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No Pitch No Out  作者: しが
3/3

3Pitch 改造計画

「何言ってんだ若僧の癖に…って思ってそうな顔してるっすね」


若僧とは思ってないけど、正直意味不明だ。

俺が最高のリリーバーになるなんてそんなバカな話。


「確かに僕はまだまだ若僧っす。高卒だし、フレディさんのお眼鏡にかなわなかったらそこらへんでフリーターでもやってたかもしれない。けど…」


彼が指を3本立て、それを折りながら選手名を出す。


「フレディ・ジャクソン、ジェイク・エバンス、ネイト・バーグマン」


「…その3人って昨シーズンドラゴンズのブルペンを支えたリリーバー…」


「全員僕がマイナーで燻っていたところで才能を見出してピッチングを改造したっす」


それを聞いて唖然とし、この青年が本物だということを確信した。

その3人全員が防御率2点台で、特にバーグマンは終盤ではクローザーを務めていた。


「き、君は何者なんだ?なぜ21歳なのにそこまでデータに詳しく、ピッチングの改造を成し遂げてしまうんだ?」


「…昔から思ってたんすよ。人は嘘つくけど、データは嘘つかないって」


彼は一瞬悲しそうな目をして、それをかき消そうとするように手を叩いて切り替える。


「さぁ、それじゃ早速行くっすよ」


「行くって、どこに?」


「決まってるじゃないすか。ブルペンすよ」




ブルペンに移動するとまた彼は話を続ける。


「僕がさっき名前を挙げた3人とあんたには共通点があるっす」


「共通点?どこに?」


「フォーシームのスピンレートが平均を上回ってるってとこっす。だから彼らはにはそれを最大限活かすためにできるだけ腕の角度を垂直に近くして投げるように指導したら活躍したっす」


それを聞いて驚いた。

俺は今までフォーシームはカウントを整えるくらいにしか使っていなかったため当然スピンレートなど気にもしたことがなかった。


「ジェレミーさんがその長い腕で横じゃなく、上で投げれば理論上100マイルだって目指せるんすよ」


「100マイル…!?」


「まぁ理論上っすけどね。やるのはジェレミーさんっすよ」


すると彼が俺にボールを手渡す。


「投げ方を指導するから、軽く覚えといてほしいっす。服が服なんで力いっぱい投げられないし」


彼の指導を偏見なしに聞いてみると凄くわかりやすかった。

シンプルかつ丁寧なので耳に入って覚えやすい。

冗談抜きで今まで出会ってきた指導者の中でも一番かもしれない。


「あんたは飲み込みが早くてありがたいっす。これをスプリングトレーニングまでに体に染み付かせておいて欲しいっす」


そう言うと彼はふらっとブルペンを出て行く。


「ん?ど、どこ行くんだ?」


「仕事終わったんで趣味で息抜きするんすよ。よけれは一緒にするっすか?」


「へぇ、気になるな。どんなことするんだ?」



「いいっすか。この子はあることから魔法少女になって世界平和を守ろうとしてるんす。その理由は自分の夢を叶えるために…」


彼はアニメ見ながらべらべらと俺にはストーリーやらを話す。


「ちょっと待て、どういうことだ?」


「あぁ、どういう経緯で魔法少女になったか説明するべきだったっすね」


「いや、そうじゃねーよ。これがお前の息抜きなのか?」


「なんかおかしいっすか?さっきもそこらへんのフィギュアとか趣味って言ったじゃないすか」


「まぁ、全然その趣味は否定はしないが…」


さっきまでの優秀なコーチが今はニヤニヤしながらアニメを見ているというあまりの緩急に頭が痛くなる。


そんなところでドアをノックする音が聞こえた。

GMだろうか?


「なんかノックされてない?」


「え、マジ?」


彼は速攻でモニター画面を野球関連に変えて、ドアを開ける。

まぁ確かにデータ室でアニメ見てるのバレたらあのGMでも怒りそうだしな…


「お疲れ様、お茶入れてきたよ〜」


が、聞こえてきたのか若い女性の声だった。

振り向くとブロンドヘアの美人が彼と話していた。


「ああ、どうもありがとうございます。いつもすみません」


おい、さっきまでの雑な敬語と声色はどうした。

野球から離れるとどんどんボロが出てくるな。


「いいのよ。気にしないで…あら、お客さんですか?」


「あ、どうも。アリゾナから移籍してきたジェレミー・ライトです」


「ああ!ニックがすごい獲得したがってたライトさん!これからよろしくお願いします」


そう丁寧に挨拶されると、正直戸惑う。

俺も女性経験は豊富ではない。

困っていると彼女は何かを思い出したような顔をして手を合わせる。


「あ、そういえばやんなきゃいけない仕事あったんだった!またね、ニック、ライトさん」


「それじゃ、また…」


駆けていく彼女をぼーっと見ている彼を見て確信した。


「お前あの人に惚れてるだろ」


「え、そんなことないっすよ。ただの職場仲間に過ぎないっす」


「じゃあなんでさっきその「〜っす」って口調じゃなかったんだよ」


「お茶飲まないんすか?」


「話逸らすな…まぁいいや、彼女は球団職員なのか?」


「ええ、職場の元気印っす。いつも明るくて、それが空回りすることもあるんすけど、そこも愛嬌があるというか」


あぁ、間違いなく惚れてるな。

口に出すと面倒だから心の中にしまっておくが…


「あと、名前はアリス・マーテル。ヒューストン・プラネッツの主砲、ケンドリック・マーテルの妹っす」


「へー……えっ?あのマーテルの?」


ケンドリック・マーテルは去年のア・リーグの打点王だ。

言われてみればあの美形な顔立ちも似てるかもしれない。


「ケンドリックの方が妹を溺愛してるらしいっすよ。だから彼女に手出したらバットで殴りかかってくるかもしれないし、惚れるもなにも…」


そんなことを話していると、またドアをノックされる。

開けると今度こそ本当にGMだった。


「ジェレミー、すまないが今日はこれで見学終了でいいか?」


「あ、はい。大丈夫ですが、何かあったんですか?」


「これからニックと重要な話があるんだ。悪いね」


ニックとの話か。

球団の方針や経営の話だろうから、それなら俺が聞くのも野暮だし大人しく退席しよう。


「帰りのガソリン代は後で出すよ。それじゃ、またスプリングトレーニングの時に」


「ええ、二人とも今日はありがとうございました」


ニックの指導や具体的な数字から俺のモチベーションは高くなった。

早速帰ったらフォームをチェックしておこう。




「どうだ?君が獲得を懇願してたジェレミー・ライトと実際に接してみて」


ジェレミーが退席すると、フレディが椅子に腰掛けて問う。


「やっぱり、ポテンシャルは高いっすよ。想像以上に飲み込みも早いし、青天井で楽しみっす。でも…」


ニックが彼との会話を思い返して少しため息をつく。


「正直冷めすぎっす。良くも悪くもプロらしくないというか」


「同意見だ。あまり闘争心が見えない。熱くなりすぎないのはいいが、冷めすぎてる」


「今は彼に具体的な数字を提示したからモチベーション上がってると思うっすけど…何か彼をもっと熱くするものがないと、多分未完のまま終わる予感がするっす」


ジェレミーを熱くするもの。

それは彼以外はもちろん、まだ彼にもわかっていないのである。

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