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45 〜アズラの本音 2 〜

2日後、ルチルが目覚めたと連絡があり、学園を休んでアヴェートワ公爵家に訪問した。


早くルチルの元気な顔が見たい。

元気だよね?

目覚めただけとかじゃないよね?


アヴェートワ公爵家に着くと、執事長のブロンが出迎えてくれた。

そして、「今公爵家の皆様は、諸事情によりお出迎えができません」と、懇切丁寧に何回も謝られた。


遠くで爆発音がしているような……


気のせいだよね?

魔物の襲撃ならブロンが僕の対応してないよね?


だったら、この音はなに?


土日の訓練でよく聞く音に一抹の不安を抱えながら、ブロンの案内でルチルの部屋に向かおうとして……


廊下も部屋も壊れていた……


「え? ブロン! 何があったの!? ルチルは? みんなは?」


「王太子殿下、公爵家の者たちが申し訳ございません」


慌てふためく僕とは真逆に、ブロンは落ち着き払っている。


「懐かしいですなぁ。アラゴ様が若い時は、よく屋敷が壊れていたものです」


いや、壊れるのはよくないから。

感慨深そうに言わないでくれ。


大きく響く爆発音と家が壊れていく音は、オーケストラのような迫力がある。

微かに、ルチルの声とミルクの鳴き声も聞こえているような気がする。


まさか……まさかだよね……


「ブロン、今たたか……いや、戯れあっているのは?」


「ルチル様と犬のミルク様です。ミルク様側にミソカ様がついております。旦那様方は止めようとしていらっしゃるのですが、ミソカ様以外には攻撃できないようでして、拮抗状態のままでございます」


ねぇ、ブロン。それは、拮抗とは言わないよ。

ミソカが可哀想……

神獣とペアとは言え、前公爵と公爵のペアから攻撃されたらひとたまりもないよ……


「原因は?」


その時、木片が僕目掛けて飛んできたが、反応した時にはブロンが木片を防いでいた。

驚いていると、ブロンが優しく微笑みかけてきた。


「朝目覚めましたルチル様がミルク様と戯れられた後、突然攻撃されたと聞いております。そして、その場に居た方々を巻き込まれたそうです。奥様方は領地の方に避難されております」


うん、これは玄関ホールで聞いた諸事情になるね。


ルチルが、突然ミルクを攻撃ねぇ。

ルチルが攻撃魔法を放つなんて、何を話したんだろう?

何かを話して、ミルクが悪いとなったんだろう。


もしかして、神獣とは嘘だった?

でも、大きな狼が死んだ時の光景は神々しく神秘的だった。

神の遣いと言われて納得した。


ルチルのことも、ルチルの周りの事も、聞かなきゃ分からないことが多すぎる。


「これは、終わるまで待つ方がいいのかな?」


「左様ですね。お茶の用意を致します」


「ありがとう」


一先ず、ルチルが攻撃魔法を使えるくらい元気なことは分かった。

それに、前公爵と公爵がルチル側についているのなら、まずルチルは怪我をしない。

落ち着くまで待とう。


音が止むまで、静かにお茶を飲んで待っていた。


ん? 静かになったかな。


立ち上がり、ルチルの部屋があった場所に向かおうとした時、ドアが開いてルチルが駆け込んできた。

そのままの勢いで抱きつかれる。


「アズラ様! 心配をおかけして申し訳ございません!」


元気なようで安心した。

元気なんだろうと分かっていても、実際見るまでは少し不安だったからね。


「ううん。ルチルが目覚めてよかったよ」


強く抱きしめ返し、ルチルの温もりを感じる。


ああ、ルチルだ。

柔らかくて温かくていい匂いがする。


もっと強く抱きしめたいけど、これ以上はルチルが折れそうで怖い。

本当は、もっともっと近づきたい。


「ブロンから、ミルクと喧嘩をしたって聞いたけど怪我してない?」


「そうなんですよ! あの犬、酷いんですよ!」


「何があったの?」


「私の魔力を吸ってたんです!」


魔力を吸ってた?

