


ああ、違う。

もう召されていて、ここが天国なんだわ。


まごうことなきアズラ王太子殿下に対しての気持ちを実感してしまってから、アズラ王太子殿下の側にいるだけで思考回路がショートし、心臓が口から出ないように息を止めることに必死だった。


でも、急に行動がおかしくなったと怪しまれても困るから、自分は女優だと思い込み、頑張って笑顔で乗り切った。


と思っているのはルチルだけで、よそよそしくなったルチルにアズラ王太子殿下は落ち込み、


『僕、何かしてしまったかな?目を逸されることが多くなったし、笑ってくれなくなった。嫌われた……違う! そんなことない!


でも、僕と同じ空気を吸いたくないのか、息を止められる。そこまで嫌われているってこと?


嫌だ! 嫌われたくない!


ルチルがおかしくなったのは、変態教師の後からだ。

僕の慰め方が悪かった? もっと男らしく慰めるべきだった? もしかして、マルニーチ先生という大人に大人の魅力を感じて、僕じゃ物足りなくなってしまったんじゃ……』


などと、的外れな考えに支配されていた。


湯浴みから上がると、寝着を纏い、アズラ王太子殿下の部屋に赴く。


アズラ王太子殿下は、既に湯浴みから上がっていて、ベッドでアルバムを見ていた。

2人で撮り溜めている写真は、ルチルも時間があれば眺めている。


おずおずとならないように、ベッドに上がった。

微笑みながら見てくるアズラ王太子殿下に、笑顔が固まらないように気をつけて微笑み返す。


「アズラ様、あの、お願いがあるのですが」


「なに?」


「今日は、夜更かしをしたいのです」


「それは構わないけど、どうして?」


「その、日付が変わった瞬間に、おめでとうを言いたくて……」


あああああああ!

恥ずかしい! 恥ずかしすぎる!

こんな事を口にするなんて、羞恥の極みがすぎる!


でも、アズラ様を幸せにするという使命があたしにはある。

好きだからこそ幸せでいてほしい。

アズラ様の溶ける顔を間近で見ていたい。

アズラ様に幸せだと思ってもらえることをしていきたい。

その幸せを一緒に感じられたら、あたしは感涙にむせび泣くほど悦楽すると思う。


「嬉しい。じゃあさ、誕生日の特別なキスは、その時にお願いしてもいいかな?」


「え?」


「いやかな?」


嫌じゃない、嫌じゃないけど……

どうして昔のあたしは、あんなにブチュブチュできたの!?

今から緊張で吐きそうだわ……


「大丈夫です。その時にいたしますね」


「うん」


少し寂しそうに微笑まれたけど、緊張が上限を振り切っているルチルには気づけなかった。


日付が変わるまで、アルバムを一緒に見ながら「小さい頃にカメラが欲しかった」と「カメラがあれば、あの時使いたかった」と、小さい頃の思い出話に花を咲かせた。


「アズラ様、15歳おめでとうございます」


「ありがとう、ルチル」


嬉しそうに微笑んだ後、目を閉じられた。


ルチルは呼吸困難を鎮めようと深呼吸をし、バランスを崩して倒れないようにアズラ王太子殿下の腕を掴んだ。


震える……どうしよう……


意を決してキスをしようとした時、アズラ王太子殿下の手でルチルの口を隠された。

そのまま体を押し戻され、呆然としてしまう。


「そろそろ寝ようか」


「え? でも……」


「キスはいらないよ。一緒にいてくれるだけで、僕は嬉しいから」


違う。嘘だ。だって、泣きそうな顔してる。


「します! キスします!」


「いいよ。明日は早いしね。寝ないとね」


「アズラ様! キスしますから!」


「いいって! 嫌々されたくない!」


悲痛な顔をして、アズラ王太子殿下が俯いてしまった。


「嫌ではありません。どうして、どうしてそう思ったのですか?」


「……言いたくない」


「言ってくれないと分かりません。私の何が誤解を与えてしまったんですか?」


「ルチルがそう言うってことは、僕の勘違いだったってことだね。勘違いしてごめんね。キスは本当にもういいから。寝よう」


強制的に笑わされているような顔に、悲しくなった。

こんな顔をさせてしまったのが、自分だということに苦しくなる。


泣きたいのは、アズラ様だろうに……

あたしが泣くのはズルいだろうに……


「どうして……言ってくれないんですか?」


「ルチル、泣かないで」


「私……嫌がってなんていません」


「僕が勘違いをしたのが悪かったね。ごめんね」


「そうじゃなくて!」


ああ、困らせてる……目も眉も下がっている……

今日は、アズラ様の誕生日なのに。

アズラ様が幸せじゃないといけない日なのに。






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