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50 〜フローの心〜

この恋に気づいたのは、いつだっただろう……

これが恋だということに気づいたのは、いつだっただろうか……


寝ても覚めても思い浮かぶのは、たった1人の顔。


どこまでも綺麗で、どこまでも聡明で、神さえもあの人の美しさには敵わない。


いつの間にか好きになっていて、好きという想いに触れた時には失恋していた。


笑った顔に苦しくなる胸が、名前を呼んでくれる度に跳ねる胸が恋だと分かり、泣いている顔に体が熱くなった。


そして同時に、自分の心から目を背けたくなった。


ルチル嬢にバレているとは思ってもいなかった。

完璧に隠していたのに。


「フロー、今年も誕生日パーティーはするんだよね?」


「はい。当日は学園ですので、誕生日がある週の日曜日にする予定です。近いうちに招待状をお送りします」


昼食時、殿下が私に尋ねてきて、返答に頷きを返してくれた。

廊下での言い合いから1週間程過ぎている。


オニキスとは、何もなかったように接している。

彼のこういうところが、地味に怖かったりする。

誰よりも子供っぽく振る舞うのに、誰よりも大人だったりする。


不倫について聞いてみたことがある。

「周りから白い目で見られて、怖くない?」かと。


今思えば、何て馬鹿なことを聞いたんだろうと思う。


彼は、家から見放されている。

不倫が親の耳に入り、親の怒りを買ったのだ。

今はもう、伯爵家に帰ることがないそうだ。


それなのに、彼は笑顔でこう答えた。

「好きな人が自分を見てくれるだけで、怖いものなんてないじゃん」って。


私は、もし自分の想いが届くんだと確証があっても、親から見放されたり、周りから白い目で見られる未来が訪れるのなら、想いを伝えることはしないだろう。


だって、将来どうするんだ?

家族や周りに見放されたら、どうやって生きていけばいい?


私には無理だ……


だけど、この想いだけは私のもの。

誰にも触れさせない。

この想いだけで生きていこうと思ったんだ。


だから、結婚相手なんて誰でもよかった。

周りの女の子は、みんな同じ顔に見える。

笑顔で褒めれば機嫌が良くなる。だから、褒める。

それでいいじゃないか。


殿下とジャスとルチル嬢も変わりない。


一瞬ジャスはシトリン公爵令嬢を好きなのかもと思ったが、あれから観察しても、そんな素振りは一切無かった。

杞憂だったようだ。


シトリン公爵令嬢とは変わった。

元々話す方ではなかったが、あれ以来一言も交わしていない。


仲が悪いと面白可笑しく噂されるようになり、周りの目が気になって謝ることすらできていない。

謝ったとしても、また怒られそうだけど。


シトリン公爵令嬢には、夏休みにお茶だの買い物だの付き合わされていて、学園が始まってすぐの休みの日もお茶に付き合わされていた。


色々質問してくるなと思っていたが、仲良くなろうと努力していたとは思いもしなかった。

「ああ、今日も我儘に付き合うのか」と憂鬱だった。


オニキスに「シトリン公爵令嬢は変わった」と言われて、ピンとこなかった。


変わった? あの我儘が? そんなわけない


そう思って、思い返してみたけど、記憶にシトリン公爵令嬢はほとんどいなかった。

色々質問されたことすら、何を質問されていたのか思い出せない。


最低だと思った。

自分がどれだけ最低な人間なのか思い知らされた。



誕生日パーティー当日。


シトリン公爵令嬢に、エスコートを申し込むことができなかった。

来ないかもしれないと思っていたが、少し遅れてやってきてくれた。


この安堵は、何に対してだろうか。


シトリン公爵令嬢に嫌われていない、と思った安堵?

これで両親から何も言われない、と思った安堵?


分からない……


あれから私なりに、シトリン公爵令嬢を観察してみた。


オニキスの言った通り真面だった。

まだ言葉が強い時もあるが、よく笑うし、よく食べる。

「ありがとう」も「ごめん」も言っていた。


素直になったと思う。

それに、悪口を言わなくなっていた。


自分の不甲斐なさが身に染みる。


ジッと見つめてしまっていたからだろうか、シトリン公爵令嬢と目が合った。

怒ったような顔で、こちらに近づいてくる。


「パーティーが終わった後、少しいいかしら?」


「あ、うん」


それだけ会話をすると、シトリン公爵令嬢は去っていった。


終わったら、何を言われるんだろう。


怒鳴られるかもしれない。

発狂されるかもしれない。

物を投げられるかもしれない。


憂鬱だ。


パーティーが終わり、シトリン公爵令嬢を自室に招いた。

両親がニヤついていたが、何をどう想像したのか分からない。

私は、あの人以外に心も体も反応したことがないというのに。


「この前は悪かったわ」


「え?」


「だから、この前は大嫌いなんて言ってごめんって言ってるの!」


怒られている? でも、ごめん?

意味が分からない。


顔が赤いのは、怒っているから? それとも、恥ずかしくて?

分からない。


「それと、これ。プレゼント」


そう言って渡されたのは、青いくみ紐で結われたお守りだった。


「なによ、その顔。フローが青色が好きだって言ったんでしょ。それに、くみ紐が欲しかったとも。だから、作ってあげたのよ。感謝してよね」


私は……青色が好きだと、くみ紐が欲しかったと、いつ言ったんだろう……


きっとお茶に付き合わされた時に言ったんだろう。

彼女は本当に歩み寄ろうとしてくれていたのに、早く終わって欲しいと思っていた自分が情けない。


それに、どうして私は、怒鳴られるかもしれない。発狂されるかもしれない。物を投げられるかもしれない。なんて思ってしまったんだろう。


彼女は自分が悪くないのに謝ってくれ、そして誕生日プレゼントまで用意してくれていたというのに。


彼女は、相当努力をして変わったのだろう。

まるで別人だ。


私も変わることができるだろうか?

気持ちをあげることはできないが、彼女に歩み寄ってみたいと思った。


「ありがとう。嬉しいよ」


「なんだ、そんな顔もできるのね」


そんな顔とは、どんな顔だろうか。

でも、シトリン公爵令嬢がこぼれるように笑ったからいいとしよう。


「もう1つ、誕生日プレゼントをもらってもいいかな?」


「なに?」


「これからは『シトリン』って呼んでいい?」


ああ、この赤い顔は恥ずかしいからだ。


「い、いいわよ」


「ありがとう」


遅いかもしれないが、これからは私からも歩み寄っていこうと思う。

誰よりも努力をしている、素直なこの子を理解できるように……






それぞれの想いが、この先どうなっていくのかを見守っていただければと思います。


いいねやブックマーク登録、誤字報告、感想ありがとうございます。

読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] フローに好きな人がいるならルチルかと思ってました。初対面で微笑むルチルにぽーっとなってたし(一応オニキスもだけど)。 どこかで見落としたかと過去を見直してみましたが・・・? ともあれ、結婚…
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