分け与えることは、僕らにもできる。

けど、吸い取ることもできるのか……

それを、ミルクはルチルに内緒でしていたと。


もしかして……


「まさか、今回眠った原因は……」


「私が5日もいないからって纏めて吸ったそうなんです! 私が動けるくらいには残したって言うんですよ! 私の許可無く、勝手に吸っておいて、堂々と言うんですよ! 酷過ぎます!!」


それは……前公爵も公爵もルチル側になるはずだ。


ルチルがまた眠ってしまって、僕は心臓が止まるほどビックリして、針の筵に立たされているぐらい全身が苦しみで痛かった。

あの2人も、同じ想いをしただろう。


「それで、今ミルクは?」


「魔力を使いすぎて眠りました。一時休戦です」


怒っているルチルの髪の毛を梳くように撫でると、猫が戯れついてくるみたいに頭を撫でてほしいと、ルチルから擦り寄ってきた。

可愛くて嬉しくて、心というものが喜んでいると分かる。


「お姉様のバカ!!」


泣きながら部屋に入ってきたのは、ルチルの弟のミソカだった。

シスコンの彼が、姉にこんなことを言うとは……明日、槍が降るのかもしれない。


「私は悪くないわよ。ミルクが悪いのよ」


「戻るんだから魔力くらいあげればいいじゃない!」


彼には全部話していると、アヴェートワ公爵から聞いている。

「後継者だから、今からしっかりしてもらうため」だと言っていた。

実際に、もう商会のアレコレを教えはじめているらしい。


「あげるのを怒っているんじゃないの。内緒で、私が数日も眠ってしまうまで吸ったことを怒っているの」


「そ、それは……」


「それに、私以外の魔力でもよかったのよ。ただ、私の魔力が美味しかったからっていう理由だけよ」


「それでも、あんなに攻撃しなくてもいいじゃない! ミルクが寝ちゃったら、僕1人で遊ばないといけなくなるんだよ!」


「友達作りなさい」


「うっ……お姉様のバカー!」


泣きながら、ミソカは部屋から出て行った。

ルチルは、呆れたように息を吐き出している。


「よかったの?」


「嘘泣きですから。私、相当怒っていますので」


「でも、許してあげたら?」


彼の1人ぼっちは寂しいという気持ちは、とても分かる。

夏休みのほとんどの日々を、彼に取られたのだから。


でも、僕はその気持ちを、先に春休みで彼に与えてしまっていたから致しかたない。

ルチルは1人しかいない。

だからこそ、かけがえのない存在なんだ。


「ミルクが謝って、今後は少ししか吸わないと言うのなら許します」


「ルチルが、そこまで怒るなんて珍しいね」


「怒りますよ。また眠ってしまったことで、アズラ様を心配させてしまったんですから」


僕のためだったのか。


「泣かないでください」


「っ……泣いてないよ」


幸せでも涙が出るって教えてくれたのも、ルチルだ。


ルチルに、壊れ物に触るように涙を拭われる。

涙を拭ってくれる手を掴んで、手にキスを落とした。

真っ赤になるルチルが可愛くて愛しくて、ルチルの顔に顔を近づけた。


「殿下」


はい……ごめんなさい……すみません……

キスしないから殺さないで……


ゆっくりとルチルから離れて、繋いでいない方の手で涙を拭き取った。


「アヴェートワ前公爵、突然の来訪すまなかった。どうしてもルチルの顔が見たくて」


「いえ、殿下でしたら、連絡すればすぐに来られると思っていました。出迎えできず、こちらこそ申し訳ございません」


顔が怖いよ……


「今回眠ってしまった理由は、ルチルから聞いたよ」


「そうですか。ほんっと人騒がせな犬っころですよ」


気づいてはいたけど、アヴェートワ公爵家の面々は神獣に対して辛辣だね。

まぁ、僕と同じでルチル中心だから、よんどころがないんだろうけどね。


ミソカは神獣側とみせつつも、神獣が眠ったら遊び相手がいなくなるっていう自分のことだったからね。

敬っているわけじゃないよね。


「ミルクが起きたら、魔力の吸引について話し合わないとね。でも、どうしてミルクは魔力を吸引するんだろうね。今眠っているってことは、僕たちと同じで眠れば魔力が戻るってことだろうし」


「そうですね。そこは聞くのを忘れていました。起きたら聞いてみます」


ミルクは夕方になっても起きなかったので、話し合いの場に同席はできなかった。

教えてもらった内容は共有してくれるとのこと。


ルチルと離れるのは嫌だったけど、ルチルはこのまま学園を休んで週明けに復帰するとのことで、僕は1人寂しく学園に戻った。






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