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6月に入ると文化祭と夏期テストがある。


文化祭初日。


今日は在学生のみの公開で、ルチルとアズラ王太子殿下、シトリン公爵令嬢、オニキス伯爵令息の販売担当は午後から。

午前中は、一緒に文化祭を見て回ることになっている。


「ルチル、何処か行きたいところある?」


「そうですねぇ」


「はい! 俺はこの日のためにアヴェートワ商会が用意したスイーツが食べたいです!」


「昨日先にもらったじゃない」


「美味しかったから、もっと食べたいんですよ。殿下もそうでしょう?」


「えっと……うん、そうだね」


いつもスイーツに飛びつくはずのアズラ王太子殿下の歯切れが悪いので、オニキス伯爵令息は怪訝な顔をしている。


「もしや殿下……ルチル嬢にたくさんもらいましたね?」


「いや、まぁ」


「ズルい! 俺もたくさん欲しい!」


「オニキス様、アズラ様は婚約者ですので」


「俺だってスイーツを愛する仲間でしょう」


瞳を潤ませながら、両手を広げて抱きつかれそうになった。

アズラ王太子殿下が、オニキス伯爵令息の腕を叩いて阻止してくれなければ抱きつかれていただろう。


「オニキス! 何度も言うけど、ルチルに気安くしすぎだから!」


「減るもんじゃないですし、いいじゃないですか」


「よくない!」


「まぁまぁ、落ち着いてください」


ルチルは、怒るアズラ王太子殿下の腕に手を添えた。


「アズラ様、守ってくださりありがとうございます。オニキス様、お菓子は夏休み明けに持ってきますわ」


「さすがルチル嬢。ありがとうございます。じゃあ、フローとジャスの所から行きますか」


「結局食べ物じゃない」


フロー公爵令息とジャス公爵令息がいるB組は、おにぎりを販売している。

パンとで揉めていたが、おにぎりの方がアレンジも簡単だとルチルが2人に色々教え、最終的におにぎりで落ち着いたのだ。


おにぎりの販売は、B組の教室ではなく校庭で屋台販売をしている。

おにぎりだけではなく、食べ物の販売はカフェでない限り校庭での屋台販売になるのだ。


ルチルたち4人は、校庭で出店しているB組の屋台にやってきた。

今の時間は、フロー公爵令息とジャス公爵令息と他2名の女の子が売り子をしている。

おにぎりは別の場所で作って、屋台まで運んでいる。


「殿下、来てくれたのですね」


「うん。おにぎり人気みたいだね」


ルチルたちが着いた時には数組並んでいて、今も後ろに数組並んでいる。

ルチルたちの対応はフロー公爵令息がしてくれるようで、横ではジャス公爵令息がいつもの無表情で接客している。


「はい。提案してくれたルチル嬢のおかげです」


「皆様が頑張って用意されたからですよ」


フロー公爵令息が、嬉しそうに微笑んだ。


B組の誰もがお米を炊いたことがなく、炊き立てのお米を熱くて触れない等、話を聞くだけだったが練習はとても大変そうだった。

熱くて握れないのなら、巻き寿司みたいに巻いて、切って販売すればどうか? と提案したのはルチルだった。


酢飯ではないので、巻きおにぎりだ。

海苔で巻いているので、手で掴んで食べられる。

まぁ、貴族の令息令嬢は手掴みでは食べないけれど。


「何味にされますか?」


「僕はトロ鯖にしようかな」


トロ鯖美味しいけど、麗しい堕天使様がトロ鯖のおにぎりって……

そもそも堕天使様におにぎりは似合わなかったわ……


「ルチル嬢は何味がよろしいですか?」


「私はまだお腹が空いていませんので遠慮します。すみません」


「私もいらないわ」


「俺は、いくらと豚の角煮」


「分かりました」


フロー公爵令息が、注文の品を手早くバスケットに入れてくれる。


おにぎりの具は、朝早くに各家の使用人が運び込んでいる。

ルチルには思いつかなかった方法だが、毎年この抜け道を使用するクラスが大半だそうだ。

ある程度は自分たちでするという前提の元、学園は目を瞑っているらしい。


「お待たせいたしました」


「ありがとう」


「こちらこそ来ていただいてありがとうございました」


お金と商品を交換する。

お金はアズラ王太子殿下が払い、荷物はオニキス伯爵令息が持っている。


他に何の屋台があるのか軽く回って、屋台でお茶を購入し、屋台横に作られている飲食スペースで休憩をした。


