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両陛下と挨拶している間に、父はリバーを連れてきた。
早すぎて怖い……
リバーは、文句を言いながらドアに防音の魔法陣を貼っている。
ミルクは、その魔法陣を不思議そうに見ていた。
全員が席に落ち着いたところで、祖父が代表して今回の事件の内容を話してくれた。
両陛下は何も言わず頷いていて、リバーは瞳を輝かせてミルクを見ている。
「神殿が何かを企んでいるか。はぁ、もう潰してしまおうか」
陛下が珍しく過激なことを言ってる。
でも、あたしも賛成!
動物虐待する人たちなんて潰してしまっていい。
「ダメですよ。まだ神殿支持派の民は多いんですから」
「分かっている。言ってみただけだ」
陛下が、気を取り直すように天を仰いでから、ルチルを見てきた。
「ルチル、話せるんだね?」
「はい」
「そうか。話した内容を教えてほしい」
「はい。ですが、その前に……」
ルチルの膝の上で座っているミルクの頭を撫でる。
「ミルク、瞳の色を元に戻してくれる?」
ミルクが頷いた後、目を閉じて開いた。
元の金色の瞳に戻っている。
「素晴らしい! 素晴らしいです! 金色の魔法は、やはり特別なのですね」
『金色の魔法?』
ルチルは、ミルクに魔法の話をした。
人間の瞳の色のこと、神殿での洗礼、使える魔法のことを。
『なんてしょうもない。魔力なんて誰にでもある。生まれた時に祝福を受ければ魔法が使えるようになるだけだ』
「祝福?」
『そうだ。人間には精霊の姿が見えんのか?』
「精霊? 精霊がいるの?」
『いるに決まっているだろう。誰のおかげで魔法が使えていると思う? 精霊の力なくては魔法など使えん』
なんと! これぞファンタジーの極み、精霊。
「精霊王とかいるの?」
『いるぞ。ルチルの父とアズラは、精霊王の祝福を受けているぞ』
お父様とアズラ様が!?
もしかして、炎や氷は精霊王の祝福を受けたから使えるのでは?
ん? あたしも金色が渦巻いたんだよね。
「私は? 精霊王からの祝福はないの?」
『ルチルは……まぁ、気にするな。そんなこともある』
なーにー!?
憐れむような目で見られたんですけど!
「ルチル、一体何の話をしているんだ」
「あ、すみません。今からミルクと話したことをお話します」
ルチルは、じいやと話したこと、ミルクと話したことを説明した。
ただ何となく、ミルクが言った「人間は攻撃できない」という部分は伏せた。
話が終わっても、当分の間誰も口を開かなかった。
各々考えを纏めているようだ。
沈黙を破ったのは、ミルクのお腹の音だった。
恥ずかしそうに震えるミルクに、ルチルが笑い出すと、堰を切ったようにみんな笑い声を上げた。
『笑うでない』
「ごめんごめん。昨日から何も食べていないもんね。何か食べたい物はある?」
『人間の食べ物は要らぬ』
「そう言わずに。何か用意してもらおう。何がいいかな?」
「ルチル、僕はチョコレートケーキが食べたいな。ミルクも食べられるか聞いてみて」
『チョコレートケーキとは、なんだ?』
「甘くて美味しくて癒される食べ物なんだけど、動物には与えたらダメって言われているの。ミルクは食べられない物ってあるの?」
『あらぬ。我を動物と一緒にするな』
ミルクの言葉と被るように、アズラ王太子殿下が「チョコレートってダメなの?」と落ち込んでしまった。
動物を飼ったこともなければ、チョコレートだって数年前にできたばかりなのだから、知らなくて当然だ。
すかさず「ミルクは何でも食べられるそうです」とフォローしている。
「そっか、よかった」と微笑んだアズラ王太子殿下の顔は、拝みたくなるくらい萌える顔だった。
ミルクが少し興味を示してくれたので、チョコレートケーキを用意してもらうことにした。
悩んでいた頭には丁度いい糖分だったようで、それぞれ食べはじめたみんなは肩の力を抜いている。
『この甘い匂いは、なんだ?』
「チョコレートケーキの匂いよ」
フォークに掬ってミルクの口元に持っていくが、口を開けようとしない。
「ミルク、僕が少し食べてしまったけど、これ食べていいよ。大丈夫。何も入ってないよ。その証拠に僕は元気でしょ」
アズラ様、尊い。
ミルクが薬を盛られることを心配しているからって、自ら毒見をしたのか。
なんて気の利いた子なんでしょう。
というか、日頃から毒を盛られる恐怖が分かるからなんだろうけど……
王子様だから仕方がないとはいえ辛いよね。
今度、抱きしめてあげよう。
「アズラ様、それでしたら、この1口を私が食べればいいのですわ」
ミルクに見えるように、大きな口を開けて食べた。
「ほら、ミルク。何ともないわよ」
『……食べよう』
1口食べたミルクは、よほど美味しかったのか顔を蕩けさせた。
次の1口を早くと急かしてくる。
「気に入ったみたいでよかった」
アズラ王太子殿下の優しい声に、ルチルの胸がしめつけられた。
現実では動物に人間の食べ物を与えると、健康を損ったり、最悪死にいたることもあります。絶対におやめください。特にチョコレートは毒になります。
(念のための記載ですので、今後ミルクがスイーツを食べるシーンは度々登場しますが、注意事項はあらすじとここだけにいたします)




