表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/373

10

席に着いた祖母が、頬に手をあてながら不思議そうに尋ねてくる。


「これはパンかしら?」


「あい! さんどいっちのなかまでしゅ」


「この白いのが、さっき言ってた生クリームか?」


「そうでしゅ!」


「生クリーム?」


「食べてみようか」と祖父が言いかけた時、ドアが勢いよく開いて料理長が駆け込んできた。

祖父母もルチルも、お茶を用意してくれた侍女も、肩を上げて驚いている。


「なんだ、騒々しい」


「すすすみません! ですが、感動が胸を突き破りまして!」


感動が胸を突き破るって、なんだろ?

高揚させた顔で身振り手振りしているけど、何言ってるのか分からないよ。


「タンザ様! この生クリーム素晴らしいです!」


「お前が来たから、まだ食べられていない」


自分より先に食べたのか? と、不機嫌になった祖父に気づかないほど料理長は興奮している。


「早く食べてみてください」


急かす料理長に、祖父母もルチルも1口食べた。


久しぶりー! この時を待っていたよ!

生クリームって不意に食べたくなるんだよね。

あー、滑らかで、ふわふわで美味しいよ!!

食パンの塩味と甘さ控えめな生クリームとフルーツの甘さが、いい塩梅だわ。

何個でもいけちゃう。


あっという間に食べてしまい、もう1つ手に取ろうとして、フルーツサンドを見ながら固まっている祖父母に気づいた。


あれ? 美味しくない?

でも、料理長が素晴らしいって興奮してるから、きっと美味しいよね?

もしかして、お祖父様もお祖母様も甘いモノが苦手なのかな?


不安になり、様子を窺うように見ていた。

食べかけのフルーツサンドをお皿に置いた祖父が、静かに立ち上がっている。


「おじーちゃま?」


無言のまま横に来られた次の瞬間には抱きしめられていた。


「すごい! すごいぞ! ルチル!!」


「え? え?」


「こんなに美味しい食べ物、初めて食べた! ルチルは天才だ!」


「まぁ、これはルチルが考えたの? こんなに美味しいものを作れるなんて、本当に天才だわ」


祖父に頬にキスをされ、頭を撫で回される。

もう1度強く抱きしめてから、祖父は自分の席に戻っていった。


「そうか、これが生クリームか」


食べかけを口の中に入れながら祖父が呟いた。

祖母も美味しそうに食べている。

料理長は何度も頷いている。

みんなが喜んでくれている姿が嬉しくて、褒められていることに照れて、ルチルは頬を緩ませた。


「これならば朝食で食べてもいいかもしれないな」


「そうですね。この時間だと夕食が入らないかもしれないですわ」


フルーツサンドって、意外にお腹にくるもんね。

ケーキだったらまた別なんだろうけど、フルーツサンドはパンだからな。

スポンジの作り方伝えたらケーキ頻繁に作ってくれるかな。


「料理長、これは日持ちしそうか?」


「いえ、難しいと思います。作った日に食べた方がよろしいかと」


さすが料理長。作っただけで分かるんだ。


「そうか。作るのは簡単か?」


「作るのは簡単ですが、急速冷蔵室があった方がよろしいかと思います」


「そうか……」


腕を組んで考え込む祖父に、首を傾げる。


「おじーちゃま、どうちたんでしゅか?」


「生クリームを売れればと思ったんだが、急速冷蔵室があるパン屋はあったかなと思ってな」


「ないんじゃないでしょうか。大きな冷蔵庫にしか急速冷蔵室は付いておりませんから」


「そうだよな。うちのパン屋は、どこもそこまで大きくはないからな」


新発見。

アヴェートワ公爵家はパン屋さんも営んでいる。


「バター以外に塗れて、そして甘い。朝はもちろん、小腹が空いた時にも食べられる。いいと思ったんだかな」


「おじーちゃま、なまクリームはもっとかんたんにつくれりゅでしゅ」


「お嬢様、どういうことでしょうか? 今日もとても簡単でしたが?」


「ちぼりたてのぎゅーにゅーを、れいぞうこで1にちいじょうおいとくでしゅ。そちたら、2そうにわかれりゅでしゅ。うえのトロッとちたぶぶんに、さとうをいれてまぜればできるでしゅ。そっちでつくりゅほうが、おいちいでしゅよ」


というか、それが本当の生クリームだからね。

そっちの方が濃厚で美味しいよ。

軽めの口当たりが好きな人にはホイップクリームだけどね。


「バターを作る部分か!?」


「そうでしゅ」


あの部分、なんて呼んでるんだろ?


