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ルチルはずっと考えていた。
どうすれば、ヌーが周りに文句を言われないバザー品を提供できるのかと。
アヴェートワ公爵家で使わなくなった物や服をヌーに渡してもよかったが、きっと受け取ってはくれないだろう。
どうすれば受け取ってもらえるかと考えを巡らせ、ヌーに売る? でも「これいくらで買って」と言うのは後味悪いなと思った。
という時に気づいた。
ヌーは、もしも家にバザー品があったとしても取りに帰れないじゃない。
王都にタウンハウスがあれば帰れる。
でも、地方に住んでいる子たちは?
平民だけじゃなくて貴族にもいるはずだ。
その子たちは、どうするのだろう?
気になってヌーの教室E組前を彷徨いてみたが、誰が地方貴族の子なのか分からず、かと言って適当に聞けるわけもなく、すごすごとA組に戻った。
「オニキス様。チョコレートを1箱お渡ししますので、協力してほしいことがありますの」
「チョコレート1箱じゃなくて、この前殿下にしたってことをしてくれたら協力しますよ」
「ダメだ。オニキスは何を言い出すの」
「減るもんじゃないし、いいじゃないですか」
「ダメだ!」
「お話されましたの?」
恥ずかしがっていたキスを話すなんて、本当に仲がいいんだな。
「話してないよ」
話してないんかい!
「話してくれないなら体験すればと思いまして」
「ダメだって言ってるよね」
「ケチですねー。まぁ、いいですよ。チョコレート1箱で手を打ちましょう」
「ありがとうございます」
ルチルはE組がバザーをすることと、バザー品を取りに帰れない子たちはどうするのか知りたいことを伝えた。
友達が多そうなオニキス様なら、簡単に調べられるんじゃないかな。
そうであってほしい。
「調べるのはいいですけど、どうして調べたいんですか?」
言うかどうか悩んだけど、オニキス伯爵令息には話しても大丈夫だろうと、ヌーのことを伝えた。
「気持ち悪……他にも何かあれば手伝うんで言ってください」
「ありがとうございます」
その日の放課後、オニキス伯爵令息にお茶に誘われた。
アズラ王太子殿下が「2人で行こうとするな」とオニキス伯爵令息を怒り、お茶ならとシトリン公爵令嬢もカフェテリアについてきた。
「調べた結果なんですけど、今回の中心はロード・グロスヴァン伯爵令息です」
「ロード・グロスヴァン……アヴェートワ領の貴族ですわね……」
あいつかー! あのたらこ唇かー!
昔ヌーさんとシュンさんを虐めて、ミソカの手を払った奴!
忌々しい! あれから何一つ変わってないってことじゃない!
「理由は……たぶんですが、ヌーのことを好きなんだと思います」
「はい? えっと……好きならば優しくするのでは?」
「ルチル嬢、男が全員殿下みたいに、甘い言葉を吐くわけじゃありませんよ」
分かってるよ。好きだから虐めてしまうっていう小学生特有のやつでしょ。
でもね、今はもう15歳なのよ。
好きだから虐めてしまう、から卒業しててもいいじゃない。
「僕は、思ったことを言ってるだけだよ。それに、好きな相手に気持ちを伝えられない臆病者でもない」
うん、まぁ、アズラ様はスペックいいんでね。
3歳の時からグイグイだったしね。
って、今は、その頃のグイグイないな。
あのグイグイは、我儘の一種だったのかな。
「よく言うわよ。オニキスだって相当甘い言葉吐いてるじゃない」
「シトリン様、詳しく教えてください」
「シトリン嬢、言わなくていいですよ」
ルチルとオニキス伯爵令息の声が被った。
シトリン公爵令嬢は、興味無さそうにしている。
「言わないわよ。オニキスが不倫してるなんて」
は? は? はぁぁぁぁぁ!?
「言ったし……最悪……」
嘘でしょ! オニキス様は15歳!
かたや、好きな子を虐めてしまうクソガキの15歳。
かたや、不倫をしているマセガキの15歳……
こわっ! 異世界こわっ!
アズラ王太子殿下は知っていたのか、驚くことなくお茶を飲んでいる。
「ルチル嬢、俺は純愛ですからね」
純愛……不倫の純愛って、なに?
「相手は、子供がいない未亡人ですからね」
未亡人だからって、いいのかなぁ。
あたしは、前世夫より先に死んだ。
子供たちの誰かが引き取って、幸せに暮らしていてほしいと思っている。
けど、他に好きな人ができるのなら、その人と幸せになってくれてもいいと思っている。
あたしが死んだせいで、寂しい想いをさせてしまうのは辛いから。
と自分に置き換えると……倫理観的にはどうか分からないけど、未亡人とならオッケーでしょ!
家族を裏切っているわけじゃないからね。
その人も1人寂しく死ぬより、誰かの温もりがある方がいいだろうしね。
というか、一体何歳の人と付き合っているんだろ?
「何歳の方かおうかがいしても?」
「いいですよ。今年19歳、4つ上ですね」
19歳で既に未亡人? 事故で夫を亡くしたのかな?
「あら、若い方なのね。父から『オニキスは不倫しているから近づくな』としか聞いていなかったから驚いたわ」
「そんなところだと思ってましたよ。王妃殿下が俺を嫌いなのも、それが理由でしょうからね」
待って! 王妃殿下はオニキス様が嫌いなの!?
そういえば……話し合いの時、信用してないって言ってた……あれって、そういうこと?
「俺の話はいいんですよ。今はロード・グロスヴァン伯爵令息です。バザー品ですが、家に帰れない地方の人たちの分は、グロスヴァン伯爵令息が出すそうですよ。ヌーの分も出そうとしたらしいです」
「グロスヴァン伯爵令息が、今回の中心と言いましたわよね? 助けようとしているように聞こえますが」
お茶で喉を潤したオニキス伯爵令息は、落ち着いた声で話し出した。




