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6月26日に、祖父と父と護衛騎士3名をつれて、ルチルは王宮に向かった。
いつも通り転移陣前には、アズラ王太子殿下が待ってくれていた。
陛下と王妃殿下に挨拶をしてから、王都の神殿に行き、ヴァルアンデュ領に移動をする。
「とても綺麗なところですね」
「明日行く泉はもっと綺麗だよ。楽しみにしてて」
聖地巡礼みたいで楽しい。
ただなんか……なんとなくだけど……
神官たちの様子がおかしかった気がする。
「アズラ様、1人にならないでくださいね」
「それは、僕のセリフだよ。ルチルこそ1人にならないでね」
明日に備えてゆっくりしようという話だったのに、王家の別荘に着くなり、祖父と父がアズラ王太子殿下に稽古をつけ始めた。
夕食まで、それはもうみっちりと……
夜になり、ルチルはコソッとアズラ王太子殿下の部屋を訪れた。
ドアを開けてくれたチャロに「2人きりにしてほしい」とお願いすると、ルチルと交代するように部屋から出て行ってくれた。
「ルチル? どうしたの?」
驚いたようにソファから立ち上がったアズラ王太子殿下目掛けて走ったルチルは、そのまま抱きついた。
アズラ王太子殿下は、ルチルと共にソファに倒れ込む。
あー! アズラ様の感触! アズラ様の匂い!
夏休み中会えなくても大丈夫だと思っていたけど、こんなにも恋しくなるなんて。
学園で毎日のように会っていたからだわ。
3週間近くは長かった。
アズラ王太子殿下からも、強く抱きしめ返される。
「ルチル……寂しかった……」
「はい、私もです」
ルチルがアズラ王太子殿下の部屋にいるだろうと気づいた父が呼びに来るまで、2人は抱きしめ合ったままお互いの温もりを感じていた。
事件が起きる6月27日。
昼食後、泉がある森に向かった。
「ルチル、森に着いたよ。リスやウサギがたくさんいて、珍しい鳥も飛んでいるんだよ」
アズラ王太子殿下の説明に、興味津々で窓の外に視線を移した。
「あれ?」
「どうした?」
「窓の外の景色が、全て歪んで見えます」
同乗している祖父、父、アズラ王太子殿下が止まった。
「今もずっとか?」
「はい。あ! ですが、動物は歪んで見えません」
祖父が、組んだ腕を指でトントンと叩いている。
「この森は、魔力で覆われているということか」
「もしくは、魔力を発生させているという可能性もあります」
「しかし、父上が調べさせたところ、この森で魔物が出た記録はなかったって言ってたよ」
「魔力の発生源で、魔物は生まれるんですよね」
「確かそうだったはずだ」
なんかさ、森に入ってから体が元気なんだけど……3人は違うのかな?
泉に着き、馬車から降りた4人は目を見張った。
泉の前に、象ほどの大きさで真っ白な毛の狼がいる。
金色の瞳は輝いて見え、唸っている歯は鋭く、額に立派な角が生えている。
「ルチル、下がりなさい」
祖父に目の前に立たれて、ルチルは横から覗き込むように狼を見やった。
たくさん怪我してる。
だから、ちゃんと立てないんだ。
もう死にそうにも見えるよ。
ルチルには、大きな狼が凶暴にも怖い獣にも感じなかった。
虐待された動物のように痛々しく見えて仕方がない。
『立ち去れ!』
「え? 今話しました?」
周りを見渡しても、みんな目の前の狼を睨んでいる。
今にも噛みついてきそうな狼は、倒れそうなのに踏ん張っていて、見ているだけで胸が苦しくなる。
「父さん、魔物ですか?」
「いや、どうだろうな。魔物なら見たことも聞いたこともない種類だ」
『あんな奴らと一緒にするでない!』
狼の大声に風が吹き荒れ、木々もルチルたちも揺れる。
ルチルは、祖父が咄嗟に抱きしめてくれたので飛ばされずに済んだ。
父は、アズラ王太子殿下の腕を掴んでいたようだ。
「お祖父様、やっぱりあの子話しています」
「ルチル、今なんと……」
「ですから、あの子話しています。『あんな奴らと一緒にするな』って言ってましたよ」
狼が、力尽きたように横に倒れ、砂埃を上げた。
『忌々しい……神殿に負けるとは……』
今、何て言った? 神殿に負けた?