「バター原液と呼んでたが、これからは生クリームと名付けていいかもしれないな。パン屋に作り方と共に配るようにするか」


あ! 駄目だ! 肝心なこと忘れてた。


「おじーちゃま、つくったあとはうれりゅまで、れいぞうこのなかがいいでしゅが、かのうでしょうか?」


「冷蔵庫がいいのか?」


「あい、あたたかいとなまクリームがとけちゃいましゅ」


「そうなのか。でも、見せないことには売れないだろうからなぁ」


んー?

お肉屋さんとかお魚屋さんって、どうやって売ってるんだろ?

氷で冷やしてるのかな?


「……残念だが無理だな。惜しいな」


生クリームの代わりになるものが、あればいいのかな?


「おじーちゃま、じゃむはいかがでしょ?」


「ジャム? とはなんだ、ルチル」


あれ? お祖父様もお祖母様も、そして料理長の瞳も輝いて見える。

生クリームの力は偉大だわ。


「フルーツをあまくにたものでしゅ」


「パンに塗るものか?」


「パンでもいいでしゅち、チーズやクラッカーでもいいでしゅ。それに、こうちゃにおさとうのかわりにいれられましゅ」


「それはいいな。ぜひ作ってみよう」


アヴェートワ領にはたくさんのフルーツがあるから、ちょうどいいと思う。

ジャムは保存期間長いし、瓶詰めだから領地で作ってパン屋さんに運べるもの。

うまくいったら雇用も生まれるしね。

そこまで貧乏な人は見かけなかったけど、あたしがまだ見てないだけかもだしね。


「フルーツサンドはレストランで、ジャムはパン屋で販売するか」


ええ!? レストランもしてるの!?

フルーツサンドはサンドイッチって言ったから、パン屋さんだったのかな。

そのうち、カフェも作ってもらえたら嬉しいなぁ。


料理長はこの後夕食の準備があるので、ジャムは明日、本来の生クリームと共に作ることになった。


祖父母は、お茶を飲みながら甘味の素晴らしさを話し合っている。

ルチルは余ったフルーツサンドをお茶を淹れてくれた侍女にあげたら、瞳を潤ませて喜んでくれた。

料理長に言って、お屋敷のみんなに振る舞ってもらおうと思ったのだった。




次の日の昼食後、約束通り厨房に行くと祖父とサーぺも厨房にいた。

材料と作り方を見て、今後の仕入れや商品化の手順を考えたいとのことだそうだ。


先に生クリームを作り終え、昨日のホイップクリームとの違いにみんな驚いていた。

次に、ジャムの材料と作り方の説明になった。


「なんだと? 果物と砂糖だけでいいのか?」


「あい」


「サーぺ、早急に砂糖を買い占めろ。価値が分かると値上がるからな」


「かしこまりました」


朝食の後で、先に果物に砂糖をふりかけておいてほしいと、料理長にお願いしていた。

使う果物に対して砂糖は50%~100%。

今回は、80%を用意してもらっている。


使う果物は、いちごとみかんとりんご。

ジャムの定番だ。


いい感じで果物から汁気が出ているので、強めの中火にかけてもらい、沸騰させる。

アクを綺麗に取り除きながら、焦げないよう煮詰めれば完成だ。


この少し果物が崩れてるのと鮮やかな色が、ジャムのいいところだよねぇ。

あたしは、形が崩れていないコンポートの方が好きなんだけどさ。


「お嬢様、本当にこれで完成でよろしいんですか?」


「あい、かんたんでしゅ」


「これは火に気をつければ、誰にでも作れそうですね」


「あい、あとはさましゅだけでしゅ」


消毒した瓶を用意してもらい、中に詰めた。

ジャムは瓶保管が定番だからだ。


急速冷蔵室で冷やされたジャムをスプーンで1口味見した祖父が、昨日と同じようにルチルを抱きしめて、頬にキスしてきた。

ジャムも大成功だったようだ。

今日のお茶の時間に、祖母にも出してもらおう。


祖父とサーぺは、話し合いながら厨房から出ていった。

ルチルは、自室に戻る前に「まだ時間があるなら、お屋敷で働いているみんなの分も作って配ってほしい」と伝えておいた。


ジャム用の砂糖と瓶が足りず、その日はフルーツサンドが配られ、後日使用人全員にジャムが配られた。

ルチルは歩くたびお礼を言われて、嬉しくて恥ずかしかった。


祖母はジャムを紅茶に淹れることにハマり、祖父も執務で疲れた時はジャム入り紅茶を飲むようになった。






生クリームでフルーツサンド、そしてジャムを作りました。これからも色んなスイーツを作っていきたいと思っています。


いいねやブックマーク登録ありがとうございます。とても嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
静かに立ち上がって、うぅーーまぁーいぃーぞぉぉおー!! とでも叫ぶのかとw
[気になる点] ジャムって旧石器時代からあるはずだけど、この世界の人類は猿から進化したわけではなく、神様が適当に作ったみたいな世界観なのかな 今後の伏線になってそうで楽しみ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