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 タークが二人を待ちかねていると、ちょうど扉が開いた。


「おお! マナ。無事だったみたいだな。よかったよ。んっ? ルベル、昨日どこか怪我でもしてたか? 歩き方が不自然だぞ」


 ルベルの歩き方が何かおかしい。まるで肋骨か何かが骨折したかのような不自然さだ。


「隊長、ルベルなら大丈夫です。そんな奴ほっといて任務の話をお願いします」

「そ、そうか。な、ならいいんだ。まあ、座ってくれ」


 タークは二人を席につくよう促す。ルベルは何か元気がなさそうだ。


「おい、ルベル。大丈夫か?」


 さすがのタークは罪の意識が芽生えてきた。マナに何かされたのは明白だが、怖くて聞くことができない。


「隊長、僕のことはいいんで先に進めて下さい……」

「お、おう。そうか……なんかすまんな」

「隊長っ、早く任務の話をしてください」


 マナが急かしてくる。タークはひとつ咳ばらいをして、話を進めた。


「えっと、だな。まずは昨日のおさらいからだ。マナはまだ詳しく聞いてなかったな」


 タークは、昨日のエラルの件をマナに話をする。


「そんなことがあったんですね。ということは、私が倒した魔物……名前は忘れてしまいましたが、あいつか、あいつに指示した誰かの単独行動だったということですか?」

「その可能性が高い。だが、魔物単独であれだけの数を結界内に侵入させることはまず不可能だろう。昨日ルベルが言っていたように、守護者との関りも否定はできん」


 ルベルは自分の進言が当たったことに喜ぶ場面であるが、残念ながら、とてもそんな心境にはなれそうもなかった。


「それに、守護者のミラベルが行方不明だ」

「なんですって?」


 さすがのマナも驚きを隠せないようだ。


「最後に倒されたあの人が、てっきりミラベルさんだと思っていたのに……」


 そうでもなかったようだ。


「た、隊長。ということはそのミラベルっていうおっさんが魔物を手引きしたということですか?」


 ようやく、ルベルがいつもの調子に戻ってきた。

 

「まだ、確定ではないがな。その可能性は高い。今朝、テスラとミールを本部に戻すとき、騎士団員に伝言を言づけた。あとのことは本部に任せよう。あとな、お前たち。ミラベルはおっさんではないぞ。結構若い女だ。それくらい知っておけよな……」

「知らなかった。ミラベルさんはおじさんの振りをした女だったのか」


 マナの勘違いを正すのは諦めて、ルベルが話を続ける。


「ところで隊長」

「何だ? ルベル」

「この街から、守護者がめでたくいなくなってしまいましたが、結界の維持はどうなるんですか?」


 昨日の戦いで守護者の塔にいた守護者たちは、行方不明のミラベルを除いて全員殺されてしまっていた。このままでは結界の維持に必要な魔力を注ぐことができない。


「それは、大問題なんだが、ちょっと微妙でな」

「と言いますと?」


 タークは何とも煮え切らない様子だ。


「ルベル、お前も聞いたように、エラルっていう鬼が言うには一年間は魔物を結界内に入れないことを約束してくれた。それを信じるなら、俺たちは一年間お役御免ってことになる。だが、事はそれだけではなくてな。実は分体結界の核も行方不明なのだ」

「そ、それは一大事ではないですか?」

「ああ、分体結界がないと、この地域の結界が維持できん。完全に向こうさんの言葉を信じるしかないってことになる」


 結界の守護がない状態で、魔族側の約束だけが頼りという状態だ。


「大丈夫ですよ。そのエラルっていう魔物は、名前を言って約束してきたんですよね? なら意地でも守ってくれると思いますよ」

「おいおいおい、マナ。確かに、あのエラルっていう奴は、他の魔物たちと違って信用できそうだった。だが、我々が魔族を信用して暮らすっていうのもな、ちょっと心配じゃないか?」

「確かにそうですが、手の打ちようがないですからね。仕方ないですよ」


 マナは、両手を天に向けてあっさりと答える。


「それにしても、マナ、お前が戦った場所には核は落ちてなかったんだよな?」

「はい、くまなく探しましたが、何も出てこなかったです」

「お前が倒した魔物は木っ端微塵にされていたからな、そいつが密かに持ち帰ったというのも無理があるか」

「私は木っ端微塵にはしてませんよ」

「そうだよな……って、ん? マナ、もう一度言ってくれ」

「はい、私はあいつを木っ端微塵にはしてませんよ。首を斬り落として、とどめをさしただけです」

「なっ……」


 タークは自ら調べに行って、間違いなくその魔物らしき肉片が周囲に散らばっているのを見た。


「隊長、そのミラベルっていうおっさんが、いや女がどこかに持っていったっていうのが自然じゃないですか?」

「そ、そうなるな……だが、何のために?」


 分体結界の核を持っていても何も意味がない。結界の力を弱めるためであるならば納得はできる。だが、エラルの計らいによってその意味は失われてしまった。


「隊長、その分体結界の核は、新しいものを用意できるのですか?」


 マナが、珍しく的を得た質問をする。


「ああ、急げば一年以内にはこちらに届くそうだ。だが、核を持ち出すとなると、王宮内の核の力が弱まるということ。ミラベルはそれが狙いなのかもな」


 王国全体の結界の力を弱めることが目的だとすると、ミラベルの考えている目的の規模は、相当大きなものだと考えられる。


「ところで、隊長。私たちはこれからどうしたらいいのですか? 私たちは魔物から世界を守るのが任務ですよね? このままでは、魔物と遭遇することなく一年間過ごさなければなりません」


 マナは机を叩いてタークに迫った。マナは、このままでは一年間魔物に会えなくなると思い、危機感を覚えていた。


「おお、よく言ってくれた。さすがマナだ。お前のその言葉に俺も勇気を貰ったぞ」

「いや、隊長。絶対意味をはき違えてますよ……」

「ん? ルベル、何か言ったか?」

「あっ、いえ。こっちの話です。すみません」


 ルベルがちらっと横を見ると、マナが『余計なこと言ったら殺す』オーラを出して睨み付けていた。ルベルは必死に手で口を押える。


「と言うのもな、今朝の騎士団本部からの通達で、東の要所のヘイアンの街への救援の依頼があってな。マナの言うように、このままここにいてもお前たちの仕事はない。だから、お前たちにはヘイアンの街まで行って欲しいのだ」








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