「なにこれ……美味しくない……」


シトリン公爵令嬢が口にしたのは、屋台で買った緑茶だった。

ルチルも同じものを買っていて、1口飲んだ後顔の真ん中目掛けて皺を寄せた。


「抽出しすぎですね」


「別の飲み物買ってこようか?」


「ありがとうございます。ですが、大丈夫ですわ。後でカフェテリアのお茶を飲みます」


アズラ王太子殿下とオニキス伯爵令息が食べ終わるのを待ち、3年生が催ししている宝さがしに参加することにした。

ルールは、制限時間内に学園に隠されている魔石を見つけて持って帰ってくるという、至ってシンプルなもの。

もちろん景品付きで、見つけた魔石の大きさで内容が変わってくる。

1番大きな魔石の賞品は、小さなダイヤのイヤリングだった。


ダイヤのイヤリングに興味はないが、誰が1番大きな魔石を見つけられるか勝負をすることになった。

1番大きな魔石を見つけた人が、1番魔石が小さかった人にお願い事ができるという罰ゲーム付きだ。


参加料を払い、あてもなく学園内を歩き出す。

4人で勝負しているが、バラバラに行動はしない。

4人一緒に行動し、先に魔石に気づいた人がその魔石の獲得者になる。


うーん……朝から不思議に思っていた歪み……

疲れ目で視界が悪いのかと思っていたけど、これあたし魔石見えているわ……


今日の朝、登校時から、瞳に映る景色の所々が歪んでいた。

くみ紐やコースター等の作り過ぎで目が疲れているんだろうと、特に気にしていなかったのだ。


ちゃんと考えれば、魔石は魔力の塊。

でも、初めて魔物を見た時、魔物が歪んで見えるとかはなかったんだけどな。

魔物の中に魔石があるんじゃなくて、魔物が死んだら魔石になるのかな?


4人の中で1番目に魔石に気づいたのは、オニキス伯爵令息だった。

木の枝に括り付けられていた。


2番目に見つけたのはシトリン公爵令嬢で、花壇の中に隠されていた。

先に見つけていたオニキス伯爵令息よりも大きかったので、既にオニキス伯爵令息を見下していた。


3番目に見つけたのはアズラ王太子殿下。

カフェテラスの看板の後ろに付いていることに気づいた。

3人の中で1番小さく、意気消沈していた。


休憩がてらカフェテリアで、オニキス伯爵令息が開始直後に言っていたアヴェートワ公爵家提供の限定スイーツ、シブーストを食べながらお茶をした。


シブーストとは、カスタードにゼラチンとメレンゲを合わせたシブーストクリームを、パイ生地の上にフルーツと重ね、表面をキャラメリゼしたものである。


「ルチル様は小さい魔石を見つけて。アズラ様にお願い事を聞いてほしいんだから」


「ダメですよ。私も聞いてほしいお願い事あるんですから」


「ルチル様は勝負関係なく聞いてもらえるじゃない」


まぁ、そうなんだけど。


「シトリン様は勝ちましたら、何をお願いされるんですか?」


「そうねぇ……婚約や結婚はアズラ様にお願いしてもどうにもならないから、ドレスでも買ってもらおうかしら」


ドレスでいいの?

てっきり結婚だと思ってた。

アズラ様も明らかにホッとしているし。


「ルチル様は、何をお願いするの?」


「いつお願いするかの期限は決めていなかったので、今は保留にして、ここぞという時に使わせてもらおうと思っています」


「シトリン公爵令嬢、勝って」


「アズラ様、酷いですね。そこは婚約者を応援するところですよ」


「……何だか物凄く嫌な予感がしたから」


休憩を終えて、あっちこっちと歩き回り、ルチルは景色の歪みが強い大食堂の椅子の裏から、3年生が隠した中で1番大きな魔石を見つけた。


アズラ王太子殿下へのお願いを勝ち取り、要らないがダイヤのイヤリングも貰った。


「ルチル嬢……魔石の場所分かっていたでしょ」


勝負後にオニキス伯爵令息に小声で言われ、えへへと曖昧な笑顔を返しておいた。

「殿下に内緒にするから貸し1で」と悪い笑顔をされた。


クラスでの販売の交代時間になりA組に戻ると、お1人様2点までとしていたのに、くみ紐が売り切れていて閉店していた。


聞くところによると、午前中で全て無くなったそうだ。

明日も朝が混雑するだろうからと、今日接客がなかった人たちは明日の午前中手伝うことになった。






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