46 〜アズラの本音 3 〜
金曜の夜に王宮に帰ると、予想通り手紙がたくさん届いていた。
令嬢たちからのお茶会の誘いに、その親たちからの娘の自慢とルチルを遠回しに貶す言葉が綴られている。
落ち着いたと思ったけど、ルチルがまた眠ってしまったからね。
側妃、側妃って鬱陶しい。
全ての手紙をゴミ箱に放り投げて、執務室の椅子に深く座った。
ため息さえ出てこない。
「殿下。この前お預かりしました、キャワロール男爵令嬢から押し付けられた物ですが」
「うん、何か分かった?」
「回復魔法がかけられているクッキーでした」
「そう……食べ物にも回復魔法ってかけられるんだね。知らなかったよ」
知らないことが多すぎる。
どこで情報を得ればいいのかさえ分からない。
後手に回ってばっかりで、いつかルチルが怪我をするんじゃないかって、不安で時々吐きそうになる。
「ねぇ、チャロ。どうして回復魔法がかけられているって分かったの?」
「囚人に食べさせました」
「そう、分かった」
聞かなければよかった。
ルチルに会えていないと、何かが身体を蝕んでいく。
何も感じないもう1人の自分が、前に出ようと機会を窺っている気がする。
もう1人の自分が、僕は冷徹だと囁いてくる。
僕は、怖いとばかり言っているだけの臆病者だ。
土曜日の夜に、ようやくルチルと会えた。
数日振りなのに、長い間会っていなかった気がする。
ミルクとの話し合いは無事に解決し、ルチルがいない間はミソカから、ルチルがいる時はルチルから魔力を分け与えることになったそうだ。
ミルクが魔力を欲している理由は、人間界に漂っている魔力では睡眠だけだとほとんど回復しないからだとのこと。
魔力が少ないと、成長が遅いらしい。
それでも許可無く吸うのはと、ルチルはまだほんの少し怒っていた。
まだ怒っている理由の1つは、カイヤナ・ピャストア侯爵令嬢とゴシェ・スペンリア伯爵令嬢とのお茶会をすっぽかしてしまったということだった。
眠ってしまった日の夜に、本来ならお茶会をしていたそうだ。
僕は、それを聞いて驚いた。
ピャストア侯爵令嬢は分かる。
国内外でホテル経営をしている力のある家門だ。
でも、スペンリア伯爵令嬢は社交界ではいい噂はなく、領地も荒んでいると聞いている。
後数年で領地返還になるんじゃないかと、囁かれている家門だ。
そして、スペンリア伯爵を僕は嫌いだ。
娘のマラ伯爵令嬢を正妃にと、五月蝿いからだ。
側室を望む者が多いのは、これ以上僕やアヴェートワ公爵家の怒りを買いたくないが、王家との繋がりが欲しいからだ。
鬱陶しいが、彼らなりの落とし所なのだろうと目を瞑っている。
だが、スペンリア伯爵は、マラ伯爵令嬢を正妃にと言ってくる。
女神のように美しい娘だから、1度会ってほしいと懇願してくる。
ふざけている。
女神のように美しいのは、ルチルだけだ。
ルチル以外が女神に見えるなど、あの者の目は腐っている。
どうしてその2人とお茶会をするのかと聞いたら、ゴシェ・スペンリア伯爵令嬢の噂は気にしていなく、会って自分の目で確かめたいと教えてくれた。
ほら、女神じゃないか。
女神が手を差し伸べようとしている。
ゴシェ・スペンリア伯爵令嬢を誘う時に、カイヤナ・ピャストア侯爵令嬢が側にいたので一緒に誘ったということだった。
女友達相手なら、ルチルの交友を制限しようとは思わない。
思うがままに交友を深めてもらえたらと思っている。
その日の眠る前に、この前キスできなかったからと、ルチルから熱烈なキスをもらった。
こういう時情けないが、ルチルに食べられるんじゃないかと怯んでしまう。
いや、決して怯んでいるわけではない!
気持ち良すぎるからボーッとして、主導権がルチルにいってしまうんだ!
この日も僕が泣いて「やめてほしい」と言うまで、やめてくれなかった。
満足した顔をしているルチルも好きだから、泣くようにしているが……
このままでいいのだろうかと考えてしまう。
ある意味では天国で、ある意味では地獄のこの瞬間が、僕の誕生日に僕の世界を揺るがすことになるとは、この時の僕は知る由もなかった。
何が起きるかは、アズラの誕生日をお待ちください。
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