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ケーキを食べ終わり、陛下が口を開いた。
「分かったことは、神殿と光の魔法の使い手は手を組んでいるということだな」
「そのようですね。そして、光の魔法の使い手は、魔力を逆に流すことで殺せるということを知っているようですね」
「ルチル、殿下。決して触られたりしないように」
「はい」
いつも通り、顎に人差し指を当てて宙を見つめているリバーが、徐に言葉を発した。
「しかし、なぜ神獣を殺す必要があるんでしょうか? 仲良くなって力を貸してもらう方がいいように思うのですが」
「神獣がいると初めて知ったとこだからな。さっぱりだ」
『我の心臓を食べれば神聖力を得られる。そんな理由だろう』
ルチルが、ミルクの言葉をみんなに伝える。
「神聖力? 魔力とは違うの?」
『同じようなものだ。ただ人間がいうところの魔法を全種類使うことができるだけだ』
「全種類……ミルクも使えるの?」
『当たり前だ。我は唯一無二の神獣だぞ』
またルチルが説明し、全員が感心している中で、誰もが疑問に思ったことをリバーが口にする。
「全種類使えるようになって、何がしたいのでしょう」
『想像はつくが……まぁ、ルチルが気をつければよい』
「私? 理由は?」
『聞かぬ方がいいだろう』
「聞かないと気になるから」
『先程、精霊の話をしただろう。人間の瞳の色は、どの精霊がその者を強く愛しているかによって違う。お主は火の精霊と……神様に愛されている。自分でも分かっているだろう? 命の有り難さを』
ルチルは、息を飲み込んだ。
『神に愛された者の瞳は金色になる。だから、我と同じ色なのだ』
「待って。だとしたら、魔物はどうなるの? 金色の瞳だよね?」
『魔物の瞳は金色ではない。黄色だ。そして、邪竜は金色の瞳に固執している。お主を欲しているだろう』
「それと、全種類魔法が使えるということに、どんな接点があるの?」
『なんだ、何も知らぬのだな。邪竜の封印は、全魔法でかけてある。封印は全部で9つ。莫大な魔力が必要だが、それぞれの属性が使える者とラピス・トゥルールの血があれば解ける』
「アズラ様が狙われているのは、そのせい?」
突然自分の名前が出てきたアズラ王太子殿下は、目を見開いている。
『もう狙われているのか。そうだろうな、ラピス・トゥルールとそっくりだからな』
「分かったわ。じゃあ、私は邪竜への捧げ物なのね」
『そうだ』
ルチルが、目を閉じて背もたれに体を預けた。
さて、どう説明しよう……いや、どこを隠すべきか……
ううん、どこも隠せない……
というか、エロエロ小説ー!
どうしてこうなった!?
ああ、あたしを神様が愛してくれて転生したからか。
あたしのせいか。
ルチルは気合いを入れ、目を開け、姿勢を正した。
全員、真剣な表情でルチルを見ている。
ミルクは、あくびをして眠ってしまった。
ルチルは、転生のことだけは隠して、全て正直に話した。
「ルチル様、神様に愛されていたのですか! 本当に神子様ですね!」
「やめてよ、リバー。神子様になりたくないわ」
「ルチルもリバーも、今の問題はそこじゃない。神殿が、邪竜を復活させようとしていることだ」
祖父に頭を叩かれたリバーは、シクシク泣き出した。
見慣れた光景に、誰も何も言わない。
「頭が痛い……あいつらは世界を壊す気か……」
「壊すというより君臨したいのでしょう」
「邪竜が捧げ物をしたところで言うことを聞くと思っているのか……めでたい頭だな」
「どうにか神殿の首根っこを掴みたいですね」
「そうだな。邪竜を復活させようとしていたことが明るみになれば、神殿を潰せるしな」
「一筋縄ではいきそうにありませんね。向こうには、魔法陣や魔法に詳しい者がいるみたいですから」
「一体どこでその知識を培ったのか」
「リバー。お前のように、魔法陣や魔法に詳しい人物に心当たりはないか?」
リバーが、顎に手を当てて宙を見つめる。
「1人だけ心当たりが……ですが、彼はもう死んでいるはずなんです」
「誰だ?」
「ルセドニー・リュリュシュ。私の双子の弟です」
「あの事故で死んでしまった子か」
「はい。私に魔法陣や魔法の楽しさを教えてくれたのも彼です」
ああ、リバーの背景も分からない。
オニキス様と同じで、リバーも本には出てこない。
だから、リバーの弟が、どのような事故で死んだか分からない。
「彼が、もしも生きているのなら……」
「リバー、あの時、お前は遺体を確認したんだろう。生きていてほしいと思う気持ちは分かるが、可能性はゼロに近い」
「分かっています」
祖父が、柔らかくリバーの肩を叩いた。
「神殿と神殿と仲良くしている者たちを探り、ルチルと殿下は周りに警戒をしてもらいましょう。光の魔法の使い手キャワロール男爵令嬢が神殿と手を組んでいるなら、学生の中にまだ手を組んでいる者が紛れているかもしれません」
1つ引っかかる……
「神殿は、魔物を操れるんでしょうか?」
全員、邪竜の復活に神経が集中していて、頭から抜け落ちていたようだ。
「こうなると可能性が高いですね」
「そう思って、これからは行動しよう。違うと思って、そうだった時に対処できないのは困るからな」
神殿は魔物を操れるとしても、本ではどうして操っていたんだろう?
本で邪竜の復活なんてなかった。
裏設定だったのかな?
神殿が出てくる場面も、ほとんどなかったのに……
何かを見落としていそうで怖い……
秋期が始まる前日、学園に戻る前に「ミルクを学園に連れて行きたい」とお願いしてみたが、「寮の部屋に1匹でいる時間が長いのは危ない」ということで許してもらえなかった。
弟がミルクをとても気に入り、四六時中弟とミルクは一緒にいて、なぜか寝る時だけミルクはルチルと眠るのだ。
ミルクのご飯はスイーツで、必ず誰かが1口食べないと食べてくれない。
食事に関しては、そのうち1匹で食べてくれるようになることを祈るしかなかった。
明日から舞台は学園に戻ります。
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