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 分体結界の核が置いている建物は『守護者の塔』と呼ばれている。その中で、守護者たちが日々魔力を注いで結界の維持に努めている。マナはその『守護者の塔』へと走っていた。魔物が街まで入ってきた。それも一体ではなく複数も。これは結界に何か問題が起きたとしか考えられない。


 『守護者の塔』の前に着くと、もうそこはいつもの『守護者の塔』ではなかった。まず、入口を守る騎士団がいない。扉の鍵も空いていた。マナは一瞬迷ったが、扉の中に足を踏み入れた。


「あっちゃー、これは酷いね」


 マナがその中で見たのは、騎士団の死体だった。しかもその体は、まるで食事のマナーを知らない子供が、食べ物を食い散らかしたような有様になっていた。


「行儀が悪い子ねー。こんなに散らかして」


 マナは警戒しながら、塔を上へ登っていく。塔は四階建てになっていて、各階には小さな踊り場と、外を除く小さな窓しか付いていない。四階だけが広くなっていて、その中心分体結界の核が置いてある。マナは、各階の踊り場で守護者の死体を横目に見ながら、四階にたどり着いた。恐る恐る中を覗くと、何者かも気配を感じた。


「誰? そこにいるのは?」


 分体結界の核の前には一人の人間が立っていた。こちらに背を向けているため、顔は分からない。ただ、静かに核の前で立ち尽くしている。


「もしかして、ミラベルさん、かな?」


 マナが恐る恐る声をかける。だがその者から反応は返ってこなかった。ただ、そのまま力なく崩れるように倒れた。


「ちっ、邪魔が入ったか」


 すると、倒れた男の中から一体の魔物が現れた。人間の体の中から出てきたとは思えないほどの大きな身体を持っていた。それは烏のような見た目の魔物だった。烏と言っても身体は人間よりも大きく、鋭い目はマナを見下ろすほどの高い位置にあった。烏の化物だ。


「あなた、何者?」


 これまで戦ってきた魔物とは桁違いの威圧感だった。


「お前は騎士団の者か。そうかあいつらはやっぱり使えなかったか。人間一人足止め出来ないとは。まあ、でも女、ちょっと来るのが遅かったな」

「確かに。ちょっと遅過ぎたわね。生き残っている守護者はもういないのかしら?」


 マナは冷静に答える。烏の魔物は、マナを威圧したつもりだったが、あまり効いていないことに少し苛立った。


「ふん、あんな奴ら皆殺しにしてやったぞ。それにしてもお前は生意気な人間だな。少しはあいつらみたいに命乞いでもしてみたらどうだ?」

「あいにく、そんな気は全くないよ」


 マナは、今にも魔物に飛び掛かっていきそうな体勢になる。


「少しは本気で遊んでやるか。ちゃんと戦うのは久々だからな。たまにはこっちの身体も動かしておかないとな」


 すると、烏の魔物の体全体が黒い妖気のようなものに覆われた。その妖気がみるみるうちに人型を形作っていった。


「なになに? 何が現れるのかしら?」


 一気に妖気が霧散して現れたのは、見た目人間のような生物だった。だが体全体が浅黒い色をしており、腕が四本と、背中には羽が生えていた。


「ははははっ、どうだ。これが戦闘形態の私だ。この空を飛べる身体と四本の腕からの攻撃に、太刀打ちできるかな? 来い、人間。魔族軍第軍中隊長のワーグマース様が相手してやる」


 ワーグマースは手を広げでマナを威嚇した。が、ワーグマースはマナの剣が自分を通り過ぎていったことに気が付かなかった。気がついた時には、マナは自分の後ろにいた。そして、自慢したばかりの自分の腕は、四本とも切り裂かれて地に落ちた。少し遅れて四本の腕に痛みが走る。


「な、なんだとっ!! 人間、貴様今一体何をした?」

「何って、普通に斬っただけだよ。ノロマさん」

「なっ!!」


 マナは先程までとは違い、殺気立っていた。


「言っとくけど、今私すっごく怒ってるんだかね。覚悟しなさいよ」


 先ほどまでの気の抜けた様子から一変したマナの様子を見て、瞬時に後悔した。相手にしているのは化物だと。


「ま、待て。お前の仲間を殺してしまったことは謝る。こ、殺してしまうことはなかったかもな。は、反省している。すまない。もう二度と同じ真似はしないと約束する。だ、だから見逃してくれ」


 ワーグマースは負けを確信していた。悔しいが勝てない。勝てないなら、自分の使命だけは果たして逃げようと目論んだ。分体結界の核はもう自分の手の内にある。これさえ持って帰れば仕事は完遂だ。


「あなた、何も分かってないわね。これだから低俗な魔物は」


 マナの殺気がワーグマースに伝わった。


「お、おい、落ち着け。大丈夫だ。街を襲っている魔物たちも引き揚げさせる。これ以上暴れることはしない」

「だから、そんなことに怒っているんじゃないのよ」


 ワーグマースは混乱した。駄目だ。話が通じていない。もしかして核を持ち出しているのがバレているのか。ダミーを置いて分からないようにしていたのが見抜かれたのか。でも駄目だ。核を置いては帰れない。手ぶらで帰ったら殺されてしまう。だがこのままでも……。


「うわっー、や、やめろー」


 ワーグマースは空へ逃げようとした。もう逃げるしかない。必死で逃げれば、万が一にでも助かる可能性がある。その万が一に賭けた。


 が、ワーグマースが羽ばたいて飛び立ったと思った瞬間、景色が反転した。羽をやられた。直感的にそう思った。だが違った。今目の前にあるのは、首がない自分の体だった。


「く、首を切られた……? ば、馬鹿な」


 目の前にマナが現れた。目は憤怒と殺気に満ちていた。マナは剣を両手で握り、ワーグマースの顔に突き刺そうとした。


「ま、待て。お、お前は何故そんなに怒っている?」


 ワーグマースは最期の瞬間に、自分が何故死ぬことになってしまったかを知りたくなった。


「守護者にアピールするいい機会だったのに……」

「えっ?! そ、それは、ど、どう言う……」

「あと烏のまま、もふもふしたかったのに……」

「えっっ……」


 ワーグマースの思考が止まった、と同時に彼は息絶えた。





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