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本日のお茶会開催場所は、今の時期暑くも寒くもないので裏庭にした。
家の壁には、リバーに花を貼り付ける魔法陣を編み出してもらい、色彩豊かな花を飾り付けている。
その前に、全員が1つの机に着けるように長机を用意した。
机の上にはプルメリア、周りにはハイビスカスを飾っている。
裏庭を会場にした理由は、少し閉鎖的な方が本音を話してくれるかもという考えからだった。
周りに誰もいないと分かっていても、開放的な所では秘密の話やちょっとした不満等は言いにくいものである。
逆に個室や薄暗い所では、なぜか「内緒なんだけどね」と小声で話しやすくなるものだ。
ただ裏庭といっても、薄暗いわけでもなく狭いわけでもない。
桜の木や温室や池があるところに比べたら日差しが弱いというだけだ。
ルチルとピャストア侯爵令嬢が会場に着き、ピャストア侯爵令嬢が壁の花々を見て感嘆の息を漏らした。
これは他の令嬢たちも同じで、みんな壁の花に見惚れていて、何を話せばいいのか分からない令嬢たちへの話題提供にもなっていた。
「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。
私がお話をしてみたいと思っていた方々に、声をかけさせていただきました。私だけが楽しむのではなく、皆様にとっても楽しいお茶会になりますよう努めさせていただきます」
胸に手を当て小さく頭を下げると、拍手をしてもらった。
ルチルが視線だけで侍女に合図を送ると、侍女たちは動き出し、机に昼食の用意を始める。
今日はこの後にスイーツもあるので、小さなカップの冷製スープにワンプレートのロコモコにしてもらった。
令嬢たちが、唖然と料理を見ている。
普段、こういう集まりの食事はコースだろう。
学園の食堂もトレーに小皿を選んで乗せるが、小皿のメニューはコース内容とほぼ同じだ。
ワンプレートの食事など見たことがないのだろう。
そして、ロコモコはご飯の上に野菜とハンバーグと目玉焼きが乗っているのだ。
より衝撃だったに違いない。
「今日は街へのデートがテーマですから、服を汚す心配がない食べやすい料理にしましたの」
「私、このような料理は初めてです……平民の方々は、このように纏めて食べられるのですか?」
「いいえ。平民の方々もこのようには食べられないと思います。この食べ方は、とある島国の伝統料理の1つですの」
ハワイとは言わないよ。
この世界には無いからね。
「知っている食べ物ばかりですのに、文化が違うと食べ方も違うとは魅力的で楽しいですよね」
本当はレイも用意して、擬似ハワイ体験したかったんだけどね。
花の首飾りを嫌がる人がいるかもってやめたの。
戸惑う令嬢たちよりも先に、ルチルが1口食べた。
うん! 美味しい!
ロコモコって、なんでこんなに美味しいんだろうねぇ。
見ていたアンバー公爵令嬢が、意を決したように口に運んでいる。
「美味しいです……いつもより美味しく感じるのはなぜでしょう……」
この声に、みんな恐る恐る食べはじめた。
こんな風に食べてもいいのだろうか? という不安は、伝統料理という言葉が薄めてくれている。
それに、令嬢たちもしっかりしているとはいえ、まだ子供。
いや、新しい物にワクワクするのは、大人でも変わらないだろう。
当たり障りのない文化祭という共通の話をして、場を和ませる。
これからある学園祭やダンスパーティーの話は2・3年生が色々教えてくれ、穏やかに時間が過ぎていく。
昼食を食べ終わり、出てきたスイーツはふわふっわのパンケーキ。
生クリームが苦手と言っていたアンバー公爵令嬢の事もあり、生クリーム・カスタード・バター・ハチミツ・バニラアイス・ジャムは別のお皿で用意した。
「これ……口の中で無くなります……」
「何枚でも食べられそうです」
そうだろ、そうだろ。
ホットケーキも好きだけど、パンケーキのこのふわふわにはあがらえない重力があるよね。
はぁ、ハワイ最高だわ。
ここで話は、デート服のコーディネートについてになった。
「ルチル様は青いワンピースですが、殿下の瞳を意識されているのですか?」
「はい。普段からもアズラ様の瞳や髪を意識して、青色と白色の物が多いですね」
「本当に仲が良くて素敵ですわ」
「ありがとうございます」
「では、今日のテーマは、いずれ街にデートに行かれる参考にということでしょうか?」
「はい。皆様のお話をおうかがいして、アズラ様にもっと『可愛い』と言ってもらえるように頑張りたいと思っておりますわ」
「素敵ですわ。私も皆様の拘りやお洒落の仕方には、とても興味がありましたの」
誰よりも話に乗ってきたのは、2年F組ガーネ・アンゲノン侯爵令嬢。
赤紫色の髪に赤紅色の瞳。とても活発そうな女の子。
本日は、誰よりも髪の毛やアクセサリーに気合いが入っている。
お洒落大好きなところも、シトリン様と対立してしまうところなのかな?
話が合うはずだから、情報交換すれば仲良くなれるだろうに。




