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王都に戻るためには、行き同様神殿の魔法陣を使用する。
馬車から降りると、神官たちの視線が突き刺さってきた。
ミルクは、ルチルが抱えている。
「アヴェートワ公爵。一昨日来られた時に動物は一緒でしたか?」
「この犬は、殿下からルチルに贈られたプレゼントだ。殿下が密かに用意していた。それが何か?」
拾ったとも言わないなんて、さすがお父様。
「いえ、とても可愛いので気になっただけです。殿下はどちらで購入をされたのですか?」
「なぜ、そんなことを答えなければならない?」
アズラ王太子殿下が素っ気なく答えるが、神官は言えないのか? という表情で見てくる。
「はぁ。ルチルにバレたくなかったが、この犬は1週間前に王宮にきた砂漠の商人から買った。寒さには少し弱いが、暑さには強いそうだ。それに、病気もしにくいと言っていた」
「どうやって、この地に?」
「どうしてそんなに聞いてくる?」
「いえ、少し気になっただけです」
「まぁいい。答えてやる。ルチルには見つからないように、可哀想だが鞄に入れてきた。来る時も持っていただろう。あの大きな鞄だ」
チャロが持っている大きな鞄を指した。
この中には、アズラ王太子殿下の枕が入っている。
枕が変わると眠れないそうだ。
空間魔法陣がある鞄に入れていないのは、ぺったんこにならないと分かっていても、ぺったんこになりそうで嫌だからという理由らしい。
「満足か?」
「はい。お答えいただきありがとうございます」
頭を下げる神官を無視して、転移陣に向かって歩き出した。
神官の視線はルチルを追っているが、ルチルの両脇には祖父と父がいる。
近づくことさえできない。
「アヴェートワ公爵令嬢、私たちもあなたにプレゼントを贈りたいのですが、よろしいでしょうか?」
「いいえ、結構ですわ。私は色んな方々からプレゼントをいただきますし、何不自由なく暮らしています。神殿でプレゼントを買えるお金がおありでしたら、全て孤児院にお使いください」
「神子様は心お優しい。祝福をお祈りさせていただきたい」
しつこいなぁ。
勝手に祈ってればいいじゃない。
「神官」
アズラ王太子殿下の地を這うような声に、アズラ王太子殿下には舐めてかかっていた神官の顔が青ざめた。
「陛下が言っていたであろう。ルチルは神子ではないと。まさか、陛下の言葉はここまで届いていないと言うのか? 王家所有の領地に?」
「い、いえ、そのようなことは……」
「気分が悪い。見送りはここまででいい。下がっていろ」
強気のアズラ様も素敵。
男っぷりが上がってきているのに、2人きりだと真っ赤になるから、ギャップが堪らないのなんのって。
次、王宮に泊まる時は「うふふ、きゃはは」をしよう。
背中を丸めた神官は、その場に立ち止まり、転移陣までついてこなかった。
転移陣で王都の神殿に着くと、そこの神官たちにも同じように質問された。
うんざりしながらアズラ王太子殿下が、「ヴァルアンデュ領の神官にすでに答えている。そちらから聞いてくれ」と突き放した。
王家の馬車に乗り、盛大なため息をルチル以外が吐いた。
「あいつらは馬鹿なのか」
「自分たちが関わっていると、バラしているのと同じでしたね。さて、この犬にどんな秘密があるのやら」
そうか。まだ誰も、神獣なんて知らないものね。
みんなの前でじいやと話したから、みんなも知っているものと思ってた。
てへ。
「殿下の嘘、さすがでしたよ」
「そんな褒められ方、嬉しくないよ」
「失礼しました。ですが、砂漠の商人から犬を買ったと言ってよかったのですか? 調べられたら、嘘だと反論してくるかもしれませんよ」
「実際1週間前に砂漠の商人から犬を買っているからね。本当のことだから問題ないよ」
「では、王宮にも犬がいるんですね?」
楽しみー! その子とも早く遊びたい!
「ううん、いないよ。犬は一昨々日オニキスが引き取りに来たからね」
「オニキス様にプレゼントされたのですね」
「支払いもオニキスだよ。うさぎみたいな犬をプレゼントしたいって相談されてね。丁度、砂漠にいる犬種がうさぎに似ていたんだ。それで、今回取り寄せたんだよ」
うさぎ……
オニキス様のプライベートに繋がる言葉だわ……
「取り寄せた犬も白い毛の犬だから、商人が色々答えても問題ないよ」
「タイミングが良かったのですね」
「そうだね」
王宮に着くと、「両陛下がお待ちです」と応接室に案内された。
父だけは「リバーを連れてくる」と、転移陣の方に行ってしまった。
ミルクは、ルチルの足元を飛び跳ねるようについてきて、その可愛さでみんなを癒してくれた。
明日の投稿でミルクが色々教えてくれます。お楽しみに。
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